第39話
「幸彦どの、話をしよう」
私は幸彦に声をかける。
「ほう俺となんの話だ」
「貴公たちは元々滅ぼされた他の国の将、恨みこそあれこの国に義理だてする理由はない。 なれば我らについてくれはしまいか」
「確かにな...... 俺は猛水さまにもこの国にも、忠誠などはない。 条件さえあえば話し合わないでもない」
「それならば......」
「ああ、そうだな。 取りあえず殺せるものを毎日数人はほしいな。 出きるなら子供と若い女がいい」
「なにを......」
「なにをもなにも条件だ。 俺は殺しが好きなんだ。 弱いものを切り刻むのが...... 前の国じゃ、それがばれて牢獄に入れられた。 この国なら戦で殺し放題...... ただ民は止められている。 あんたがそれを許可してくれるならついてもいいぜ」
そう幸彦は恍惚の顔でにやついた。
「なるほど、なればこちらから断ろう...... 墨也」
墨也が複数の短刀を投げつける。
「斬りきざめ! 【千切】《せんせつ》!!」
幸彦はその短刀を、黒いなにかで叩き落とした。 見ると鎌のような腕が二本肩から生えている。
「鎌のような腕...... 【蟷螂鎌】《とうろうれん》か」
「......よく知ってるな。 そうだこれは鎌のような坐君」
そういうと幸彦は二本の刀をぬく。 肩から生えた鎌腕が気味悪く上下にゆらゆら動く。
「天陽さま。 墨也どのは左右に」
流雅がそう指示する。 私たちは左右に散り坐君をはなつ。
「ひゃははは!!」
それは切り裂かれる。
「我らも!」
「いや偉角どのは仲間の安否を...... ここがやつらに漏れてるなら、他の隠れ家も狙われているはず!」
「くっ! わかった! 頼む」
偉角たちが姿を消した。
「ちっ! 逃がすか」
「流雫!」
液体が幸彦にまとわりつく。
「鬱陶しい!!」
切り裂かれ流雫は飛び散る。
「貴様の相手はこっちだ......」
「なら切り刻んでやるよ!」
後ろの影から墨也がきりつける。
「ちっ、包め!
キィン!
黒い鎌腕が防いだ。 よくみると幸彦が黒く染まっていく。
「なんだ!!?」
「あのものの体を金属としています」
流雅がそうつげた。
「そうよ。 この体、貫いて見せろ!」
黒くなった鎌は雲晶も錬舞も効かない。
(くっ、固すぎる。)
「それは【鉄皮】《てっぴ》か!」
「よく知っている! そうよ、鉄と同質の体だ! 斬ることも叶わん! あきらめてさっさと死ね!!」
そう黒い腕と刀をふるい迫ってくる。
(雲晶の盾を切り裂く切れ味! 硬さ。 鉄皮、金属のような体となる坐君、貫くのは無理...... 晃玉をつかうしか)
「ここは私に」
墨也が前に出る。
「そんな軟弱な坐君では、俺の体に傷一つつけられぬわ! 真っ二つになるがいい」
幸彦は地面に鎌腕を突き刺しはねとぶと、鎌と双剣を墨也に同時にふるった。
「墨也!!」
「分かれろ! 【双貌】《そうぼう》!」
一瞬、切られたと思ったが、墨也は身をかわしていた。
「なんだと!?」
幸彦は驚く、そこには二人になった墨也がいたからだ。
「これは......」
(墨也は影猴と叉眼を持っていた...... 双貌とはなんだ。 私の知らない坐君をもっていたのか)
「ふん、どうせ幻影の類いだろう。 本体を意識すればよいだけ......」
様子を見ながら本体を見極めようとする幸彦に、二人の墨也は幸彦を攻め立てる。
「くっ! こいつ!」
(速い! それに分かれた二人とも正確に攻撃をあわせている......)
「ちっ、だが鉄の我が体に傷つけることも...... がっ!」
幸彦の体から鮮血がはふきだした。
「なんだと......」
「鉄の硬さとはいえ、動かせる柔らかさはいる。 表皮さえ切りさけば血も出るが道理......」
そう墨也は次々と皮膚を切り裂く。
「ぐぅ! 馬鹿な!! ただの分身が斬れるわけが......」
(いや、二人の墨也はほぼ同じ箇所を同時に斬っている。 あれはまさか実体か。 どれ程硬かろうと、強打されれば......)
「ぐはっ!!」
幸彦は倒れ、黒い肌が元へともどり鎌腕もきえていった。
「ふぅ、なんとかなりましたね」
「さすが、墨也だ。 もしかしてあれは【孵君】《ふくん》か」
孵君、人と契約した坐君が魂の一部を得て成長したもの。 坐君が更に強く異能をえるという。
「ええ、私の影猴が孵り、実体をもつ分身へと変化させられます」
「なるほど、やはり幻影ではなく実体か。 二人の剣であの硬い表皮を切り裂いたのか」
「ええ、しかし、普通の坐君より精神の疲れがでます」
そう墨也は疲れた顔で答える。
「そうなのか...... ならばすこしやすんでくれ。 だが、荒我八将の一人を討ち取った。 流雅」
「ええ、しかし一将では影響は軽微かと...... 最低四人は将を戦線から脱落させねばなりません」
「隠蔽もされますしね」
流雅と墨也がいう。
「なれば偉角どのたちと合流し、他の将をなんとかしよう」
私たちは他の隠れ家へとむかった。
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