第13話
「みんな無事でよかった」
現世に戻ると、風貴と暁真も無事契約できていた。
「ええ、本当に......」
風貴が安心したようにこちらをみている。
私たちは部屋に戻り対策を立てる。
「言われたとおり、坐君を手に入れたが、これからどうするんだ? 主座が死んだぞ」
暁真はそういった。
そう我々が契約をしているとき、主座、天房の死去の報がつたわった。 夕凪が天沼の国にはなっていた者から文が届いたと言う。
「ええ...... ついに動き出しましたね。 これで、宵夜どのは主座を狙うでしょう。 いまならば家臣、民たちは動揺している」
「だが、戦もできんのだろう」
風貴は怪訝そうに流雅に聞いた。
「......ですが戦ができないのは向こうも同じです。 ではそれらも踏まえてこれからのことを説明します」
流雅は地図を机に開いた。
「まず天沼の国にはいって、夕凪どの、暁真どの、わたしの三人で馬車にのり国へとはいります。 風貴さま、天陽さまとお二人は吼爪でこの東の国境の壁を越えられますか?」
「ああ、可能だが、町に入ったらどうする?」
「ここを合流地点とし、我々が拾いに向かいます」
そう机の地図を指差す。
「まあ、確かに中へは入れるだろうが...... そのあと手詰まりになるぞ」
暁真が意図がわからず首をかしげている。
「ええ、ですので直接、天宸宮に向かいます」
「なっ!?」
流雅の言に一同が驚く。
「拐うのか、殺すのか、どちらにしても難しいな」
私がいうと流雅は首をふる。
「そのようなことはしません。 あなたがその場に存在することをみせればよいだけ、それならば離反するものたちを止められるでしょう」
「しかし、警戒の天宸宮へ侵入者など......」
「簡単ではないが...... そうか」
夕凪がなにかに気づいた。 それをみて流雅はほほえむ。
「ええ、【天君祭儀】《てんくんさいぎ》です」
それは一年に一度、国を守護する坐君、天君を奉る祭儀。 主殿で行われ貴族や重臣があつまる。
「宵夜どのは、ここで天陽さまがいないことを皆にみせつけ、自らが主座であることを宣言するはずです」
「なるほど、逆にその場にいれば、その策謀を阻止できるのか」
暁真はうなづき、風貴はといかけた。
「だが、なおさら近づけはしないだろう。 天君祭儀は各州を守護している【天意六将】が護衛する。 その中には至武将【響】《ひびき》さまも」
風貴の顔がくもる。
(天意六将...... 天沼の国、武将の中の上位の六名。 至武将、響は武将の最上位、天沼の国、最強の武将)
「......ええ、それを突破するため、あなたさま方に坐君を得てもらった。 倒す必要はありません。 天陽さまをその場にいさせればよいのです」
「天陽さまがその場にいれば、主座は天陽さまということになろうな。 おそらく、宵夜どののこと、何かを仕掛けてはいるだろうが......」
そう夕凪は怪訝そうな顔をした。
「だが、それしか手はないな。 天君祭儀は三日後の正午、速やかに向かおう」
私がそういうと皆はうなづいた。
「あそこから入るのか」
「ええ、この場所には飛行する坐君もちがいないとのこと、夕凪どのがそういっていました」
月が雲に隠れ、周囲がくらいなか風貴はそういう。 私たちは国境の壁の近くの丘にひそんでいた。
「......風貴、本当によいのか。 そなたひとりならば、生きていくのは容易かろう。 父への恩義で私に仕えるなら、十二分に返してくれた」
気になっていたことをついに風貴に聞いた。 失敗すれば、もはやもどれぬだろうからだ。
「天陽さま...... 確かに私はあなたの父、天頼さまへの恩義はありました。 しかし、あなたにお仕えしているのは、それとはことなるものです」
「しかし......」
「そうですね。 お話ししておいたほうがよろしいか......」
そういうと風貴はこちらをみて座る。
「かつて、私は天頼さまに命を助けられた。 しかしあの方の子供であるあなたのことを疎ましかったのです」
「確かに...... そんな記憶はうっすらある」
ふふっ、と風貴は笑うとつづけた。
「私が五つのあるとき、私のあとをついて回るあなたに嫌気がさし、森のほうへと隠れました」
(確かにそうだ。 私はあの時、風貴を探していた...... そこで)
「だが飢君にでくわしてしまった。 私は死を覚悟しました。 しかし、そのときあなたが飢君の前に立ちはだかったのです。 まだ三つかそこらの童が巨大で戦うこともかなわぬ飢君のまえに......」
(おぼろげながら記憶がある...... しかしその飢君をどうやってはいしたか覚えてはいない)
「そのとき、私はあなたの主座としての器をみた」
「それは風貴を、兄弟を守ろうとしたのではないか」
「それであってもです。 私はこの方を守らねばならない。 この方の剣と盾にならねばならない。 そうこの命をとしてでも......」
そういうと風貴は膝をまげ頭を下げた。
(私にその器があるかはわからない...... だが、この男がそういうのだ。 私が信じねばなるまい)
「わかった。 風貴には命を捧げてもらおう」
「はっ!」
暗い夜に月明かりが差し込んだ。
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