20.CMFJ-1
扉の外からけたたましい警報音が鳴っている。今夜、CMFJ作戦が決行される。警報音が鳴り始めて数分後、我々は解放され、クワッド12の3人とそれぞれ握手を交わし、自己紹介も交わす。
「クワッド12のオオムラです。必ず成功させましょう。」
「スタンライだ。よろしく。」
「コウダと呼んでくれ。」
「私はララ。それなりに戦えるよ。」
「改めて、セリザワだ。大学校では尋問科で学んでいた。」
「タイガだ。どおりで目線だとかそういうのに詳しかったんだな。」
消音器付きの拳銃4丁とインカムを装着し、応接室を出る。まだ敵6名はCMFJs作戦に気付いていない。今が最も動きやすく、チャンスだ。
「各自拳銃のセーフティを解除しておけ。スタンライ隊員とガルネン氏は...いや、もう公安では無いな。シャルルとガルネンはすぐにハッキングの準備をして取り掛かれ。護衛にオオムラを寄越すから行動を共にしろ。クリーチャーは今も暴れているゆえ、それ以外は乗客を守るように立ち回れ。甲板にいるぞ。敵6人を無力化するまではクリーチャーを倒すなよ。予定変更でクリーチャーは6体解放している。我々が捌き切れる限界の量だ。さあ、行け。」
全員が走り出して、指示されたミッションを遂行する。訓練のときと比べて緊張感が段違いだ。失敗が許されないからかもしれない。
ハッキングに必要なものを取れと言われたが、システムがどんなものか分からない以上、周到にはできない。
「スペックは足りないだろうが、俺の部屋からパソコンを取りに行こう。そこから管制室に行き、有線で繋いで実行してみよう。」
「分かりました。って、クリーチャーがいます。ああっ襲ってきたっ。」
服もすでに少々ぼろぼろになったクリーチャーのお出ましだ。痩せた女性だったようだ。その様はまさにゾンビである。元が女性だったからと言っても侮ってはならない。その驚くべき膂力で俺の部屋の軽い扉ぐらいならぶっ叩いて開けられる。
「無視はできないな...。僕がひきつけます。スタンライくんは先に部屋へ行ってください。」
すでに部屋は目と鼻の先だというのに、なんとも歯痒い。
「オラあ魔物。こっちへ来いいいいい。」
「本当に助かる...オオムラ。」
俺は慎重にクリーチャーを躱し、部屋に入る。足音も遠く離れたため思う存分に部屋を漁ることができる。
「...よし。まあ、準備はこんなものだろう。」
バッグを抱えて部屋を出る。管制室へ急げ。最上階の見晴らしが良い1番先頭の部屋だ。
甲板へ行くと、すでに6人の公安機関員が乗客を守るように立っていた。シャルルくんほどではないけれど、僕も戦闘はある程度出来るつもりだ。
「まだこちらに気付いていないようだね。僕は一応暗殺とかも出来るけれど、どうする。」
「そうだな。やってみせろ。数人無力化できればそれでいい。」
「君の公安で使うインカムを貸してくれないかな。そしてバレないようどこかへ散ってくれないか。」
「わかった。」
5人各々が死角へ隠れ、僕の行動を見守る。公安さんに頂いたインカムを投げる。物音に敏感になった隊員は、軽い金属音に反応したようだ。
「んん、なんの音だ。」
隊員が見ると公安さんの使っていたインカムが目に入る。普段彼らが肌身離さず持っているはずのインカムが転がっているはずがないことは明白だが、それが現にここにある。自分の意思で手放すということがない限り、それを意味するのは...死だ。
隊員は毛を逆立たせ戦慄する。誰かが死んだ。誰かがやられた。敵が近くに潜んでいるに違いない。辺りを見回した瞬間を狙って背後から彼に襲いかかる。狙うは絞首だ。
「っ。ぐっがあ。かふっ。」
数十秒の静かな格闘の末、隊員は意識を手放した。それを確認した5人は物陰から姿を現して駆け寄ってきた。
「結構なお点前だな。経験があるのか。」
「まあ、幼いころにちょっと縁があっただけだよ。これで僕のことを見直してくれたかな。」
「胡散臭いやつだと思ってたが、シャルルと同じく、やっぱこういうことは長けてるもんだな。」
「もしかしたらガルネンのせいで投票に負けて今こんな状況なのかもね。」
「あはは...みんなヒドイ。」
あっという間に残る5人も制圧は完了し、乗客共々管制室に向かう。管制室にさえ行ってしまえば、僕らの守るべき対象はシャルルくんの死守から管制室の死守に切り替わる。そちらの方が都合がいい。
「僕は取りに行きたいものがあるんだ。お先に向かっているよ。あとで合流しようね。」
「ああ、分かった。よし。俺とササキで先頭を行き、道のクリアリングを行う。時間差で、残る君らは乗客を守るんだ。準備ができ次第共有する。」
そのセリフを皮切りに、各々が目的を果たすため動き出した。
気絶させた公安を拘束したり、武装解除させることはあえてしない。インカムだけ回収し、甲板でクリーチャーを引き付けてもらいたいから。
僕が取りに行きたかったものとは、ノアのことだ。これは回復薬にもなり、いざとなれば
管制室へ着くと、すでに船長がいた。思った通りというか、まあ当たり前のことだ。さて、どう説得しようか。脅しも使えるし、気絶させることもできる。公安の立場を使って使役させることも可能だ。殺しはナシだが選択肢としてはある。邪魔ではあるが敵ではない。ここは公安の立場を利用しよう。
そう決めたら行動は早かった。扉の開く音で振り向いた船長は緊迫した様子で、助けを求めるようにこちらを見ている。
「公安機関クワッド79のシャルル・スタンライだ。貴様の扱う自動操船システムになんらかのバグが見られた。調べさせてもらいたい。」
「あ、ああ...わ、分かった。分かりました。どうぞこっちです。」
案内されるがままにシステム管理行うコックピットに入る。複数の画面とその10倍近い数のボタンがあり、高性能そうな大きなパソコンが中央に鎮座している。パッと見では何が何だか分からないが、コネクタで繋げてしまえばなんら問題は無い。
「船長、協力してくれ。コネクタに繋いでくれ。」
システムに侵入することができた。根底からシステムを変えなくてはいけない。しかし、スペックが低いせいで読み込みに時間がかかる。かかりすぎる。
やっとだ。やっと読み込みが完了した。1つ1つコード確認して、不都合な部分は修正や消去で手を加える。
「ああ、動作がずっと重いな。これはシステムの更新に時間がかかりそっ。」
ゴイン。と、脳にあってはならない衝撃が加わる。何かしら鈍器で船長から殴られたようだ。俺は意識を手放してしまう。イスから崩れ落ち、視界の端に捉えたものは俺の頭に衝突した槌と、船長の足元と、目に滴った俺の血だった。
「俺だって伊達に船長やってない。システムの根底から変えるような更新は、テロリストのそれだ。」
ああ、何をやってもうまくいかないな。
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