第29話

 左右の仄かなろうそくの灯りをたよりに、洞窟奥へと進む。


 奥の部屋に二十人ほど立っていた。 


(みな手練れだな。 見知らぬ我々が現れても微動だにしない。 勝てると踏んでいるからか。 それにこの男)

   

「こんな所になにようですかな......」


 真ん中にすわっている男が聞いた。 見たところ二十代といったところか、その雰囲気からただ者でないのはわかった。


「お主が烏剛の衆の頭目だな」


「いかにも、かしらの【墨也】《すみや》という。 あかねが通したということは、それなりに信頼はできそうだが、まさか仲間になりたいなどとは言わないでしょうな」


 そういった軽い言い回しだが、その所作に隙がない。

 

「逆だ」


「逆とは、なんの冗談かな」


 そういっても驚いたり、軽んじたりする雰囲気ではない。


(回りくどくいっても無駄だな)


「我が朗党になってもらいたい」


「......我らにくだれと」


「そういわれて降るとおもうか......」


 後ろの男の一人が不快そうに口を開いた。 大柄な男だ。 その風貌や口調から側近といった風にみえた。


「まあ、まて九条くじょう、話をきこう」 


「正気か、おかしら」


 あきれたように九常という男はいった。


「ここまで、酔狂くんだりできたりはしないさ。 それでなぜ我らの力が借りたいんだ。 我らは盗賊。 世の中に義賊と言われようともただの咎人とがにんだ」


「確かに咎人、しかし、民を思う気持ちもある。 私は国を興したい、そのためにお主たちの力を貸してもらいにきた」


 そう正直に話した。 この男には嘘は通じないと思ったからだ。


「国を興す...... だと」


 さすがに周囲の者は動揺したようにざわついた。


「国をここに......」


「いいや、命空にだ」


 つぶやいた墨也に暁真がいう。 


 周囲が更にざわつく。


「命空に、あんな化け物の住みかに国をだと......」


「正気じゃない。 命空なんて国すら手出ししない禁忌の場所だ」


「たった五人で...... なんの冗談だ」


「なんなのあんたたち、国を敵に回して盗みを働いてるくせに、国を興すぐらいでガタガタとみっともないわね」


 蒼姫がそうあおる。


「......国を興すぐらいって、国のことを知ってるとでもいうのかよ。 嬢ちゃん」


「その方は美染の国の蒼姫どのだ......」


 墨也が仲間にそういった。


「蒼姫!? 美染の国の姫君がなんで他の国作りなんてかかわっている!」


 その場にいたものたちがざわついている。


(知っていたのか...... なら)


「ああ、あなたもしっている。 天沼の国、前主坐の嫡男、天陽どの」


 そうこちらをみて墨也はいった。


「やはり...... 知っていたか」


「俺は顔が広くてね。 天沼の国で事件が起こったことは知っている。 しかしなぜ手に入れられた天沼の主坐ではなく、別の国を......  そこが解せないな」


「天沼の国はもう間違いはただされている。 ゆえに私が治める必要はなくなった。 今私がやるべきことは、この混迷する世界にあって、そのしるべとなる国をつくることだと考えただけだ」


「......それゆえ、力をかせか」


「貴公らは各国に精通し、その情勢も詳しい。 情報がなければ国を興しても立ち行かない。 そのため力が必要なのです」


 そう風貴がいう。


「我々はしがない盗賊風情、その我らが国を興そうとするあなた方の力になれるとは思えませんがね」


「そうか、俺にはそうは思えん?」


「どういうことかな少年?」


「暁真だ。 お前たちは貧しきものたちを救っているときく」


 暁真がそういうと、墨也はすこしわらう。


「......まあ、同病相憐れむってやつだ。 悪人も目の前で人が溺れているなら、みなが見捨てるわけでもない。 それが人の情というものだろう」


「そうですね。 ですがそれだけではない」


 流雅はそう指摘する。


「あなた方は貴族や商人を狙う。 だが、見さかいないわけではない。 それは主に不正や悪徳を働くものたちだ。 なぜそのような真似をしているのです」


「............」


「あなた方は手段を間違えている。 そのようなことで民は救えない。 天陽さまなれば、あなたたちに道を示すことができる」 


 流雅はそういった。


「だから国を興すか......」


「お主たちはあきらめるか、奪った金を分け与えるかしか方法がないのかもしれないが、我らが組めば国を興せるという第三の道がある」


 私がいうと墨也は目を閉じた。


「......しかし、あなたたちが信頼に足るかはわからないな。 この世の無情をしらぬ、年端もいかぬ子供たちの戯れ言かもしれん」


「ならば私はそなたたちに覚悟と力を見せよう」


 私がそういうと、墨也の目がひらく。


「俺と戦うと......」


「正気かお頭とやりあおうなんてやめておけ、死ぬぞ」


 九常と呼ばれた男はそう止めた。


「穿て錬舞!」


 私の影から錬舞が現れた。


「坐君をもつのか!」


「あんな子供が!」


 周囲がざわついた。


「......国を手に入れようとするならば当然よな。 いいだろうその覚悟のほどをみよう」


 そういうと、静かに墨也はたちあがった。

 

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