第38話

「それにしても、今回は風貴どのはこられなかったのですね」


 そう墨也がいう。 私たちは水守の隠れているという砦へと向かって険しい荒れた山道をのぼっていた。


「私がいた方が天陽さまは無茶をされないと、おもっておられるようです」


 流雅がこちらをみて微笑む。


(まあ、あの説教は何度も受けたくはないからな)


「なるほど、そうですか」


 そう墨也は苦笑する。


「しかし、我らが彼らを説得できるかいかんによって、この戦の被害が変わる。 多少の無理は......」


「お二人とも下がって......」


 私がいいかけると、そういって墨也が前に出て短刀を構えた。


「......墨也か、その二人は何者だ」


 姿は見えないが何者かの気配はする。


「この方は我らが今、与する方、天陽さまだ」


「天陽...... 天沼の前主座の子息。  墨也、貴様...... 国に属し我らの敵となるか」


 周囲に殺気がみちる。


「まだ国はない。 私はこの方をはかっているのだ。 真に我ら烏剛の衆が仕えるにたる人物かどうかをな......」


「......民を虐げる貴族など信頼に値しない」


「なれば、私を知るがよい」


 私は墨也の前に出た。


「知る...... どうやって」


「向かってくるがよい。 私が信頼するに値するか、自らためせ」


「......面白い、加減はせぬぞ」


 何かが動く。 しかしその姿はみえない。 


「産まれろ! 【嶽】《がく》!」


「動け!【礫】《れき》」


「立ち上がれ! 【岩将】《がんしょう》」


 岩が複数の人の姿とかし、その拳を地面に叩きつける。 


(これは岩を人形とする【石偶】《せきぐう》、それに姿を消す坐君を操っているのか!)


「注げ! 流雫」


 流雫は私の周りを包み、その拳をを柔らかく弾いた。 


「このもの、坐君をつかうのか!」


「集え雲晶! 集まり回れ!」


 集めた雲晶を双角錐にし、回転させると地面を掘り進める。 


「流雫!」


 流雫は弾けると四方に飛んだ。


 べちゃっ


「くっ!」

  

 巻き上げた土煙が、流雫の液体で姿を隠していたものたちに付着し、その姿を浮き上がらせる。


「穿て! 錬舞! いけ! 雲晶!」


「ぐあっ!」


「がふぅ!」


 放たれた錬舞と雲晶は姿を見せたものたちに当たった。


「くっ!」


 私は目の前に少しみえた男のその首に、抜いた刃を突きつけた。


「参った......」


 そういうと周囲のものたちはその姿を見せた。


 若い男たちがいた。 だがその男たちをみて気づいた。


「その体つき、そなたたちは兵士ではないのか」


 筋肉が農民のそれとは違っていたからだ。


「......ああ、元だ。 皆百は兵を率いる兵長たちだった。 しかし、あまりの民への苛烈な仕打ちにたえかね。 そして反抗しているのだ......」


 頭領格の男ーー偉角いすみがいった。



「なるほど...... 天沼に攻めいるとの話しは聞いていたが、わざわざこんなところにくるとはな......」


 水守の隠れ拠点の洞窟に私たちはいた。 偉角の前に座り事情を話した。


「それで我らの手を借りたいと......」


「ああ、そちらにしてもこの戦争は止めたかろう。 協力できるはずだ」


「確かにな...... やつを倒せるならば倒し、民をこの地獄から解放したい。 しかし......」


「何か」


「我らが猛水を暗殺しようにも近づけぬ。 失敗すれば一族郎党まで虐殺される...... 今まで多くの犠牲を払ったが、成功はしなかった」


 偉角は悔しそうに唇をかんだ。


「流雅」


「はい、猛水を暗殺する必要はありません」


「ではどうするのだ」


「猛水の圧政は絶対的恐怖と戦の成功によるもの。 つまり失敗しうると、民に知らせるいうことが肝要なのです」


「なにかを失敗させ反乱に向かわせるということか。 しかし何をする......」


「それは猛水の側近たる荒我八将を狙えばよいのです」


 流雅がそういうと、周囲がざわつく。


「荒我八将は、この国の最強武将たち......」


「あやつらは一騎当千の猛者だぞ」


「さすがに、それに我らは数百もいない......」


 偉角は口ごもる。


「討ち取る必要はないのです。 説得し懐柔してもいい、彼らは元々この国の民ではないとききます」


「ああ、確かにやつらは国に忠誠心があるわけではない。 元々併合した国にいたものたちが多く、その強さゆえ将に抜擢していた。 しかし......」


「そうです。 彼らはその異能は脅威、しかし戦場に向かう前に彼らが落ちたと民に伝われば絶対の恐怖は消え去る。 あなた方ならば彼らの動向を把握しているはず......」


「確かに、全員とは言わずとも五人ほどは、なんとか排したいとは思っておったからな」


「天陽どの......」


 墨也は懐の刀をにぎる。 偉角たちも気づいたのか、岩人形を現した


「くくくっ、まさか天沼の偉いさんがきてるとはねぇ。 反乱者をあぶり出したらとんだ大物が釣れたな」


 そう地面の中から男が出てきた。 とても人相が悪い。 四本の刀を腰にさしている。


「貴様は【狂肢の幸彦】《きょうしのゆきひこ》......」


 偉角はそういうと、流雅はうなづく。


「荒我八将の一人です......」

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