第31話

「......これは、大きい」


 そこには仰ぎ見るほどの巨大な樹木のようなものが、数多くの太い丸太のような根を鞭のようにしならせて、烏剛の者たちを狙い打っていた。


 それはまるで巨大なタコのようにもみえる。


「あれか流雅......」


「ええ、おそらく【虚君】《きょくん》です」


「あれは【章魚木】《しょうぎょぼく》、長くいたため虚君と化したか......」


 虚君、飢君が長い間、現世にとどまり生命力を食らい続けた結果、ついに固定した存在。 固定され得た生命力をもちい、根源の世界より坐君を呼び寄せて飢君をうみつづける。


「あれを倒せば新たなる飢君は生まれてこない! みな国を得るために戦うぞ!」


「おう!!」


 私の号でみなが声をあげた。


 烏剛と墨也たちが影に入り翻弄する。


 暁真が棍に咆赤を呼び、走って章魚木の根に突きをはなっている。


「わたしも!」


「お待ちください」


 私や風貴たちがいこうとするのを流雅がとめた。


「あれをご覧ください」


 暁真や烏剛たちが削った根っこはすぐに再生を始める。


「あれは再生か! しかも早い!」


「はい、あれほどの再生では並みの攻撃では倒せません...... 天陽さまの晃玉でなければ滅することもかないませぬ。 ですが、晃玉を撃つには無防備となりますゆえ、気づいた根が襲ってくるでしょう。 まずはあの根の動きを止めましょう」 


 流雅はそう進言した。


「わかった。 皆、根の動きを止めてくれ!」


「はっ!」


「わかったわ!」


 風貴が蒼姫と土波で先へと進む。


「射ぬけ【碧羅】《へきら》!」


 風貴が叫ぶと大きな一角をもつ隼のような鳥が現れる。 そして矢を射るように放たれると風を纒い、いくつかの根を切り裂きながら貫いた。 さらに旋回すると再び切り裂く。


(あれは【角隼】《かくしゅん》か! 風貴、あんな強い坐君と契約していたのか!)


「からみとれ! 【彩紗】《さいしゃ》!!」


 蒼姫が腕に巻いていた薄衣が伸び、無数の蛇のように章魚木の根に巻き付き、周囲の木に巻き付きとらえた。


(蒼姫のつかうのはどこまでも伸びるという【如帯】《じょたい》か!)


 暁真は灼耶で根を破壊し、烏剛たちも影を操り根を押さえている。


「よし、晃玉を呼ぶ」


「お待ちください。 晃玉でもあの章魚木を焼き払えるかわかりません。 ここは私が」


「流雅、まさか」


「はい...... 舞いなさい【仄星】《そくせい》」


 流雅が静かにそういうと、影より無数の光る蛍が舞い上がり虚君へとむかった。  


 それは暗い森の中に、星空のような光景をみせた。


「あれは【燐蛍】《りんけい》」


(流雅も御魂社で契約していたのか...... 無茶を、しかもあの数かなり無理をしているはず)


 その流雅の横顔をみる。 その顔は唇をかみ、痛みに耐えるようであった。


「......天陽さま。 晃玉を」


「......わかった。 あまねく照らせ晃玉!」

 

 宿言で晃玉を呼び出す。 晃玉は以前呼んだときより、大きな姿をしていた。


(他の坐君を呼んでないからか大きい! 流雅の仄星もいる! よし! いける!)


「皆はなれろ!」


 私が叫ぶと皆がその場から離れる。 


「いけ晃玉!」


 晃玉は今まで以上の輝きでまばゆい光を放つ。 光は収束して章魚木を照らす。


「ギィィィギィ!!!」


 章魚木は声のようなものをだして身をよじっている。 その身が激しく燃え煙が上がる。


(よし...... かなり効いている。 このまま流雅の仄星に当たれば...... あれは衝撃で爆発する!)


 そして光線が仄星にあたると爆発を引き起こした。 無数の仄星は連鎖して爆発し、章魚木は動きを止め更に激しく燃えさかった。


「ギィィオオオオオ......」


 そう慟哭するよう章魚木は倒れた。



 数刻して、蒼姫の蒼羽と風貴の土波で炎が鎮火した。 辺りは夜になり、暗くなり始めた。


「ふぅ、やりましたね。 まさかまだあれほどの坐君をもっておられたとは」


 驚くように墨也がいった。 


「ああ、それでどうみる」


「ええ、まだまだ飢君の数は多いが、これなら日にちをかければ排除も可能かと、しかし人の手配などかなりの金が入り用になりますよ。 なれば......」


「いや、烏剛はもう身内、罪をかおかさせるわけにはいかぬ。 我らには大きな商家の身内がいる彼に頼もう」


「左様です。 ここの木材を切り出し持ち込めば、資金は用立ててくれるでしょう」


 流雅はそう巨木をさわりながら入った。


「そうか、ここの木材も目的だったのか」


 風貴がいうと、暁真はうなづく。


「なるほどな。 確かにここまで巨木はなかなか市場にも出回らないだろうな」


「そうね。 でもこの香り...... さっきより強い」


 蒼姫に流雅がほほえむ。


「ええ、炎で燃えたもののなかに、香木があったのでしょう」


「香木か、なるほどこれだけ古い樹木があれば......」


(香木は香として高額で取引される希少品、これもここを選んだ理由か)


 それから私たちはここに何度も足を運び、残った飢君を排除して回った。


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