第22話

「なるほど、だが上にいたものたちはとらえたが、その羽織のものいなかったぞ」


 暁真はそういい、風貴もうなづいた。


「これからいかがいたしましょう」


「雲晶を羽織のものとその側近に忍ばせた。 二人ともここから離れた所にいるな。 一人は北、もうひとりは西のほうだ」


「北はいくつかの町、でもここから西は海でなにもないわ。 いえ、遺跡がある......」


「遺跡...... 古い儀式をするなら、そのための場所が必要ですね」


「古代の儀式...... 他にも捕らえられたものがいるかも、黒幕はしりたいけど、さきにそこにいってみましょう」


 私がいうと、蒼姫はそう答えた。


「いえ、ここからは国につたえましょう。 豊利さんたちをかえさねばなりませんし、相手は町に人を放っております。 かなり大がかりな策謀のようです。 蒼姫さまはこのまま帰ってください」


「だったらなおさらだわ! 町にいるやつに解放が知られたら、なにをするかわからないもの! 場所がわかるから、そこに一人でもいくから!」


「......しかたないですね」


「まあ、いいんじゃねーの」


 二人にそう言われてやむなく遺跡へと向かうことにした。



「ここですか」


 海が見える荒れた岩山の中にある石でつくられた建造物がある。 私たちは雲晶を追い遺跡へときていた。 


「ええ、ここで祖先が坐君と契約して、この国をつくった、でも......」


 そういいながら蒼姫の顔がくもる。


「それは生け贄を使った契約だった......」


「そう...... 一族からだけど、多くの犠牲を払い契約を結んだらしいわ」


 そう悲しげに蒼姫は壁を触りながら遺跡の中をあるく。


「根源世界へと至る【坐契の儀】ができるまえは、無理やり命を糧に坐君と契約してたらしい。 たから大量の飢君を生み出すことにもなった」


 私がそういうと、風貴はうなづく。


「......この数百年、絶え間ない戦ばかりだった。 生き残るにしても、奪い取るにしても坐君ってのは必須だったしな」


 暁真はしかたないという風にいった。


 そういういわくがあるからだからだろうか。 この場所からはなんともいえず不快で陰鬱な空気が漂う。


「ここで坐君をすでに契約している可能性もあるな......」


(異蝕のこともある。 戦いになったら、錬舞と雲晶をつかう。 もし、それで足りなければ......)


「......なるだけ晃玉はつかわないでください。 あれは負荷が大きすぎます」


 風貴が察したように話した。


「......わかった」


 太い石の円柱がたっている遺跡を奥へと進む。 蒼姫もきたのは初めてのようで、警戒しながら進んでいく。


「とまっている...... すぐそこだ」


 柱に隠れてゆっくりとすすみ奥をみる。


 そこは祭壇のようで上には二十名ほどのものたちがいる。 



「紋様の修復はもうすぐか」


「はっ、もう贄さえあればよびだせます......」  


 そう話している。 どうやら地面にある紋様の修復作業をしているらしい。


(まだ生け贄が解放されたことを知らないか......)


「ここには羽織の男はいないな...... 合流するまで、およがせますか?」  


「そうね...... 一網打尽に......」


 蒼姫は言葉をとめた。 後から気配がする。 私たちは柱の影に隠れた。


「大変です麻生あそうさま!」


(こいつは麻生というのか)


 そうあせるように男が走ってきた。


「なにごとだ」


「実は......」


 祭壇に走りよりそばで耳打ちしている。


「なっ!? 贄が解放されただと!」


 驚く男の声が遺跡内に反響するように響く。


(ばれたか...... かなり早いな)


「くそっ!! やはり気づかれていたのか!」

 

「どうされます......」 


「くっ! あの方に連絡を...... いや、このままやるしかない」


「待ってください! 危険すぎます! 大勢の贄の生命と魂がないと不完全な召喚になります! 飢君になるやも......」


「仕方ない。 もはやあの方は我らを許さないだろう...... 不完全でも坐君と契約して、即座に計画をおこすしかない」


 そういうとざわめいた。


「そんな! このままだと失敗します! 危険すぎる!」


「このままではあの方は我らを殺す! やるしかない!」


 そう麻生はいうと何か呪文を唱え始めた。


「まずい! 強制的に契約するつもりか!」


「させない! 凍えろ蒼羽!」


 蒼姫がそういうと、数十体が白い冷気を発しながら、祭壇へとむかい、自らも腰の剣をぬいてむかった。


「蒼姫を補佐しろ! 風貴、暁真! 集え雲晶、穿て錬舞!」


「はい! うねれ土波!」


「おお!」


 地面がうねり風貴たちがそれにのって祭壇へとむかう。


「なんだ!? ぐわっ!」


「吐き出せ玄吐!」


 蛙が黒い煙となり祭壇をおおう。


 祭壇上は混戦となって剣がかち合う音がする。


(煙のなかなのに、相手は戦えるのか...... なにか感知する坐君がいる)


「飲み込め! 沙河しゃか!」


 祭壇上にどこからともなく砂が溢れた。 黒い煙が蛙へとかわる。


 砂は辺りを包むと中央に麻生という男の周りを砂の渦を巻いている。


「うわああああ!! 麻生さまぁぁ!!」


 その渦に祭壇にいたものたちが飲み込まれ、底にいる巨大な虫のようなものに捕まっている。


(あれは砂蜉蝣しゃふゆう砂を操る坐君か!)


「土波!」


 風貴と蒼姫が、海豚いるかのような土走鯆にのり、渦に抵抗している。 


「蒼染!」


 蝶々が虫にむかい冷気をほとばしらせる。


「ギィィィ!!」


 虫はいやがっている。 男たちは逃げようとしたが、再び虫にとらえられた。


「雲晶、錬舞!」


 雲晶を弓にして、錬舞をつがえると私は照準を虫に向け、錬舞を放った。


「ギィィィャ!!」


 錬舞が砂蜉蝣を貫くと、砂は一瞬で消え失せた。


「くっ! もう一人いたのか! くそっ!」


 麻生は這いながら紋様へとむかう。


(まずい! すぐ二射目は無理か!)


「風貴とめろ!」


「はい!」


 風貴が迫ると、麻生はみずからの手首をきり血をまいた。


「わが血肉を糧に、蝕め!【異蝕】!」


 麻生が絶叫する。


「みんなはなれろ!!」


 私がさけぶ。 すると空気が震え、麻生の頭上に鮮血のような赤い穴が生まれる。


「うわぁぁぁ!」


「ひぃぃい!!」


 その祭壇にいたものたちが次々と吸い込まれていった。


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