私生児たちの成り上がり~能力と地位はなくても、お金さえあれば第四王子を国王にできます!~

天衣もの

第一話 甘星ことフォニャス・アスター

「――ということで、ぜひ甘星あまほし殿にお願いしたく……。」


「断るわ。」


「ええ!?なぜですか!?」


「傭兵にでも頼めば解決する問題でしょ?それに、殺し屋に頼むほど深刻な問題にも見えないし。入場料は無いから安心して。出口はあっち。」


 ドアを指差しながら、客を煽った。態度が悪いのは生まれつきだから、なかなか改善出来ない。


「わ、わたくしは貴様の出生を知っているのだぞ!私生児ごときが!こうして私に依頼を頂いていることに感謝しろ!」


 ギャーギャーと文句を言う老いぼれを追い出し、使い古した木の椅子に勢いよく腰掛けた。


 『甘星』は本名ではなく、活動名だ。私の本名はフォニャス・アスターという。


 どの世界でも、どんな状況であれ私生児という身分には差別と偏見が付いてくる。


 殺し屋という役職には、迷惑な客しか寄ってこない。むしろ、マトモな奴の方が珍しいくらいである。


 今日はもう依頼を引き受けないことにした。有名になった今でも、一日三件の依頼が来れば良い方だった。


 だが、依頼が来なくてもお金は意外とガッポリ稼げた。時々、貴族という太客がやって来るから。


 富豪貴族には敵が多い。貴族は浪費家の集まりで、際限なく買い漁り、お金がなくなったら富豪を妬む。


 その厄介者を抹消するために、貧乏貴族や富豪貴族は私のところに押しかけ、高いお金を払って片付けさせる。


 経済を回し、私も貴族から大量のお金を巻き上げて得をする。まさに一石二鳥だ。私は、こんなに手軽でおいしい仕事は他にないだろうと断言できる。


 まあ、それ相応の実力があればの話だけれども。


(暇だなぁ〜)


 なんだかんだ言って、仕事をするのは楽しかった。殺人は罪悪感が残るけれど、邪魔者だった私が、少しだけでも誰かの役に立てた気がするから。


 だが、どれもこれも自己満足に過ぎなかった。だって、人の役に立つと同時に、人の迷惑にもなっているのだから。


 なにもすることがないからぼーっと天井を眺めた。今にも崩れてしまいそうな、古い天井を。


 すると、不快なドアが開く音と、掠れた音しか出ない安っぽいベルの音が部屋中に鳴り響いた。


 誰かが客人としてやってきたのだ。


「今日はもう受け付けてないから。出口は後ろ。」


「王城の者です。」


「王城?」


 『王城の者』という言葉に驚き、さっと後ろを振り返り、客人を見た。体格が良く、身長がそこそこ高い男だった。


 服装は素材の良い黒一色のローブを着ていて、高級感が隠しきれていない。顔を見ようにも、フードを深く被っていてよく見えなかった。


 この身なりは使用人がこんなところで着るようなものではない。となると、この男は王族で間違いない。


 王族は、私があまり関わりたくない一族だ。なぜなら王族は現在進行形で後継者争いを繰り広げているのだから。


 王族の一人が来たのは私を利用するためだろう。自分が国王になるため、他の王子を殺す必要があるから、殺し屋である私が最適なのだろう。


「……とりあえずお座り下さい。」


 一応敬語で話すようにした。もしもこの男が今一番後継者に近い第一王子なのであれば、第一王子に向かって態度悪く接したこととなり、後々面倒なことになる。


 古い家の中で一番新しい椅子を用意し、男を座らせた。


「甘星と申します。お名前をお伺いしても?」


「第四王子のトルミロス・デ・エヴィメリアと申します。」


 第四王子となれば、殺し屋の私を利用するためという予想が大きく変わる。なぜなら第四王子は、後継者争いに一切参加していないのだから。


 第四王子と名乗る者は深く被っていたフードを後ろに下げ、私に顔を見せた。


 その見た目に、私は目を疑った。


「貴方……本当に王族?」

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2024年11月20日 06:01

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