第32話
虚君を倒してから一ヶ月、あらかたの飢君を排除し、夕凪へと便りをだし招いた。
「これは...... 驚きましたね。 命空に国を興されるおつもりとは......」
夕凪は森をみて驚いている。
「しかし、天陽さまならば、なにかなされるであろうとは思っておりました。 この香木と木材の扱いは、我らにお任せくだされ」
「うむ。 頼む」
「して、これからどうされるおつもりか」
「国を興すといっても人などを集めねばならない。 風吹の国跡地から人材を墨也が集めてくれるという」
「はっ、茜がかの地にて人を手配しております」
墨也がそういう。
「なるほど、あの地ならば人もいましょうな。 それで天陽さまは?」
「私は少し政務を取り仕切る者を探そうと思う。 夕凪にしてもらいたいが、せっかくまつりごとからはなれたのに呼び戻すのは心が痛む」
「お心遣い感謝いたします」
「しかし、流雅に任せても全ては取り仕切れまい」
「はい、村程度ならば私一人でもよいですが、国となれば話しは別。 専門に長けるものが必要です」
そう流雅がいった。
「そして何人か心当たりがあります。 曲者ゆえ従うかはわかりませんが......」
「かまわぬ。 その者たちを教えてくれ」
流雅に話を聞いた。
「ここにいるのか......」
私は混むほどに人通りが多く。 さまざまな遊興の店が並ぶきらびやかな道を呆然と見ていた。
「そう聞いていますが...... 本当でしょうか」
風貴が不安げにそういった。
私と風貴は流雅の話を聞いて、人材を探すべく小国【遊楽の国】《ゆうらくのくに》にきていた。
「しかし、暁真が墨也どのに稽古をつけてもらうと残るとは......」
風貴が不満そうに口にした。
「まあ墨也はかなりの猛者、稽古してもらえば強くはなれよう」
「しかし、天陽さまの護衛の任があるでしょうに......」
「かまわぬよ。 風貴がいれば大事ない」
「そうですか、それに流雅どの、蒼姫どのも残られた」
「ああ、流雅はあの地の調査、蒼姫は美染の国へとの連絡でな」
「そのときのことを覚えておられますか」
「......流雅は、あのとき」
それはここに出ると話したときのことだ。
「よろしいですか天陽さま。 この国が建てば、あなた様は主座とならせられる。 多くの民、家臣への責任がございます。 これからは自らを律する必要があります」
流雅は私にそう諭した。
「無論わかっている」
「いいえ、わかってはおりませぬ。 あなたさまは他者に与えるぐらいならば、自ら苦難を望む方...... それは慈愛で、人ならば優れた資質にございます。 が......」
「駄目だというのか」
「人の上にたつ将たるものは将たる器が必要です。 他のものたちを生かすために、時には非情の選択をなさねばならぬときもありましょう」
「それは......」
(暁真にも言われたな。 あれからなんども考えたが答えは出ぬ)
「例えば、自ら生き延びる選択をせねばならぬとき、そのときは迷わず他のものを犠牲にせねばなりません。 それが我らでもです。 できねば国が滅び、もっと多くのものが道を失するのです......」
そういう流雅は普段のたおやかな口調ではなく、その目には今までにない強い意志が込められていた。
(流雅にいわれるまでもなく、それは理屈ではわかっている...... だが)
「今のあなたは、まだ将たる器にございませぬ...... 何卒、私の
そう珍しく眉をひそめると、懇願するように平伏した。
(国を興すということは、多くの命を預かること、風貴も流雅もそれをいっている...... わかってはいるが)
「あれは......」
そこには大きな看板に【天楽楼】《てんらくろう》の文字がある。
私たちは中へと入る。
「ここはあなた方のくるところではありませんよ」
そう怪訝そうに恰幅のよい店の主人に言われる。
「夕顔の店主、夕凪の使いだ」
「夕凪さまの」
風貴が夕凪からの文と金を渡すと、店主の顔がほころんだ。
「そえですか、そうですか、それはまあ、どうぞ、お二階へとお上がりくださいませ」
そう上機嫌で上へと案内された。
「効果覿面だな」
「ですね。 さすが各国に支店をだす
私たちは苦笑しながら二階へとあがる。 なにやら騒がしい女性の声がある。 通路を進み障子の前に店主は招いた。
「ここです。 が、正直我々もほとほと困っておるのです。 金もないのに遊び呆けて、さっさと連れ出していただければ......」
そう頭をさげ、店主は肩をすくめ礼をして離れた。
私は部屋に声をかけると障子をあけた。
そこには胸をはだけた髪の長い青年が、女性たちに酌をしてもらって笑っていた。
「すみません、【漣】《れん》どのでしょうか」
「そうだが、貴殿は」
「私は天陽と申します。 ひとたびお時間をいただけますか」
そういうと酒の器をおいた。
「女以外に時間を与えたくはないんだがね」
そういうと周りから、女性の笑い声がする。
「......お主たちは席をはずしてもらえぬか」
そう怒りを圧し殺した風貴がいうと、女性たちはそそくさと席を立ちさった。
「おいおい、勝手なことを...... お前さん、男か...... おしいことだな」
そういい酒をあおる蓮どのを、風貴がにらむ。
「本当にこのものですか......」
「夕凪から聞き及び、参りました。 我らに助力お願いできませぬか」
「断る...... と言いたいところだが、あの方には金を工面してもったこともあるゆえ話だけは聞こう。 なぜ俺の力を望む」
「私は国を興そうとしております。 あなたのお力をお借りしたい」
「......国を興す。 冗談...... ではなさそうだな」
そういうと、杯をおいた。
「はい今は小さな村にすぎない。 しかし大きな安寧をもたらす国へと導きたいのです。 それには知恵をもつものを加えねばなりません。 お力を賜りたい」
「断る」
そう手を振った。
「国だのまつりごとだのを枕にいうやつは信じられないな。 人の上に立ちたいだけだ。 表だけ立派に大義で着飾っても、裏では己を満たす醜き我欲をみにまとう獣だろう」
「我が主はちがう! 天陽さまは今まで命をとして大義に生きてこられた! 器の持ち主だ! 見かけで易々と判断するな!」
風貴が憤った。
「まて、風貴」
「そうかい。 それほどいうならば...... そうさなあ、あの山【悪食山】《あくじきやま》には【靄蠕虫】《あいぜんちゅう》という虚君がいて山にはいれず人々は困っている。 それをお前たちだけで排してこい。 国を興せるならばその程度やれなくもなかろう」
「靄蠕虫......」
「バカな! 虚君だと! そんなもの倒せるわけが......」
「よせ風貴...... それを倒せばお力を貸していただけるか」
「......いいぜ」
そう窓から外を見ながら、蓮はこともなくいった。
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