第27話

「ここに、烏剛の衆がいるというのか」  


 私たちはかつて滅んだ【風吹の国】《かざふきのくに》の跡地にきていた。  


 そこは掘っ立て小屋が立ち並び悪臭に包まれている。 そこを人々が行き交い集落のようになっていた。


「とはいえ、ひどい状態だな......」


「ええ、ここは国が滅んでから、どこにもいく宛のないものたち、咎人、迫害やらの避難民が、飢君を避けてあつまるのです」


 そう風貴が遠くをみていった。


(そういえば、風貴は元々この国の民。 国が滅んだとき、天沼の国まで逃げてきて、父に拾われたのだった......)


「それで流雅、烏剛の衆の居所にあてはあるのか。 さすがにこの人々の中から探すのは無理ではないか」


 私が周囲をみていう。 辺りは多くのものがいて、とても探しだせそうにはなかったからだ。 


 流雅は目をつぶる。


「......私が庵にいたとき、人々に助言をしその代わり金品、または世の中の情勢をきいていました。 その時、彼らの噂があったのです」


「それで、その噂とは......」


「今はなき風吹きし地に強き烏が舞うと......」


「確かにこの風吹を指しているようではあるけど、なんでそんな言い回しなの?」


 蒼姫はそう首をかしげた。


「直接伝えるのははばかられるということでしょうね。 彼らは咎人でありながら、悪人をこらしめる義賊でもある。 功もあり、罪もあるからでしょう」


「複雑な感情がそうさせたのか」


 暁真は納得したようにうなづいた。


「だが、それだけでは見つけられまい」


「ええ、顔役という人物の話もきいております。 その方にあいにまいりましょう」


 流雅とともに、その集落へとはいっていく。



 奥まった場所に一際大きな建物がある。  


「この匂いは酒か」


「ええ、おそらく。 ここにあつまるものの仕事の斡旋等をしているとのこと」


 私たちは入る。 煙と酒の匂いが充満する建物内は、人相の悪い男たちが賭け事や酒をのんでいた。


 店の奥には木造の机が乱雑におかれ、肩に入れ墨をした露出の多い着物の女性が酒を用意していた。 おそらく店の主人だろう。


「すまない」


「なんだい...... ここは童のくるところじゃないよ。 さっさと母親のもとにお帰り」


 鼻で笑うように主人がいう。


「すまぬがここに親がいるものはいない」


「そうかい...... そりゃ悪かったね。 だが品のいい坊っちゃんたちにここはよかないだろう?」


「女もいるんですけど!」

 

 蒼姫がいうと主人は笑う。


「そうかい、それはすまないね。 品のいいお姫様がた」


「烏剛の衆のことをお聞きしたいのです」


 そう流雅は直接きいた。


(そのまま聞くのか......)


「烏剛の衆...... ああ、盗賊かい。 確かにここはふきだまりだ。 でもそんな奴らはしらないね。 そもそも各国からお尋ね者にされた奴らなんてしるわけもない」


 主人は表情も変えずにいった。 しかし眉が少し動いたのがみえた。


(知っているか......)


 その顔から私はそう読み解く。 流雅と顔を見合わせうなづく。


「なんだ。 お前ら烏剛の衆をさがしてんのか?」


 そう酒をのんでいたふとった頭を反りあげた男が話しかけてきた。


「ああ、知っているのか?」


「知っている...... が、教えられねえな」


 男はうそぶくようにいった。


 暁真と風貴の空気がかわる。 私は制した。


「まて...... 何が望みか」


「そうさなあ、賭けをしようじゃないか」


「賭け?」


「ああ、【座数札】はしってるか」


「二枚数字のかかれた札を互いにとり、だした数の多いほうがかつという遊戯」


「そうだ。 子供でもしってるな。 それを俺としてかったら教えてる。 負ければ賭けた金を失う。 ただの運試しだ。 その度胸があればおれも知ってることを話すぜ」


「わかりました。 私がお相手します」


 そう流雅がまえにでる。


「やめときな...... 嬢ちゃん」


 店の主人がとめた。


「いいじゃねえか」


「ええ、私たちはどうしてもお話が聞きたいのです」


「ちっ」


 そう主人が舌打ちした。



 席について、流雅と太った男は互いにみあう。


「じゃあ、嬢ちゃんが先行だ」


「はい、少しいいでしょうか。 まず場に裏札をだしても、開ける前なら変更はよろしいですか。 迷うかもしれませんし......」


 そう流雅は提案する。 


「ああ、もちろん。 開けなきゃ表はわからんからな。 さああんたからだ」


 男はそういってすすめる。


「......わかりました」


 流雅は掛け金をおいて山札から二枚、場に裏札で出した。 


「では私はこれを」


「そうか、なら俺はこれだ」


 二人は選んだ。


「それでいいか?」


「ええ」


 表にすると、流雅のほうが多かった。


「勝ちました!」


「......だな」


 流雅が喜んでいる。 男は悔しそうな顔をした。


「では次だ」

 

 次も流雅がかち、そのまま続けていった。


「勝率は流雅のほうが圧倒的ですね」


 風貴が小声でいう。


「ああ、ただ......」


(なんでわざわざこんな勝負を挑んできた? 運に頼る賭け事なんて)


 そう思っていると、どんどん勝負がすすみ、掛け金があがる。


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