第5話




「それでは私が魔法で見たことをお話します。所々思い出しながらになるのでそこはご了承ください。」

「うむ、よろしく頼むぞ。」




 ――――――




 まずは一番最初の話ですね。あの本はとある大学で創られたものらしいです。その大学の名前はミスカトニック大学。アメリカのマサチューセッツ州、アーカムにある大学だそうです。私はその大学を詳しく知りませんが……まあおそらく詳細は店長が知っていると思います。ほら、頷いています。

 それでどうして創られたかと言うと、たまたま黄衣の王の初版が手に入ったからだそうです。狂気を広める本を複製するのは理解できませんが、黄衣の王の初版はかなり珍しいものらしく、会う人皆が写本に乗り気でした。そこで創られたわけですが、しばらくはミスカトニック大学の図書館に禁書として仕舞われていました。

 しかしごく最近、と言っても2,3年ほど前ですか。当図書館で火事あったんです。幸いすぐに消火は済んだんですが、火事場泥棒がいまして、黄衣の王とその他いくつかの禁書が持ち出されたのです。その犯人は……ええと、確か准教授と呼ばれていたと思います。すいません、名前まではわかりませんでした。

 そこから黄衣の王と禁書達は准教授の地下室に保管されることになりました。程なくして、1週間だったでしょうか。それぐらい経った時に、2人、いや3人でしたか。来客がありました。どうやら准教授が不在の間に泥棒が入ってきたようなのです。准教授は図書館から持ち出した泥棒なのにそこにまた泥棒が入るというなかなかに面白い状態になっていますね。准教授にとっては禁書の狂気に取り憑かれての行為だったので、せっかく盗み出したものをまた盗まれてたまったものではなかったでしょう。

 泥棒に盗まれた私達……失礼しました。黄衣の王視点で過去を見たので間違えてしまいました。それで、泥棒に盗まれた禁書を含んだ大量の本は1日も経たずに船へと載せられることになってしまいます。その後はいろいろな国を周りました。どの国にも短期間しかいませんでしたから、ここにたどり着くまでに地球は2周したんじゃないでしょうか。

 最終的に東南アジアの何処かで古書屋に買い取られ日本へ来たわけです。その後はオオトリ様に買い取られここに至りました。ふぅ、ご清聴ありがとうございました。




 ――――――




 パチパチパチ。店長の拍手が広い部屋の中に響く。オオトリは腕を組んで目をつぶり、繰り返し小さく頷いている。なんだろうこの空気……おかしいな?


「はい、ひなさんありがとうございました。オオトリ様はどう思われました?」


 オオトリはゆっくりと目を開け1つ、息を吐き顔を上げます。その顔は満足げな表情でした。


「ありがとう。とても興味深い話だった。この世にはまだ不思議なものが満ち溢れているのだな。」

「ありがとうございます。」


 満足していただけたようで、初めての魔法の仕事だし失敗しなくて良かったです。肩の荷が下りる。


「それでは依頼完了ということで、依頼料振り込みの方をよろしくお願いします。それで買取ですがこの書類を見ていただけますかね。」

「ほう、どれどれ……。」


 ん? 今店長どこから書類出したんだ? 確か来るとき私も店長も何持ってなかったと思うんだけどな。まあ、店長が不思議なのはこれに限ったことではないか。買取の話ももうまとまりそうだし仕事もこれで終わりか。……いつもの取引は私が書類整備していたから暇だな。突発的に買取の話が生えてきたこともあるけど、魔術書の相場なんて事前に調べないと私にはわからないからしょうがないんだけど。


「……ありがとうございました。では、後日受け取りに向かいますが、封印処理だけ今させていただきます。では。」


 またもや店長がどこからかテープと箱を出して、『黄衣の王』を封印していく。あのテープと箱は魔法店の特殊封印処理用具で、私も何回か使ったことがある。大体どんなものでも完封できるから、あれさえ持ってたら封印がすごく楽になって便利なんだよね。何でも店長と昔なじみが協力して作ったとか言う特注品らしいよ。


「これで封印処理は終わりです。万が一他の人に見つかる可能性があるかも知れませんので厳重に保管しておいてください。」

「あいわかった。金庫に仕舞っておく。それで、予想以上の働きをしてくれたもんだから依頼料に多少色を付けとこう。」

「それはありがとうございます。」

「そういえば、お主らはパーティに参加はせんのか?」


 あっ! そういえばパーティのことすっかり忘れてた! せっかくドレスまで着てきたのに忘れて帰ったらもったいない。チラリとこちらを見る店長の視線にコクリと頷く。


「そうですね……、折角ですし参加させてもらいましょうか。」


 オオトリは大きく頷いた後、パンパンと大きく手を鳴らす。すると、すぐさま使用人が駆けつけオオトリと話し始める。ん? 店長が近づいてきたな。


「仕事が終わった直後に済みませんが、明日黄衣の王の受取をよろしくお願いしますね。」

「あっ。……解りました。」

「そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないでしょう。」


 だって嫌なんだもん! 今からパーティで楽しむところなのに仕事が増えるのは誰だって嫌だと思うな。


「何じゃ、またコントでもしておるのか。用意が整ったから使用人について行ってくれ。すでに始まっとるから自由にしてもらって構わん。それじゃあ楽しんでくれ。」


 そう言うと使用人が扉の方に立ち、私達を待っている。


「行きましょうか、店長。」


 こんな機会なかなかないから楽しむぞ〜。

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