クルト領への視察1

リアーナが入学して数ヶ月が経った頃。


「どうしてこんなことになったのかしら・・・」


「ティアナ?」


「あ、いえ・・・なんでもありませんわ」


私はロイド様とリアーナ、そしてヴィーク様と共にある領地に視察に来ていた。




どうしてこんな状況におちいったのか。




時は数日前にさかのぼる。




ある日、私とロイド様の元に王家から手紙が届いた。



「ロイド・エルホルム及びティアナ・フィオールにクルト領への視察を命じる」



王家からの手紙によると、毎年王家が行っているクルト領への視察を今年はロイド様と私に任せるという内容だった。


そして、王家からの要望はもう一つ。


「リアーナ・フィオールの視察への同行を命じる」


王家の目的としては、聖女であるリアーナの名声を高めておいて損はないと判断したらしい。


では、何故ヴィーク様まで視察に同行することになったのか。


私とロイド様がクルト領に視察に行くと知ったヴィーク様は少し考え込んだ後、微笑んだ。


「ティアナ嬢、私も視察に同行しても良いだろうか?」


いくら大々的なものではないといえ、ヴィーク様を王家より頼まれた視察に連れて行くつもりなどなかった。


しかしヴィーク様はそう仰った後、私に耳打ちしたのだ。



「ティアナ嬢が公爵家を出ようとしてること、ロイド様にバラしてもいいの?」



「っ!」



ヴィーク・アルレイドという人物は、どうやら私が思うよりも手段を選ばない人物だったらしい。


ヴィーク様に半ば脅された私はロイド様に許可を取り、ヴィーク様の同行を許した。


ロイド様は私の焦った顔を見てヴィーク様の同行を許可されたが、私とヴィーク様の関係をより気にしていらっしゃるようだった。


そんな経緯を経て、私達四人は現在同じ馬車で揺られている。


「ロイド様!もうすぐクルト領に着きますわ!」


リアーナが嬉しそうにロイド様に話しかけている。


「ああ、今回はリアーナ嬢まで視察に着いてきて貰うことになって悪かったね」


「大丈夫です!私、お姉様とロイド様と一緒に居られることがとても嬉しいのです!」


「そう言ってくれると嬉しい」


ロイド様がリアーナに微笑む。


その光景が前の人生で見た光景と重なり、胸が苦しくなった。



「なるほどね」



ヴィーク様が急にそう仰ったのを聞き、私はヴィーク様の顔を振り返る。


「ティアナ嬢は、存外顔に出やすいみたいだ」


「ヴィーク様、どういうことですか?」


「なんでもない。可愛らしい所もあるなと思っただけだよ」


すると、ロイド様が突然立ち上がった。



「ヴィーク・・・!」



「ロイド殿下、馬車で立ち上がっては危ないですよ?」


わざとヴィーク様がロイド様を挑発するような声で言葉を発する。


「ティアナは私の婚約者だ・・・!」


「分かっていますよ。ただあまりにもティアナ嬢が可愛らしかったので、声に出してしまっただけです」


「っ!」


ヴィーク様も王族でいらっしゃるロイド様にこのような言い方をすれば、不敬に問われてもおかしくないことは分かっているだろう。


ましてやヴィーク様が欲しいのは私ではなく、フィオール家との繋がりのはず。


何故このような物言いをするのか分からない。


「ヴィーク様!ふざけるのも大概にして下さい!」


「分かったよ。ティアナ嬢に嫌われるのは困るからね」


ヴィーク様はそう仰って、何故か私と目を合わせる。


ヴィーク様の考えていることが分からない。


そんなヴィーク様と私の様子をリアーナがじっと見つめている。


その時、馬車の扉が開いた。


「皆様、クルト領に到着いたしました」


ロイド様の従者はそう述べると馬車から離れていく。


私とロイド様は、先にクルト寮の領主に挨拶へ向かった。


その後ろでリアーナとヴィーク様が何やら話をしているようだった。


「ヴィーク様」


「どうした?リアーナ嬢」


「ヴィーク様はティアナお姉様が好きなのですか?実は、私もロイド様が・・・」



「・・・だから協力しないか、と?」



「あら、そんな下品な言い方はやめて下さい。誰でも好きな人と結ばれたいものでしょう?」


「リアーナ嬢、悪いが私は興味のあるものへは自分で近づきたいんだ。だから協力はしない」


「そうですか。では、お互い頑張りましょう?私はヴィーク様の幸せも願っていますわ」


後ろを振り返ると、リアーナがヴィーク様に微笑んでいるのが見えた。


二人は何を話しているのだろう?


「ティアナ、どうかしたかい?」


「なんでもありませんわ、ロイド様」


私がそう誤魔化すとロイド様は私の肩を引き寄せ、そっと耳打ちした。


「ヴィークに興味を持たないでくれ。つい口を塞いでしまいたくなる」


私は真っ赤な顔でロイド様の顔を見上げる。


「そう、その真っ赤な顔は私だけのものだ。ヴィークにも、他の誰にも見せては駄目だ」


ロイド様がそう仰って、嬉しそうに微笑んだ。

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