第28話

「くっ...... また」


 流雅が珍しく声をあげる。


 進むにつれ圧倒的だった勝負が負け始めたからだ。


「どうした嬢ちゃん、ついにつきに見放されたか......」


 男はにやついている。


「も、もう一勝負......」


 流雅があつくなっているようにみえる。


「おい、あいつらしくねえんじゃねえか。 とんどんのめり込んでいるぞ」


 暁真がそういうと風貴もうなづく。


(確かに、いつもの流雅ではないが......)


 その姿は焦っているようにみてとれた。


「負けたな...... 結構いたいぜ」


「よし勝ちました! つぎ」


 掛け金が上がり、負けるとかなり搾り取られてきた。


「もうやめたらどうだ...... かなり負けが込んでるぜ」


「だめです! 必ず話を聞かせてもらいますから」


 そういって勝負しているが、また負けている。


「もうやめさせたほうが、いいんじゃない」


「ええ、蒼姫さまのいうとおり、夕凪どのからの炉銀ろぎんも少なくなっております」


 蒼姫に風貴が同調する。


(だが、話をきかないと先に進まぬのも確か...... ここは流雅にかけるしかない)


「もう少しみよう......」


「くぅ! もう一勝負」


「もうやめな」


 主人がみかねたように止めに入る。


「まあ、主人もそういってるぜ。 今日のところはあきらめな」


「止めないでください!」


 流雅はそう声をあらげた。


「ちっ、しゃあない。 ならこれが最後だぞ」


「あんた、やめなよ」


「いいじゃねえか、本人がやりたいってんだからよ」


 そういう男の口には笑みがこぼれている。


「そうです! 最後に持金、全てかけます! これなら今までの負け分、すべて取り返せる!」


 おお、と観客がわいた。


「おいおい......」


 男はあきれたようにいってはいるが、嬉しそうだ。


「なんですか、逃げるんですか!」


「いいだろう。 だが後悔してもおそいぜ」


 そういって承諾し最後の勝負がはじまった。


 男の番で始まり、男は余裕をもってゆっくり考える。


「そうさなあ、俺はこれだな」


 そう男は札をとろうと腕を伸ばした


「じゃあ、私は...... あっ!」


 流雅はとろうとして机にぶつかる。


「いたたっ、では私はこれ」


 そう札を手に取る。


「どうぞ、それをお取りください」


「ああ......」


 男は札をみる。 その顔が青ざめる。


「ま、まってくれ。 それは俺の取った札じゃないのか」


「えっ?」


 流雅は驚いた顔をした。


「どちらでも同じでしょう。 裏なのだから」


「それはそうだが......」


 男は焦っている。 顔から頭から汗が吹き出している。


「だが、どうにも最初に選んだものがよくてな」


「どうしてですか?」


「い、いや」


 しどろもどろになっている。 どうしたと周囲から声が上がる。


「まさか、表をしっているとかじゃないわよね」


 蒼姫の言葉に男は動揺している。


「い、いや、そんなわけ......」


「ならば」


 そういって流雅は札をめくる。 かなり高い数字がでる。 おお! と周囲がわいた。


「どうぞ。 そちらがあけてこちらより大きければあなたの勝ちです」


「そ、それは」


 男は戸惑うような表情を見せた。


「......あきらめな」


 主人にいわれて、男は札をめくる。 数字は小さく男は肩をおとしている。 今までで一番周囲が沸いた。


「では烏剛の衆のこと、教えていただけますね」


「い、いや...... しらないんだ。 すまん......」


 男は小さく体をすぼめながら、罰の悪そうにそういった。


「......少しこっちに来な」


 主人がみかねたように、私たちを奥へと案内した。 男はすごすごと帰っていった。



「嬢ちゃん、最初からあいつのイカサマを見抜いていたのね」


 通路を進みながら主人がいった。


「ええ...... あんな運任せの賭けなど普通はしませんから」


「しかし、どうやってはめたんだ。 お前もなにかイカサマしたのか」


 そう暁真がいった。


「いいえ、彼が先攻を私に譲った。 大抵やめるときは後攻で終わらせる。 最後に必ず勝つような仕掛けをしてくると思いましたから、私もおおきく賭けたのです」


「その場だけ札を入れ換えればよいのか......」


 風貴がそう納得する。


「涼しい顔してやるじゃない」

  

 そう蒼姫と流雅は笑いあっている。 


(恐ろしいな...... 踊らされているようで、踊らせていたとは)


 そう思っていると、流雅がこちらをみてにっこり微笑んだ。


(まさか本当に心まで読んでいるのではないよな......)


 すこしきもが冷えた。


「それであたしが烏剛の衆を知ってると見抜いたから、あいつをはめたって訳かい」


「ええ、そういうことです。 我々には烏剛の衆の力が必要なのです」


「......本人たちにきくんだね」


 奥にいくと裏手にでて、洞窟らしきものがある。


「あとは、あんたたち次第さ......」


 そう主人は帰っていった。


「ここからはお願いします天陽さま」


 そう流雅がいった。


「ああ」


 私たちは先へとすすむ。


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