リアーナの入学
私が学園に入学して一年が経った。
あのテラスでの会話以降、ロイド様とはあまり話せていない。
そして、今日はリアーナが入学してくる日である。
入学式には在校生も参列する。
しかし入学式が始まっても、新入生が多くてリアーナの姿を見つけることが出来ない。
「新入生代表挨拶、リアーナ・フィオール」
その言葉に私はパッと顔を上げ、壇上を確認する。
そこには、久しぶりに顔を見ることが出来たリアーナが立っていた。
「見て、新入生代表挨拶は聖女様よ」
「慈悲深く、人格者であるそうじゃないか」
「最近は領地を回って、街の人と交流も
リアーナの噂を口々に生徒たちが話しだす。
しかし、リアーナを「無能の聖女」と呼ぶものは一人もいなかった。
リアーナは私が入学する前にこう述べた。
「一年後、私も学園へ入学しますわ。それまでに、私は地盤を固めるの」と。
それはきっと私への怒りから来るものだっただろう。
それでも、リアーナは自分で「無能の聖女」と呼ばれることを弾き飛ばした。
どれほどこの一年努力したのだろう。
リアーナ。私が時を戻した8歳のあの日、貴方に言った言葉を覚えているかしら?
「私はリアーナが大好きだわ。どんなリアーナでもよ」
それはいつまでも変わらない。
リアーナがどれだけ私を嫌おうとも。
リアーナ、大切なたった一人の私の妹。
8歳に時を戻したあの日、リアーナに笑顔を向けられたことが何よりも嬉しかった。
もうリアーナは私に微笑みかけてなどくれない。
それでも、私は貴方が何処かで笑っていてくれるのならそれでいいの。
愛しているわ、リアーナ。
どうか貴方の幸せを願うことだけは許して頂戴。
入学式が終わり、私は自室に戻った。
「ティアナ様、入学式はどうでしたか?リアーナ様には会えましたでしょうか?」
ネルラがそう聞きながらも、私を心配していることが分かった。
ネルラは、リアーナがまだ私を敵視していることに気づいている。
「ええ、リアーナは新入生代表の挨拶を任されていたわ」
「そうですか・・・」
ネルラが不安が
「大丈夫よ、ネルラ。心配しないで」
「しかし・・・!」
「リアーナが悪い子じゃないことはネルラもよく知っているでしょう?」
「そうですが・・・」
その時、寮のドアがコンコンとノックされる。
「お姉様、リアーナですわ。入ってもよろしいですか?」
私はネルラと目を合わせて「大丈夫」と微笑んだ後、扉を開けた。
扉を開けると、リアーナが私に抱きつく。
「ティアナお姉様!久しぶりですわ!私、お姉様に会えることを楽しみにしていましたの!」
リアーナはそう述べて、昔のような可愛らしい笑顔で私に微笑みかけた。
久しぶりに見るリアーナの私へ向けた笑顔だった。
「リアーナ、久しぶりね。私もリアーナに会えることを楽しみにしていたわ」
「ねぇ、お姉様。久しぶりにお茶会をしませんか?実は私、家から美味しいお菓子を持ってきましたの」
「ありがとう、リアーナ。すぐに準備するわ」
リアーナとちゃんと話し合えば、昔のように戻れるかもしれない。
私はすぐにお茶会の準備をしようとした。
そんな私をリアーナが呼び止める。
「私、久しぶりにロイド様にも会いたいですわ!ロイド様もお茶会に誘ってもよろしいですか?」
「えっと・・・」
「だめですか?新入生の代表挨拶で緊張したので、前年に担当されたロイド様に感想を聞きたいのです」
あの日からあまりロイド様とは話せていない。
「駄目ではないのだけれど・・・」
「では私、今からロイド様を誘ってきますわ!お姉様は先にテラスへ行っていて下さいませ!」
そう述べて、リアーナはすぐに私の部屋を去って行った。
リアーナに言われた通りに、私は先にテラスに向かって準備を進めていた。
そこにリアーナとロイド様が現れる。
「お姉様!ロイド様を連れてきましたわ!」
久しぶりにロイド様の顔をしっかりと見れた気がした。
「ティアナ、お茶会に誘ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ来て頂いて嬉しいですわ」
リアーナとロイド様が席に座る。
「ロイド様、私の代表挨拶は見て下さいましたか?私、しっかりと出来ていたか不安で・・・」
「リアーナ嬢、大丈夫だよ。素晴らしい挨拶だった」
リアーナとロイド様が楽しそうに会話をしている。
私は相槌を打つことしか出来ない。
「お姉様、大丈夫ですか?体調が優れないように見えるのですが・・・」
「大丈夫よ、リアーナ。心配してくれてありがとう」
「私が無理にお茶会に誘ってしまったから・・・お姉様、ごめんなさい!部屋で戻って休んで下さい!」
そうリアーナが述べると、私の手を引いて私をテラスから連れ出す。
ロイド様が私を心配して引き止めようとしたが、リアーナは止まらない。
しかし、テラスから離れた場所でリアーナが急に立ち止まった。
「お姉様、ありがとう御座います」
「え・・・?」
「私一人では、まだロイド様は誘いに乗って下さらない。だって、お姉様の婚約者ですもの」
「お姉様、私もう『無能』ではないのです。私、とっても『優しくて良い子』と言われるようになりましたわ。それにロイド様と同じく代表挨拶まで任されました」
「お姉様、知っていますか?王家の一部から私の評判が上がったことにより、ロイド様の婚約者を私に変えないかという声が上がっているそうです・・・能力を一切持っていないお姉様より、私の方がロイド様にお似合いでしょう?」
リアーナはそれだけ述べると、私を置いてテラスに戻っていった。
リアーナは私がロイド様の婚約者である限り、私を憎んでいる。
しかし、リアーナは知らない。
ロイド様と結ばれるのは、リアーナであることを。
「皮肉なものね」
そう呟いた自分の声が、耳に残った。
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