23.鎮魂詩<<レクイエム>>

「ああ...ハッキングが終わったの。シャルル...。」


船が急旋回を始める。乗客たちは慌てふためいて滑らないようにしがみついていたが、私にはそれが作戦の終了を表していたため安心した。世界を救うほど大層なものではないけれど、きっとここにいる人たちは救われたことでしょう。


『聞こえるか、ララ...。』


その声はタイガだ。嗚咽やシワシワ声で酷い声だ。


『あはははっ。タイガ、酷い声よ。作戦は成功だよね。』


『シャルルが死んだんだ。』


え...どうして、どうして。作戦は成功なんでしょ。なら生きてなきゃおかしいじゃない。生きてお祝いしなきゃおかしいじゃない。


『えっ、な、なんでよ。作戦は成功したんでしょ。』


『そこからは俺が説明する。ササキは錯乱しているため、しばらく大人しくさせるぞ。


彼はハッキング中、何者かに背後から鈍器で殴られた。我々も回復を試みたが、既に死んでいたため効果が無かった。本来ならばCMFJ作戦が成功する道理は無いはずだが、様々な偶然が同時に発生し、まるで奇跡のような成功を彼は至らしめた。』


居ても経っても居られない。すぐに管制室に向かってすべてを確認したい。悪い冗談だと思いたい。


そう思ったら、もう足は動いていた。誰にも私を止められない。止めさせてなるもんか。


「あ、コラ。悲しいのはわかるが、急に持ち場を離れるな。」


そんな言葉が聞こえたような気がしたが、知らないよそんなこと。


一心不乱に走って、走って、走って。気がついたらもう管制室の前に着いていた。私は覚悟を決めて入れば、すぐ前に座り込んでいるタイガと、大の字で寝ているシャルルが。


「ああ...ララ。来たのか。ほら、シャルルだ。」


「もう、シャルル。こんな床で寝てたら腰を痛めるよ。ほら起きて。」


「無駄だぞ。」


でも、身体は暖かい。死んでいるはずがないじゃない。心臓の音だって、ほら、聞こえるじゃない。


「身体は生きていた。コイツは俺たちに親睦会で語っていた通り、不死になったんだ。」


「だったら、尚更おかしいじゃない。」


「脳死なんだよ。脳は鈍器で思いっきり殴られて、ほぼ即死だ。コイツは永久不滅の植物状態になったんだ。」


そんなの、死よりも救われないよ。可哀想なんて言葉じゃ全然足りない。私が流している涙も、こんなちょっとじゃ全然足りない。


「お前はシャルルのこと、いやに気に入っていたな。むしろ恋愛的に好き、まで行ってたんじゃないか。それはシャルルも例外じゃなかったみてえだ。これを見ろ。シャルルの懐から出てきた写真だ。」


それは、私たち3人が出会ったときに撮った、親睦会の写真。わざわざ面倒なアップロードや現像までして、残しておきたかったという証拠。私たちが撮ったのは、この写真こそ最初で最期だった。もう彼は居ないから、撮ることもできない。何もかもが足りないよ。思い出も追悼も感謝も涙も時間も命も。


私は大きな悲哀と責任に耐えられず、意識を手放した。胸に写真を抱いたまま。






「今日もつまんないなあ...ニュースは。」


あたしはテレビのニュース番組を見ていた。つまんないのは、平和である証だ。どこどこで殺人事件が起きたとか、どこどこで事故が起きたとか。ただ、きっと自分の家族がここに置き換わったらそんなこと思っちゃいないだろうけどな。


『速報です。およそ2ヶ月前日本を出発し、数多の著名人を乗せた大型豪華客船...。』


「あ、アニキが乗ってた船じゃん。ママー。アニキの乗ってる船が出てるよー。」


テレビの声は続けてこう言う。


『...からの、信号が途絶えました。公安は、これをハイジャックかテロ行為であるものとみて、船の捜索を開始しました。』


「えっ...」


あたしは持ってたアイスキャンデーを落としてしまった。あんだけ脳筋バカのアニキが居ても、テロを許してしまったのか。一体どれだけ非道なことをすればそうなっちゃうんだよ。


「なになに。あらあら。」


「や、やばいよね。これ、結構マズイんじゃない。」


公安機関の仕事は殉職率がもちろん高いのは知ってたけど、まさか記念すべき初任務でこんな目に遭っちゃうんだな。ちゃんと無事に帰ってきてくれよな。アニキ...。






俺は公安の人を鈍器で一発お見舞いしたあと、ボイラー室に篭っていた。ここなら誰にもバレやしないからな。船を守ることはできなかったが、他の公安にはバレずになんとかやり過ごせそうだ。


しばらく篭っていると、ボイラーが動き始めた。畜生、ハッキングのせいか。その音は隣で眠ることなどまず出来ないほどに大きな振動と音を発する。それもそうだ。こんだけ大きな船を動かすんなら、そのぐらい大きな力が必要だからな。


鉄製の重い扉を乱暴に叩く来客があり、俺はヒッと小さな声を上げてしまう。もちろん開けるつもりはない。しかし、その音は次第に苛烈を極め...ついには破られてしまった。そこに居たのはゾンビが6体も。俺は自分の目をうたがった。目の錯覚だとしても、生きる為には戦わなくちゃいけないな。


俺はハンマーを手に取り直し、構えをとる。素人の構えだが凶器を持っていたら十分なハズだ。1体、2体と頭を目掛けて振るうも、その数を捌き切ることは叶わず、押し倒されてしまう。


「い、いやだあ。死にたくないよお。うわあああ。いやあああああ。」


生きたまま食われる感触はひどくグロテスクで痛みをともなう。俺は何度も何度も喉が焼き切れるま叫んだが、ついに助けが来ること無かった.......。

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不死身<<クリーチャー>> ツカサ @xxtsukasaxx

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