第9話

 風貴と暁真が対峙する。


「私が止めたら、やめること、両者よいか」


「はい」


「それならさっさと止めてやれよ。 やりすぎたら、じじいがうるさそうだ」


 そう暁真はそううそぶくと棍を構えた。 風貴も天陽をにらみ刀を構える。


(風貴は強い、並みの大人でも歯が立たない。 暁真はどうする?)


「でははじめ」


 一瞬で風貴は間合いをつめ、華麗に動き鞘で連打する。 暁真は棍でかろうじて防御した。


「くっ! 顔に似合わず意外にやるな! だが!」


 それを力任せに暁真ははねあげた。 風貴は体が中に浮き回転して着地した。


「この力......」


 風貴も驚いている。


(見た目痩せているとはいえ、体を鍛えている風貴を空にとばすとは、暁真はかなりの怪力だな)


 暁真はすぐに棍を真っ直ぐついた。 それは唸りを上げて風貴にむかう。


 それを風貴は刀の鞘で受け止め、ずらそうとしたが弾かれる。 そのままそのつきを受けかなり後にとんだ。


(あっ!)


 止めようとしたが、風貴は着地し刀を構えた。


「ほう、自分から後に飛んだか......」


 そういって暁真は棍を地面につきたてた。


(棍を回転して打ち込んだのか...... すごい威力だ。 突きの早さといい鍛練のほどがうかがえるな)


「お前、従者のようだが、その餓鬼になぜ仕える。 その腕なればどこかに仕官すればすぐ登用されるはずだろう。 それともその餓鬼が前主座の息子だからか」


 そう暁真は風貴をみながらそう聞いた。


「知れたこと、それほどのお人だと思うからだ」

 

「この餓鬼が...... ただのいいとこのお坊っちゃんにしかみえんがな」


 暁真は私を横目でみてそういった。


(確かに暁真のいうとおりだ。 風貴は賢く強い。 私などにつかずとも一人でだって生きていけるのに...... 昔はそれほど忠誠心もなかったはず、それがなぜ)


 そう思っているうちに、しばし二人の攻防はつづいていくが、急に動きがとまった。


「天陽さま......」


 風貴は私のそばにきた。


「刺客か......」


「何者かはわかりませんが......」


 周囲は河原が広がり、斜面に林がある。


「おい、でてこいよ」


 気づいていたのか、暁真はそう林に向かっていうと、ぞろぞろと木々の間から武器をもつ人相の悪い男たちが現れた。


「どいつが天沼の国の天陽だ......」

 

 幅広の大刀を肩にのせ、頭目とみられる大柄な男が横柄に聞いた。


(こいつらは雇われたものたちか)


「どいつだろうが殺すつもりだろうが」


 暁真にいわれ頭目が広角をあげた。


「まあな...... ただ死体をもっていかなきゃならねえ」


「なら、俺だ」 


 そう暁真は棍を向けた。


「暁真には関係ない、ここはひいてくれ」


「そういうわけにいくかよ。 どうせ顔をみた俺も殺すつもりだしな」


「そういうわけだ。 よくわかっているな。 仕方ない三体、骸にしてもって帰るか。 いけ」


 頭目の合図で男たちが二十人ほど、斜面よりおりてくる。


「ひとりめ!! ぐわっ!!」


 刀できりつけようと迫る男を、暁真は棍で突きたおす。


「なめやがってこの餓鬼が!! がはっ!!」


 次々に切りかかるが、暁真は容易く棍で叩きのめしている。


 こちらにも向かってくるが風貴が切り捨てた。


「ちっ! 餓鬼のくせにこいつらやりやがる。 しかたねえ。 尖れ【岩牙】《がんが》!」


 頭目がいうと、河原から大きな尖った岩が何本も突き出てきた。 私たちはかわした。


「こいつ坐君を...... なら遠慮は入らねえな。 吠えろ【咆赤】《ほうせき》!」


 そう暁真がいうと、ただの木の棍の先に赤い水晶が槍の穂先のように現れる。


(あれは!? もしかして反鉱はんこうか!)


 そして刺客達をその槍先でついていき、頭目に棍を振り下ろした。


「ふん! 俺の岩牙の餌食にしてやるよ!」 


 四本もの岩がつかむように地面から鋭く飛び出て、暁真に向かう。


 ガキンッ


「ぐっ!」


 棍でそれを防いだ。


(すごい! あの大岩を棍でとめた! だが風貴も六人におさえられている。 このままでは...... 使いなれてはいないが、私の錬舞で)


「やめろ。 手をだすな......」


 私の動きを察したのか、そう岩を止めながら暁真はいった。


「しかし......」


「せっかくたまっているんだ。 そのままみてろ」


(たまっている? 確か反鉱の力は......)


「さっさと串刺しになりやがれ! 岩牙」


 頭目がどなると、さらに二本、地面から岩の牙がつきだし、暁真おそいかかった。


「咆晶!!」


 そう暁真が叫ぶと、棍の水晶が赤く光る。 その瞬間、大気が震えると、ものすごい衝撃が岩を粉々にして全て吹き飛ばした。


「なっ......」


 頭目はそのまま斜面へと叩きつけられた。


「いななけ! 吼爪!」


 風貴は相対していたものたちを切りさいていた。 それに怯えたものたちは逃げ去っていった。


「大丈夫ですか! 天陽さま!」


「ああ」


「お前も坐君をつかうとはな」


 そういいながら暁真はちかづいてくる。


「わたしだけではなく、天陽さまもお使いになる」


「なっ! 風貴とやらはわからなくもないが、お前もか!」


 こちらをみて暁真は驚きの声をあげた。


「ああ、廻鰭だ」 


「廻鰭...... 契約の難しいというあの坐君をか」 


 私をを驚くようにみている。


「天陽さま! 不用意に奥の手を教えては......」


「いいんだ風貴、暁真には仲間になってもらう」


「仲間......」 


「暁真、私たちは天沼の国を取り戻す。 力を貸してはくれまいか」


 私は暁真に素直にそういった。


「国...... 戦争でもやらかそうってのか。 たった三人で」


「いや、国には私と共に立つものがいる。 そのものたちとだ」


 暁真はしばらく黙っていたが、口を開いた。 


「ふざけるな...... といいたいところだが、じじいとその男が認めるお前はどういう人間か知りたくなった」  


「ならば......」 


「ただ、まだ認めた訳じゃねえ。 だから従属はしねえ。 あくまでついていくだけだ。 その間におれを認めさせてみろ。 無駄だと俺が思ったら、それまでだ」


「ああ、それで構わない」

 

 暁真はついてくることに了承した。


 

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