第26話
「やはり、かなりの飢君がいるな」
私たちは飢君を避けながら、なにもない土地をみてまわる。
「ええ、かつての戦のあと、うかばれぬ魂が坐君を呼び、飢君へと変じたともうしますからね」
風貴がそういった。
「たしか飢君になると凶暴化するんだっけ」
蒼姫が空をみる。 その視線の先には遠くに飢君とみられる姿がある。
「ああ、元々の魂の本能から、この世界への執着がまし、他の生命力を奪おうと襲ってくる。 生命力のあるものを手当たり次第にくらうのだ」
「だから、この血炎の地は放棄されてるのか......」
暁真がそういって、木々もないその枯れた大地をみた。
「そうですね。 兵を多数減らしてまで、手に入れるだけの価値はないと考えているのでしょう。 領地だけあっても、犠牲が大きくてはしかたないですしね」
流雅が腰を下ろし、砂のなった大地に触れ、悲しげにつぶやく。
「そうだな...... だが怨霊のようになった飢君を鎮魂したいが......」
「我らなら倒せなくもないでしょう。 しかし、そうしたら再び荒河の国が、この地へと侵攻してくるのではありませぬか」
「風貴のいうとおり。 飢君がいるから、この地を放棄しているのだろうぜ」
「ええ、今は緩衝地帯として有用でしょう。 おいておくほうが無難ですね。 ですが命空はここだけではありません」
流雅はそういって立ち上がる。
「それは世界中にあるが...... それがどうかしたのか」
私が言うと、流雅はこちらを見すえた。
「命空を排して、そこに国を興すべきです」
「なっ」
私を含め皆が声をあげた。
「どういうことだ流雅どの!」
「命空を国にするってことか!」
「そんなことできるの!」
風貴たち三人がそう矢継ぎ早に話した。
「まあ、おちつけみんな。 それで流雅、詳しく説明をしてもらえないか」
「はい天陽さま」
そう流雅は説明を始めた。
「天道さまが言っていたように、いずれこの大陸で大きな戦が起こるやもしれません。 それに異蝕のことも...... その前に我らができることをせねばなりません。 それには他国と対等に話せる国が必要です」
流雅は真剣にはなす。
「それで国を興す...... しかし」
「荒唐無稽な話だな」
「そうね。 本当にそんなことができるとは思えないわ」
風貴含め、皆懐疑的なようだ。
(確かに、数人でそんなことは可能なのか)
私は流雅をみる。
「我々には大きな力があります。 一つは天陽さま、天沼の国の力を借りられます。 二つ目は蒼姫さま、美染の国の力を借りられます。 更に夕凪さまに助力をえられるでしょう。 そして私たちの存在があります」
「まあ、それはそうだがな。 たった五人で国を興したなどきいたこともない」
「風貴どの、歴史上、いくつも命空で国は興っておりますよ。 はるか北の【雪満の国】《ゆきみつのくに》、【夜月の国】《よるづきのくに》、【海濤の国】《うみなみのくに》などです」
「......まあそうだけどよ、それは昔の話だろ。 ここ百年、国なんてできたこともないぜ」
暁真が眉をひそめる。
「ああ、逆にほとんど小国は大国に飲み込まれて、千ほどあった国が、いまや二十八国だ」
「そうね。 飢君を排して国を興したとして、すぐに他の国に横取りされるわ」
風貴と蒼姫がこたえた。
「ええ、ですので【華咲の国】《はなさきのくに》近くの命空で、国を興します」
「華咲の国、ほとんど他国との交流もない、自然と共にいきているといわれる小国か......」
「あの国が戦をしたなどとは聞かないわね。 それでどうするの天陽」
暁真がうなづき、蒼姫がそう問うた。
「......そうだな。 新たな国という考えはなかった。 私はなにかなすべきことを探していた。 知恵と力を欲っしたのもそのため...... しかしそれももっているだけでは何もならぬ。 どうだろう皆国を興すという偉業試してみぬか」
私は皆にそう問うた。
「私は天陽さまがそれをなされるなら従いましょう」
「俺もいいぜ。 国を興すなんてでかいことなかなかできやしねえ」
「ええ、少しでも私の国のためになるならば私も構わない」
皆が同意する。
「では流雅、まずなにをする」
「一つは命空を排するため、更に有能な人物が必要です」
「ならば人物かあてはあるのか」
「まずは【烏剛の衆】《うごうのしゅう》を従えましょう」
「烏剛の衆!? 盗賊じゃない!」
「烏剛の衆か...... 貧しいものに、盗んだ金をあたえる義賊か......」
蒼姫と暁真がそういった。
「金持ちや悪人からしか盗まず殺しもしないゆえ、民に人気があるな」
そう噂には聞いていた。
「彼らはそれ以外に人をすくう方法を見つけられないのでしょう。 しかし行為に問題があるとはいえ、民を助けるために動いている彼らは仲間にすべきでしょう」
「なるほど...... 我らと志を同じくするか。 よかろう。 烏剛の衆を仲間にするため動こう」
私たちは国を興すために動き出した。
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