第3話 天道宮殿
9月3日深夜。大日本帝国。東京都。千代田区。皇居地下。
そこには、コンクリートで覆われる広大なトンネルがあった。
国家が危機に直面した場合の、皇族専用の避難経路の一部になる。
複雑に入り組んだ迷路の最果てには、土蔵造りの建物が存在していた。
――天道宮殿。
緊急時に皇族が、政務と生活を両立できる場。
外側は和風で、内側は洋風の和洋折衷のデザイン。
その裏手には、鳥居と和風の大門がそびえ立っていた。
地下の構造上、行き止まりとなっており、先は存在しない。
「……」
そこに足を踏み入れたのは、長い銀髪の少女。
白銀色の瞳、尖った耳、ピンク色を基調とした着物。
布地には格式高い模様が描かれ、白色の下駄を履いていた。
「ご足労願いますよ、帝。大人しくするなら、悪いようにはしないんでね」
その背後に歩み寄ったのは、金髪の黒スーツ姿の男性。
針鼠のような髪型で、シャツを着崩し、ネクタイはつけない。
軽薄な見た目に反し、衆議院議長を務めていた男の名は、霧生卓郎。
――後ろには、少数精鋭の鬼を引き連れていた。
目的は国家転覆。その先に見据える悪事は分かりかねる。
ただ、帝という地位についた以上、誘拐されれば、実現する。
【火】の概念が消え、治世がままならぬ今、最悪の追い打ちとなる。
(…………腹をくくるしかないようですね)
少女は首元に手を入れ、ネックレス用の紐を手繰り寄せる。
目的は、紐の先についている装飾品。皇位継承の証となる物体。
9の字の形状で、色は緑、三種の神器のうちの一つと数えられる国宝。
――
岩戸に籠った
天照大神は皇室の祖先で、直系血族に継承されてきたのが、歴史。
――ただ、真実を知る者は極めて少ない。
「神は死んだ。もういない」
黄金色の瞳を輝かせ、帝は等身大の口調で語る。
経緯も背景も一切語られず、発動するのは反転の魔眼。
神話級の触媒を通じてのみ、コントロールを可能とした異能。
――効果は、口にした願いの反転。
・死を望めば、相手は生き返ることになる。
・多世界解釈を望めば、世界は単一化される。
・多言語を望めば、世界共通の言語が生まれる。
反転した願いは、世界を捻じ曲げ、人々の意識を改変する。
範囲に制限はなく、心の底から思ったことであれば必ず反転する。
「天孫降臨……。天降り……。おいおいこいつは傑作だ。帝の正体は……」
開かれた大門の奥を見た霧生は、出生を察していく。
しかし、続く言葉が語られるはことなく、後光に照らされた。
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