第4話 ブルースクリーンは突然に
ブルースクリーンは突然に
「ふみぃ。ねむぅ。」
近隣の喫茶店で少し多めのランチを平らげた私はしっかりとデザートのアイスまでお腹に入れてしまった。
おかげで今は満腹である。
満腹の代わりにこみあげてくる眠気。
眠気と戦いながらも、午後の業務に取り掛かろうとパソコンの画面を開いた。
プルルルルルル。プルルルルルル。
「はぁい。麻生ですぅ。」
寝ぼけ眼のまま、私は電話をとる。
「ははは。眠そうだね、麻生さん。」
「あ、高柳さん。」
電話の相手は同じオフィスにいる営業の高柳さんだった。
同年代ということと営業という職種がらかとても話しやすい人だ。
「今から麻生さんの眠気を吹っ飛ばしてあげるね。」
「えっ……。」
高柳さんはにこやかな声で私に告げた。
「さっきからね、パソコンの画面が青くなっちゃってるんだよ。青地に白い文字でエラーなんちゃらって書かれてるんだけど。どうしたらいいかな?」
「えっ……。今からそちらに伺いますっ!」
「うん。よろしくー。」
高柳さんの楽しそうな声とはかけ離れた内容の言葉に私の眠気が一瞬で吹き飛んだ。
青地に白い文字のエラー画面だなんて、それ、ブルースクリーンじゃん。
パソコンに致命的なエラーが発生した時に表示される画面ではないか。
もしかすると、パソコンが起動しない可能性もある。
その場合は、高柳さんようにパソコンを早急に用意しなければならない。
私は急いで席を立つと安藤さんに営業部に行ってくると声をかけた。
「毎日なにかしらトラブルが起こるよね。行ってらっしゃい。」
「はい。行ってきます。」
☆☆☆☆☆
「高柳さんっ!お待たせいたしました!」
「ごめんねー。忙しいのに。」
「いいえ。仕事ですのでっ!」
高柳さんがスマートフォン片手に私に椅子を差し出す。
「じゃあ。よろしくね。オレ、ちょっと客先に電話しなきゃだから。」
「はい。わかりました。」
私は高柳さんのパソコンを見る。
そこには青い画面に白い文字でエラーの内容がかかれていた。
「自動修復でパソコンを修復できませんでした……って。あーもうっ!再起動繰り返してるじゃんっ。」
このメッセージが表示されるときは、パソコンのハードが故障している可能性がある。
内部記憶装置が故障していたら最悪パソコンの内部のデータがすべてすっとんでしまう。
私は原因を調べることにした。
「こういう時は、マウスとキーボードとモニター以外の接続を全部外すっと。」
プチプチとパソコンから伸びた線を取り外していく。
まずは最低限必要な、マウスとキーボード、モニターを取り外してパソコンが起動するかを確認する。
起動すれば、取り外したものが影響してブルースクリーンになったと考えられるだろう。
「どうかこれで起動してちょうだいっ!!」
祈るように私はパソコンの電源を入れた。
しかし、パソコンにはしばらくするとブルースクリーンが表示される。
「……ダメだったかぁ。もう一回、もう一回スタートアップ修復を……」
ダメもとでもう一度スタートアップ修復をおこなってみるが、やはり改善はしなかった。
「うぅ……。これはもしかして本格的にパソコンがご臨終になられたのかな。」
唇を噛みしめながら真っ青な画面を寂し気に見つめる。
起動しなければパソコンを入れ替えなければならない。
データのバックアップってとってあったっけと不安に駆られて視線を彷徨わせる。
「あ、セーフモード!!セーフモードがあったよね!」
一つの希望の光セーフモード。
なんらかの常駐システムが影響している場合、セーフモードで起動すれば起動できる可能性がある。
セーフモードで起動して影響していると思われる常駐システムを停止してしまえば、パソコンは起動するはずだ。
そう思ってセーフモードを試してみたが、やはりパソコンは立ち上がらなかった。
「うう……これって……。」
「どう?直った?」
と、そこに高柳さんが客先との電話を終えて戻ってくる。
「す、すみません。まだ直っていません。最悪パソコンの入れ替えになるかもしれません。あの……差し支えなければ直前にされていたことを教えていただけませんか?」
「客先に電話してたけど……?」
パソコンでしていた直前の作業を聞きたかったのに、高柳さんが直前におこなったことを不思議そうに教えてくれた。
どうやら私の質問内容があやふやだったらしい。
「あ。いえ。画面が青くなる直前にパソコンをなにか操作しましたか?」
「ああ。うん。そういうことね。そうだなぁ。たしか、アップデートが完了したから再起動して欲しいってメッセージが表示されてて、そのメッセージに従ってパソコンを再起動したかな?」
「あ……。もしかして、OSのアップデートですか?」
「ああ。確かそんな感じだったような……。」
「ありがとうございます。えっと、OSのアップデートが原因なら復元ポイントからの復元でなんとかなるかも……。」
私はパソコンを操作して、直近の復元ポイントを使用してパソコンを復元させる。
復元ポイントからの復元は正常に動作しそうだ。
ホッと息をつく。
パソコンの入れ替えはこれで避けられる……はず。
そう思いながらパソコンの画面をジッと見つめているとOSの起動が終了し、IDとパスワードの入力画面が表示された。
「よかった。復旧したみたいです。ログインしてみてもらってもよろしいでしょうか。」
「ああ。ありがとう。……うん、問題なさそうだね。」
「どういたしまして。こちらこそお手間を取らせてしまってすみませんでした。」
「ううん。直してくれてありがとう。助かったよ。」
そうして、高柳さんのパソコンが復旧したことに胸を撫でおろしながら情報システム部の部屋に向かった。
プルルルルルル。プルルルル。プルルルルルル。
情報システム部の部屋からは電話の呼び出し音が鳴り続ける。
おかしい、安藤さんは部屋の中にいるはずなのに、なぜ安藤さんは電話に出ないのだろうか。
不安を抱えながら私は急いで情報システム部の部屋のドアを開けた。
部屋の中には安藤さんはいなかった。
「……どこにいったんだろう。安藤さん。」
そう思いながらも鳴り響いている電話に出る。
「はい。情報システム部の麻生です。」
「ああ!やっと電話にでた!!大変なんだよ。パソコンが青い画面になってしまって。ああ、うちの事業所のパソコンの過半数が青い画面に……。」
「えっ……。」
電話の相手は九州営業所の未來さんだった。
そう。今回の問題はOSのアップデートに起因するもの。
つまり、高柳さんのパソコン1台だけがブルースクリーンになっただけで済むわけがなかったのだ。
部屋にいない安藤さんはきっと他の電話でパソコンがブルースクリーンになるとでも呼び出されたのだろう。
九州営業所まで出向くと片道2時間30分はかかる。
ここは、電話でパソコンの操作方法を教えて現地の人たちに操作していただくしかない。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
結果として社内のパソコンの約半数がブルースクリーンになったのだった。
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