第21話
「町ではもう聞きこんだわよ。 知ってる人もほとんどいないわ......」
私たちは町を歩き話をしていた。
「ですが、失踪したのは若い男なんですよね?」
「ええ、そうだけど...... それがどうしたの?」
蒼姫は不思議そうに聞いた。
「老人や子供、女性はいなくなると、少し不自然だが、若い男ならいなくなってもある程度は怪しまれないな」
「ですが、それで労働力かなにかに使われたとは思えません。 なぜさらわれたのか......」
風貴は思うところがあるように眉をひそめた。
「ああ、百人程度なら見つかる可能性を考えると、さらうよりお金で雇うほうがいいだろう。 ......そうではないということは、いなくなってもよい人間という選択だろうな」
「えっ...... それって」
「おいおい、物騒な話になったな。 各国で人がいなくなってる事件があるそうだが......」
蒼姫と暁真も気づいたようだ。
「各国もか...... ならばおそらく坐君、契約のための贄だろう」
「かつてあった古代の契約の儀ですか...... それならば可能性はありますね」
風貴と話していると蒼姫が割り込む。
「ちょっとまってよ! それが本当だったら、はやくみつけないと生け贄にされてしまうわ!」
「ならば、その前に見つけ出すしかないな。 最近も失踪者がいるということは、まだ集めているはず。 古代の契約には百人では不十分...... 風貴と暁真は各町にいって差配人に、最近仕事を依頼したものがいないかを探ってくれ」
「わかりました」
「ああ、わかった」
そうしてみんな手分けして町に話を聞きに行く。
その夜、私は蒼姫とともに【桑葉】《そうよう》という町の一軒屋にいた。
「本当にくるのかしら?」
「今日かはわかりません。 この比較的大きな桑葉の町にはまだ失踪者がでていないというだけ......」
「次に狙われるのはここの可能性が高いということね......」
「ええ、この町の差配人に、若い男の仕事の依頼がいくつかあったとのことですし」
各町には仕事の仲介を生業にする差配人がいた。 私たちはそこをあたって情報をえていた。
「なるほど、それで差配人に仕事を頼みにいったのね」
「そうです。 流石に相手も町を全てくまなく調べるのは不可能。 おそらく差配人に仕事を依頼して仕事を探している若い男をしらべ、そのもののすんでいる所を襲っているはず......」
風貴と暁真にもこの町でいくつかの場所に家を借りてもらった。
「でも、どうやって人にみられないようにさらったのかしら。 やはり坐君を使ったの......」
「多分そうでしょうね。 光を屈折させ姿を消す【拒色】や死角となる【盲隅】《もうかく》、あるいは空を飛ぶもの、または地面や異界にはいることのできる坐君でしょうか」
「そんなのまでいるの......」
蒼姫が驚いて少し考えている。
「......ということは坐君を操るやつがいるってことね。 警戒して戦うしかないわね」
(蒼姫さまのいうとおり、坐君はその能力が大きいほど、強い意思や信念をもつものが使っている。 いま私は雲晶を三十体程度は操れるようになってるが、それでも晃玉は使うと疲労で動くのが難しくなる。 容易には使えまい......)
夜も遅くなり部屋の戸の隙間から月もみえている。 犯人気づかれないように、蒼姫には押し入れに隠れてもらっていた。
(今日はこないか......)
その時、上に放っている雲晶が反応する。
瞬間、私は闇のなかにいた。 どこかを移動しているようだが、目隠しをされていて見えない。
(なんだ!? いま一瞬で地面、いや影にのまれた。 逃げられなくないが、三人にここの場所を伝えるのが先か......)
雲晶は全てが単一の存在のため、互いに位置がわかる。 これを利用して皆に拡散させてつけていた。
(他の雲晶はそれほど遠くないな)
一度どこかにでた感覚があり、そこから時間がたつと再び、地面に潜った。
(さすがに人をさらって遠距離は難しいか。 一度どこかで待機をした。 さっきの木と紙の匂い、どこかの建物だったのか)
それからどこかにでると目隠しをはずされた。 そこは洞窟のようで、広い場所に多くの男たちが手足を縛られている。 奥には牢のように鉄格子がみえ、目の前にいる男二人がこちらをみている。
「若すぎる...... 確か年齢は十八のはずだが......」
「さあな。 俺たちは見張りだ。 そんなことはどうでもいいだろ」
(このものたちが坐君を使ったわけではないのか......)
そういって鉄格子を開けてでていった。
「きみ、大丈夫か......」
そう隣から青年が話しかけてきた。
「ええ、ここは......」
「わからない...... 突然、家にいたら連れてこられた」
そう青年は答える。
青年は
「ああ、
そう肩をおとした。
「そうですか...... それでなにか気がついたことはありますか?」
「気づいたこと...... ああ、彼らのなかに羽織をまとったものがいた。 偉い身分の方だと思う」
(羽織...... 貴族か何かか...... やはり組織的に関与しているということか)
「豊利さんは他の人の拘束をといてください。 もうすぐ仲間がやってきます」
「拘束を?」
豊利さんに雲晶でつくった短刀をわたした。
(いま雲晶たちをこちらに向かわせている。 三人はじきにくるだろう)
鉄格子のほうへ近づく。 小さな燭台が壁にかかる薄暗い通路があり、左右にも鉄格子がみえる。
(人の気配がするな。 他の場所にもさらわれたものがいるのか)
そう思っていると、奥の突き当たりから人があるく音がする。
もとの場所にもどり、手足を縛られたふりをする。
(近づいてくるなら、坐君で奇襲...... いや、やめておこう。 三人をまつ、もうすぐここにつくはず)
目の前に何人かの人物があらわれた。 燭台の逆光で顔はよくみえない。 だが周囲のものたちの態度から察するに、一人はかなりの地位のあるものらしい。
(顔がみえない。 ただ貴族などに間違いはないようだ)
「......このものたちか」
「はい、全員でおよそ三百名ほどです」
「......足りぬ。 足りねば失敗し飢君をよびかねん。 ここで五百ほどはほしい」
「あと、一月あれば」
「ならぬ。 どうやら我らのことを探ってるものがいるらしい」
「まさか...... かなり慎重にやっているのですよ」
「町に放っている者からの話だ。 どうやら蒼姫らしい」
「あのじゃじゃ馬が...... 国が動いているのですか」
男は声をあげた。
「わからんが、早く【異蝕】《いしょく》を呼び出さねばならん」
(異蝕...... 坐君か、聞いたことはない......)
「わかりました。 なんとかあと半月で集めてみせましょう」
「うむ」
そういうと男たちはさっていった。
「本当に助けがくるんでしょうか」
不安そうに豊利さんがきく。
「ええ、もうすぐ...... ほら」
しばらくして上が騒がしい。 すぐに奥の突き当たりから人が近づいてくる。
「天陽さま!」
風貴たちだった。
「あっ! 豊利!」
蒼姫がそういった。
「ああ、蒼姫さま!」
ほっとしたように豊利はそう声をもらした。
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