第3話




 店長が扉を前に振り返り、ドアノブに手を掛けながら聞いてくる。


「さて、用意はできましたか?」

「んー、まあまあ。」

「ふむ、では大丈夫ですね。では行きましょうか。」


 無情にも店長が扉を開けてしまう。ああ、ちゃんと魔法を使えるか心配だ。でもやるしかない。練習を思い出すんだ。一応ちゃんと使えていたはず。


「立ち止まってどうかしましたか? 一応時間に余裕はありますが、早めに行きましょう。魔法店の信用に関わりますので。」


 本当に緊張する。失敗しないかな? いや、こんなにウジウジやってたって無駄か。もう良いか、成るように成れ、当たって砕けろだ。頬をぱちんと叩く。よし、頑張るぞー!




 ――――――




「おお〜、大きいな。」


 扉をくぐった先は映画でしか見たことがないような大屋敷だった。後ろを振り向くと店長が扉を閉じているところだった。うん、ちゃんと扉は消えたね。

 しっかし、ほんとに便利だねー、あの扉。ど◯でもドアみたいだ。でも店長曰く、原理が全く違うそうだ。なんだけれど私には見ただけではわからないし、しかも店長にしか使えないんじゃどこ◯もドアと対して変わらないんだよね。

 ちなみにあの扉は店長がつくったものらしい。本当に何でもできるよね、店長って。あ、そうだ。


「店長?」

「なんですか。」

「あの扉私にも使えるようにしてくれない? 店に戻る手段があれしかないからいちいち店長に頼るのも大変だしさ。」


 そうなのだ、魔法店はあの扉を通してからでないと入れない。何でもあそこは比較的に安全な異空間? 異次元? らしくてそこに魔法店をつくったらしい。でも、あそこには窓がないし、外に行くときも扉を通過するだけだから異空間って感じはほぼない。

 そもそも比較的安全な異空間って何? って前店長に聞いたら何でも異空間とか異次元にいる存在を狙う猟犬とやらがいるらしい。安全なところではその猟犬とやらに見つからないんだそうだ。

 あと、えいかくの猟犬に気取られますからって言ってたんだけどえいかくってなんだろうね?


「ふむ……良いかも知れませんね。魔法も今回の件で使えるようになりましたし。今度教えましょう。」

「ありがとう。」


 やった! これでゲームをいっぱい買い込める。あと、自分の身体探しを本格的に取り組むことができる。一年間全く情報が入ってこないし本当に何処に行っちゃったんだろう、私の体は。


「ただ、外出する際は気をつけてください。今の貴方のは色々面倒なんですから。」

「分かってる。」


 この体が複雑な状況に置かれていることは本当に身にしみて分かっている。

 だって私吸血鬼だし! 別に吸血衝動とかあるわけじゃないから自由に行動しても構わないんだけど、この世界においては少々貴重な存在何だよね。まあ、ヴァンパイアハンターなんてものがいるくらいだし。

 ついでに今の私は戸籍がないし。何よりまずいものは……、ちらりと右足を見る。今ではほぼ気にはならないけど私の右足は機械鎧になっている。まあ昔色々合ったのだけど、これが見つかると本当にまずい。なんたってこれは店長もよくわからないとか言うオーパーツ的な代物なのだ。いつの間にか店の在庫の中に紛れ込んでいたとか聞いたけど、おそらく世界に1個しかないと思う。まあそんな感じでヤバいことづくしなのだ、この体。


「ちゃんと気をつけるよ。」

「本当にそうしてください。ひなさんは大切な魔法店の従業員なのですから。」


 すごい貴重な機械鎧を貸してくれるぐらいだし、大切に思われているのは感じているんだけど、なんだかそう言われると少しこそばゆいな。うん、ちゃんと自分のことは大切に扱うとしよう。


「さて扉の痕跡の隠蔽も済みました。そろそろ行きましょう。」

「分かった。」




 ――――――




 屋敷の門の前まで進むと見るからにお金持ちな2,3人が入る手続きをしていた。うん、お金持ちって分かるけどギラギラしすぎてないって分かる上品な感じの服装だ。こういう人は嫌いじゃない。私ながら勝手な感想だなぁ。

 店長と私はその人達の後ろに並ぶ。ちなみに店長はタキシード、私はドレスを着ている。やっぱり店長はすごいんだけど、私の控えめなドレスって要望を完璧に反映した淡い藍のドレスだ。しかも機械鎧の偽装もバッチリ。流石に触られたら分かるけどそんなことする人はいないでしょう。

 おっと前の人の手続きが終わった。まあ私は静かにしてたら良いかな。


「ええと、お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」

「いえ、私達はオオトリ様に会いに来ました。」

「ああ、そちらの方ですか。少々お待ち下さい。案内の用意と旦那様への連絡をいたします。」


 穏便に進みそうで何よりだ。やっぱりこういうところでトラブルに巻き込まれるのはフィクションだけなんだろうね。


「ではこちらへどうぞ。」


 案内役が出てきて先導してくれる。さて、そろそろ切り替えてちゃんとしましょうかね。前も思ったけど、普通のときと仕事のときとそんなに違って見えるのかな? まあ、私はやるべきことに集中して自分の仕事をこなすだけだ。

 でも成功するかやっぱ心配だなぁ……。

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