第12話

「本当に大丈夫なのか......」


 暁真はそういっている。 私たちは流雅の話を聞いて、夕顔地下の土蔵にいた。


「これから、天沼の国へもどるために私とお三人さまには、坐君の契約を行っていただきます」


「まて! 我らだけでよかろう! この間も天陽さまは命を失いかけたのだ!」


 流雅に風貴が詰め寄る。


「なりません...... 坐君との契約が危険なのは、私も知っております。 

ですから必要なのです。 恐れて国を捨てたと思われぬようにせねば戻っても人の心を動かせません」


「確かに心弱い者では、国を治める主座はつとまらん。 だれも付き従わないな。 複数の坐君を従えていれば、弱いものという疑念は目に見えて払拭できる」


 暁真はうなづきつづける。


「だが...... お前は本当に国を統べるつもりなのか」


「何をいっている暁真!」


「まて風貴...... どういうことだ暁真」


「......お前にはなにか人とは違うものを感じてはいる。 しかし国を統べるというのは多くの困難がつきまとう。 お前は最悪の決断もできうるのかということだ」


「最悪の決断......」


「そうだ。 多くを守るためには少数を無情に切り捨てなければならぬこともあろう。 その時、優しいお前は非情に徹することができるのか。 じいさんや俺や流雅、そして風貴を失ってもその信念をとおせるのか」


 そういままでになく真剣な眼差しで、暁真はこちらをみる。


「できる、とは即答できぬ...... そのときになってみないとわからない。 だが非情や無情が最良とは考えてはいない」  


 考えたが答えはでなかった。


「......俺の両親は、じいさんが追われ国を離れても、忠誠だといって天沼の国に残った。 それで荒河の国との戦いで死んだ...... 忠誠心など俺にはわからんが、家臣にはそれほどの思いがあるのだ。 お前はそれに答えられる主となれるのか」


 そう暁真は私の目をじっと見据える。

  

「わからない...... ただ、みっともないと罵倒されても、足掻いてでも、恥をかいても私は私の理想をとおすしかない。 いまの私にはそれしかいえぬ」


 私が正直にそういうと、暁真はあきれたように深い息をはいた。


「......ふう、わかった。 お前が性根からのあまちゃんなのはな。 詭弁でもなんでも言ってその場を上手くおさめないと、その不器用さではまつりごとなぞうまくはいかんぞ」


「ふふっ、そうですね」


 流雅も笑う。 


「まあいい、その甘さをとおすための力は貸してやるよ」


「すまぬ。 みなには力を借りる」


「それはもちろん。 しかし坐君は......」


「大丈夫だ風貴、あのときは強大な何かに接触してしまっただけ、まだ余裕はあった」


「......わかりました。 ですが、ご無理はしないでください」


「わかった私が帰らねば民が苦しむ。 だが流雅は残ってくれ」


「どうしてでしょう? 私も偲顕をもっていますよ」


「万が一にも君を失うと、我々がもどっても意味がない。 国を取り戻すには君の指針が必要だ」


「......わかりました。 なればここでお待ちしましょう」


 そう静かに流雅は答えた。


 各部屋にはいるためわかれた。


「ご武運を......」


 そうはいる前に祈るような仕草を流雅がした。


「ああ......」


 私は部屋の御魂社にすわると、目を閉じ集中する。


 

 目を開けると竹林の中にいた。前とは違い雷はないが、黒い雲は空をおおっている。


「前とは違う...... わたしの心がこうなのか、周囲に天までつく竹林、黒い雲、見通せぬ困難な状況か」


 そばに錬舞が浮いていた。


「そうか、常にそばにいてくれたのか......」


 錬舞は空を泳いであがる。


 周囲にはいくつかの坐君とみられるものがいる。 


(草花や小動物、この中から、私が必要とするものがいるのか)


 ゆっくりと歩きながらその姿をみる。


(いろんな坐君がいるが、なにかちがうな......)


 しばらくあるいて回る。


 そのとき、錬舞が私の前に飛び降りた。 前に煙が立ちのぼっている。 それは集まり小さな雲のようになった。


(これはまずい!)


 私は離れる。 雲はこちらに向かってくる。 


 それは雲ではなく小さな尖ったような結晶の群れだった。


(あれは【隻群】《せきぐん》、あの群体が1つの統べられた意思をもつという)


 背中に近づいてくると空気が爆ぜる音がした。 その衝撃で倒れた。


(やられた。 ......いや、痛みはない)


 振り向くと錬舞が隻群を蹴散らしている。


「かばってくれたのか! よし! いけ錬舞!」


 私がそういうと錬舞はひれを回転させ、勢いよく雲のような隻群を貫く。


 隻群は飛散したが、すぐ元へともどると形かえ四角く壁のようになるなる。 今度はぶつかった錬舞をその壁で止める。


「貫けない!」


(固い! 物理的に当たっても無駄か...... いや、ここは心の世界、ただ当たるでは駄目だ。 想いをぶつけないと)


「錬舞、そのままだ!」


 そう私はかけより錬舞の尻尾をもち縦にした。 ひれの回転で壁を切り裂いた。 隻群たちはあつまろうと形をかえる。


「うおおおお!!」


(私は国を取り戻さねばならない! 力をかしてくれ!)


 そう想いをもって、集まる隻群たちを錬舞できりさく。


 全ての隻群が地面に落ち消えていったが、一匹だけ私の前に浮いてきた。


「......雲晶うんしょう


 そう聞こえると、雲晶は消えた。


「名は雲晶か、どうやら契約できたようだ...... 今の状態ならまだ契約できるか。 まず雲晶を呼んでみよう」


 坐君を呼ぶには、【宿言】《しゅくげん》で呼び出す。 坐君の存在を、現世に固着させるために言葉をつくる。


(雲晶はどう呼ぶか...... 集まれ、いやつどえ、がいいか)


「集え、雲晶」


 そういうと、影より二十匹ほどの雲晶があらわれる。


(少ない...... まだ私の心の力がそれほどしかないのかもな)


「雲晶、槍となれ」


 雲晶は集まると槍のようになり私はそれをつかむ。


「少ないが、自在に形をかえられるな。 雲晶、錬舞、辺りを探ってくれ」


 坐君たちは周囲に散った。


「あと、もう少し契約をしたい。 あれに出会わないようにだが......」


 私はかなり遠くにみえる黒い雲から離れるように歩いた。


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