一生、君を大切にすると誓おう《婚約記念パーティー》

ロイド様との婚約が決まった3ヶ月後、私達の婚約記念パーティーが開かれた。


会場に入る前の控室で、ドレスに着替えた私をロイド様は訪ねていらした。


「ティアナ嬢、入ってもいいだろうか?」


「ええ、大丈夫ですわ」


私のドレス姿を見たロイド様が嬉しそうに微笑む。


「とても綺麗だね。誰にも見せたくないくらいだ」


ロイド様の甘い言葉に、心を乱されないように私は深呼吸をしてからお礼を述べた。


「ねぇ、ティアナ嬢。私達は婚約を交わしたのだから、これからは『ティアナ』と呼んでも良いだろうか?」


「構いませんわ」


前の人生でも、ロイド様は婚約後から私を「ティアナ」と呼んでいた。


「ティアナ」


「どうされました?」



「君はこれからは、もう私の婚約者だ。他の者に目を向けてはいけないよ」


「ただ・・・」



ロイド様が私に深く頭を下げた。


「王家の決定をくつがえすことが出来なかったとはいえ、君の了承を得ずに婚約を決めてしまったことは本当にすまなかった」


「ロイド様のせいではありませんわ」


ロイド様の誠実でいらっしゃる所が大好きだった。


しかし、そんな誠実なロイド様は私を捨ててリアーナを選ぶ。


それほどまでに二人は惹かれあっていたのだろうか。


ロイド様は頭を上げて、私と目を合わせる。



「ティアナ、一生君を大切にすると誓おう」



ドッと心臓が早くなるのを感じた。


ロイド様は、前回の婚約パーティの時もそう仰った。


そして、こう続けるのだ。




「「どんな決断を下そうとも、私は生涯ティアナの味方だ」」




ぴったりと前のロイド様と重なった目の前のロイド様。


その言葉を、今の私は信じることなど出来ない。


「ティアナ、会場に向かおうか」


ロイド様が差し出した手に、私はそっと手を重ねた。



婚約記念パーティーが、今始まろうとしていた。




「ティアナ様、この度のご婚約誠におめでとう御座います」


「ティアナ様とロイド様は本当にお似合いですわ」


「どうか二人で、ヴィルナード国を守ってくださいませ」



パーティーの参加者が次々と私たちに挨拶に訪れる。


私たちが一通り挨拶を済ませると、リアーナが近づいてきた。


「ロイド様、そしてお姉様。この度はご婚約おめでとう御座います」


可愛らしい笑顔でリアーナはそう述べた。


「リアーナ嬢、ありがとう。今日は楽しんでいってくれ」


「はい!今日は記念すべき日ですもの!リアーナもとても嬉しいですわ!ね!お姉様!」


その瞬間、リアーナが私に近づき、「わざと」ぶつかった。


「わざと」だと気づいたものは、私一人だった。


私は手に持っていたグラスを落としてしまう。


ガチャン、と大きな音がなり会場の視線がリアーナに集まった。


「ごめんさない!お姉様!」


すぐに会場のウェイターが近づき、新しいグラスを持ってこようとした。


「これ位、大丈夫ですわ」


そうリアーナが述べると、リアーナはグラスにそっと手をかざして能力を使った。


リアーナの周りが淡い光に包まれる。


リアーナはグラスを元通りに戻した後に、美しく微笑んだ。



「なんて美しいの・・・!」


「まさに『聖女』そのものではないか」


「数時間しか戻せないといえど、素晴らしい能力だ」


「それにティアナ様のグラスのために能力を使うなんて、素晴らしいわ」



会場から口々に感嘆の声が上がる。


リアーナはその後、沢山の人々に囲まれながら微笑んでいた。


リアーナの考えていることが分からない。


「ティアナ?」


ロイド様が心配そうに私の顔を覗き込んでいらっしゃる。


「何でもありませんわ・・・」


私はそう誤魔化すことしか出来なかった。


その後、パーティーの日からリアーナは自身の能力を「周りの人のために」使った。


自身の能力を他人のために、惜しみなく使うリアーナは尊敬の眼差しを向けられるようになった。


リアーナは「無能の聖女」ではなく、「慈悲深い優しい聖女」と呼ばれるようになった。


私とロイド様の学園への入学が近づいてきた頃、リアーナが私の部屋を訪れこう述べた。



「一年後、私も学園へ入学しますわ。それまでに私は地盤を固めるの」



「リアーナ・・・?」



「学園で待っていてくださいませ、お姉様。ロイド様は私のものですわ」



窓の外は大粒の雨がしきりに降っている。


不穏な気配を感じたまま、私の学園への入学はもう目の前まで迫っていた。

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