第20話
「へぇ、世界を知るための旅ね。 おもしろそう」
そう私の話を本当におもしろそうに蒼姫はきいている。
「蒼姫さまはなぜお一人でこのようなところへ? 家臣が許可しないはずでは?」
風貴がきくと、蒼姫はほほを膨らませる。
「......当然周囲に言わずにきまってるでしょ。 何かにつけて姫なのだからとやることなすこと止められるのよ。 面倒ったらないわ。 国なら姉さまで十分、私は縛られるのはいやなの」
「確かに国は安定してるが、隣国は大国、出歩くのは危険だろう。 さらわれでもしたらどうする? 利用されるぞ」
暁真が腕を組みでそういう。
「まあね。 今もなにか画策しているみたい...... でも数百年あの国からここは守りきっているのよ。 いまさらなんてことないわ。 それに私は強いから、さらわれるようなまねはありえないわ」
その長い髪を撫でて、蒼姫は事も無げにいった。
(かなりの自信だな。 確かにあの蒼羽という蝶々【冷蝶】《れいちょう》は氷を操る強い坐君だ。 それに、主座の姫がもつ坐君がよほどの力をもつのか)
「ほら、【細袖】《さいしょく》の町よ」
そう蒼姫がいうさきに町がみえてきた。
「ここが細袖か。 有名な町だな」
そこは服飾の店が軒をつらね、多くの者で賑わっていた。
「人も多いな」
「ここは外国の観光客もよくくるわ。 かなりの数の着物や装飾品の店があるもの」
そう蒼姫は胸をはる。 よほど自信があるようだ。
(国を誇らしく思っているのだな)
「天陽さま。 あそこに夕顔の支店があります」
風貴がいう場所に夕顔という看板の店がある。
「あら、あなた夕顔の関係者なの。 確か店主の夕凪にはそういえば孫がいるらしいわね。 確かにそんな感じね」
「私ではなくて、この暁真がその主の孫なんです」
「これが...... どうみても無頼の徒だわ」
顔をしかめて蒼姫が暁真をみる。
「誰が無頼の徒だ! お前だって姫の癖にふらふらであるいて変わらんだろうが!」
「なんですって!」
「こら! 暁真! この国の姫だぞ」
風貴は叱責するが、暁真は意にも介さない。
「なんだ? 姫様はその権力で、庶民を断罪するかよ」
そう逆にあおった。
「ぐっ! こいつ!!」
蒼姫は地団駄を踏んでいる。
「やめないか暁真。 すみません、暁真の非礼は詫びましょう」
私がそう謝る。
「......まあいいわ。 それなら少し力を貸しなさいよ」
「なんで俺たちが力をかさなきゃいけねーんだ」
そういって暁真は蒼姫とにらみあっている。
「まあ、まあ、それでなにをするのですか?」
「人助けよ」
そう蒼姫はいった。 その顔から察するには深刻な事柄のようだった。
「人さらい......」
私たちは夕顔に泊めてもらい、蒼姫から話を聞いていた。
「ええ、いまこの国で起こってるの。 もう百人は姿を消しているわ......」
蒼姫はそういい、険しい顔をしている。
「どうしてですか? この国からどこかに移住したのではないですか」
「そうだな。 百人程度の移動なんてどこの国でも起こるだろ」
風貴と暁真が口を揃えた。
「ええ、普通に姿を消したならね。 でも私の見知ってる者も消えた。 その青年はとてもこの国からでるような人ではないの。 なにせこの国に好きな人がいたんだから」
「失恋とかでは......」
「いいえ。 意中の娘と恋仲になって婚約までしていた。 その恋人は国へ陳情したけど、相手にされなかったの」
「確かに成就したのならおかしいな......」
「突然、心変りもあるだろう。 もしくは博打で借金があるとか」
そう風貴に暁真はいう。
「取り立てなんかなにもなかった。 真面目で若いのに店を得られるぐらいの貯蓄すらしていたわ」
「ふむ...... ならば、そこまで切迫しているようには感じないな」
風貴はうなづく。
「そう調べてみると、姿を隠しているもののうち、なにも問題を抱えていないものも多かった。 でも明確な事件性がないから、国も動けない」
「それで姫がうごいている...... ということですか?」
「そう! 私はなにかこの事に作為的なものを感じる。 ただ一人で調べるのは難しい。 あなたたちに手伝ってもらいたいの」
そうこちらを強い目でみている。
(確かに妙な事件だな。 何か気になる)
「わかりました。 お手伝いいたしましょう」
「ええ!? 本気か。 お前世界をみて回るんじゃないのかよ」
暁真がおどろく。
「これも世界をしるためだ。 それになにか引っ掛かる......」
「よいではないか暁真、天陽さまがこうおっしゃるのだ」
「風貴、お前天陽に甘すぎだろ」
あきれて暁真が眉をひそめる。
「なら決まりね! さてこれからどうする?」
「お前決めてなかったのかよ」
「一人でできるのは国中回って、おかしなことがないか聞き込むくらいなのよ」
蒼姫は膨れっ面でそう暁真にこたえた。
「まあ、暁真、夕凪に連絡して、各国に同じ事件がないか探ってもらってくれ」
「......はぁ、わかったよ」
ため息をついて暁真は部屋をでる。
「私たちはその間に町を調べよう」
「わかったわ」
私たちは町へ異変がないか調べに向かつことにした。
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