第40話

「しかし、単独で動いているとは、荒我八将は軍を率いてないのか」


 私たちは水守の隠れ家へと森を移動していた。


「彼らは遊撃隊で戦場でもほとんど兵を率いません。 軍を率いるのは古参の将ですから」


「......信頼していないと言うことか」


「ええ他国出身者が多い上強いものたちなので、反抗される可能性が常にありますから、兵を指揮させていません。 ですから、こちらにも対抗できるすきがあるのです」


「懐柔か倒せればか......」


「天陽どの...... あそこです」


 墨也が小声でいうと、森のなかに洞窟がみえてきた。


「あれか、洞窟の前に足跡などはない...... 争った形跡もないが......」


「私が影で先行してなかを調べて参ります。 もしすぐかえらなかった場合、ここは落ちたと判断して、先程教えた隠れ家へと移動をお願いします」


「......わかった。 気をつけてくれ。 あまり深追いはせず、危ないと感じたら撤退を」


 墨也はうなづくと影へ潜み、洞窟へと向かった。


「......とはいえ」


「墨也どのを見捨てられるわけもないのでしょうね」


 すこし間をおいて流雅がいう。


「墨也は必ず国に必要な者だ。 そなたとおなじようにな」


「......確かに、あの方は必要です。 しかしあなたがいないと国は成り立ちませぬ。 もし墨也どのが帰らず、助けに向かうとおっしゃるのでしたなら、私にお任せしていただきます」


「まさか......」


「いえ、私は仄星、以降、新たに契約をしておりませぬ。 あなたがいったのです。 私を失えば指針を失うゆえ今は契約はするな...... と」


「そうだったな。 流雅を失ってはもはや国を興すのも難しい。  しかし、そなたほどの博士ならば、他の大国の引き合いもあったはず、なぜ私のもとに身を寄せた」


 不思議に思っていたことをきいた。 


 すこし沈黙して流雅は口をひらく。


「......そうですね。 確かに登用のお誘いはなんどとなくお受けました。 しかし、彼らは揺るがぬ信念や大義があったからお断りしたのです」


「揺るがぬ信念や大義...... 確かに私にはそれほど大きな志はないかもしれん...... だが、将にとってそれは必要だろう」


「しかり、しかし大義というのは理想に酔うものの言葉にございます」


「理想に酔う......」


「ええ、理想に酔えば大義なれば民への虐げも許される、大局のためと権威、権力の保持など己が野心を正当化していきましょう......」


「ふむ、いずれは変容していくと......」


「はい、最初はどれほど清廉な人物も、組織や権限が多くなるうちに、その歪みを産み出していきますから」


「それは私とて同じではないか」


「......かもしれませぬ。 私も最初はあなたをおしはかるつもりだった。 私の正体を見破ったあなたに少々興味がわいた程度...... あなたが国を得れば去るつもりでした。 だが、あなたは手に入る主座の座を捨てた」


「それが最良ゆえ」


「その選択をできるものは少ない...... だれあろうその地位が目の前に転がれば手をだすのが人のさが、理想があればなおさらのこと」


「それで、私を認めたと......」 


「失礼ながら。 私はまつりごとに関わるものを信頼しておりませんでした。 しかし、あなたに希望をみたのです」


 そう微笑んだ。


「なれば、なぜ自ら立ち上がらなかったのだ。 そなたならば国を取ることも可能であったかもしれないだろう」


「......やはり臆病だったのでしょう。 己でたって汚れるのを恐れた。 ゆえに俯瞰した立場でそれらをみていた。 なれば傷つくことも汚れることもないですしね」


 困ったように眉尻をさげた。


「それがまつりごとに関わる気になった......」


「はい、あなた様が私に新たな道へと歩を進めさせたのです」


 そういったその時、洞窟の入り口から、大きな音がして土煙がたちのぼった。


「あれは......」


 そこには膝をつく墨也と、土煙のなかから甲冑をを着こんだ人物が二又の槍をもって現れる。 その長身な体躯と顔の特徴から、荒我八将の一将【壊鎧の満安】《がいがいのみちやす》とみてとれる。


「くっ! あれは」


「お待ちください...... 先程お約束したはず」


 そう飛び出そうとする私を流雅がいさめた。


「しかし......」


「私が参ります。 刀をお貸しいただけますか」


「そなたの坐君では!」


「......天陽さま、私を信じてください」


 そう私を見つめ、そして流雅はその姿を幸彦にかえ前に進み出た。

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