第8話
「......ここは」
目を開けると布団に寝かされていた。 周りには風貴と夕凪が座っている。
「......天陽さま」
風貴が悲しげにこちらを見つめている。
「私は......」
「およそ三日間ほど意識がありませんでした」
そう夕凪が安心したようにいった。
「なるほど、その声の主に接触したことが、昏睡の原因でしょうな」
「やはりそうか......」
「坐君の中でも巨大な力をもつ者は、触れただけで心を奪いとるといいます。 この世界をつくったとも、神のごとき力をもつとも......」
(あれは、いまだ、ならず、そういっていた。 どういう意味だろうか)
私はあの言葉が脳裏に焼き付いていた。
「私のふがいなさが、天陽さまをここまで追い込んだのか......」
そう拳を握り風貴が唇をかむ。
「違う風貴...... 私は国へともどる覚悟を得るため。 自ら坐君と契約した」
「国にもどる!? それは......」
「ああ、私は民を救う。 そのために宵夜と相対する」
驚いてこちらを見据える風貴に私はさらに話す。
「......ついてきてくれるか風貴」
「は、はい!! この風貴、いかようなことがあっても天陽さまについていく所存!」
そう風貴は平伏する。
「ついぞ ......お決めになられましたか」
そう夕凪は悲しそうに微笑んだ。
「ああ、これから起こりうる惨禍を止めねばならぬ。 我が責務だ」
「わかりもうした。 しばし休んだのち、この後の事をお話をいたしましょう」
そして次の日まで休む。
「それで、この後だが...... 国に私につくものもいようが、彼らだけで相対するのはむずかしい。 なれば郞党を集めねばならぬ」
次の日、夕凪と風貴と話をする。
「資金などは私にお任せを、天陽様につくだろう者に文をだしておきます。 まずは我が孫【暁真】《ぎょうま》をお連れくだされ」
夕凪はそう提案する。
「わかった。 何もかも頼りにして申し訳ない」
「そういいますな。 私とて祖国を憂う気持ちがあり、若様ならばそれを払拭してくださると信じておりますゆえ」
そう夕凪は頭をさげた。
私と風貴は暁真がいるという西にある渓谷へとむかう。
「暁真は武の才こそありますが、その性格に少々難がございます。 しかし天陽さまは、これからさまざまなくせ者を統べねばなりません。 自らの度量であやつを屈服させてくださいませ」
そう夕凪は店から見送った。
「暁真か、どのようなものか...... 夕凪の孫で推すぐらいなものなら、かなり有望なのだろう」
「でしょうね。 夕凪どのは公私を分けるお方。 例え身内でもその力が及ばぬならばすすめはしません。 しかし、刺客のこともある、夕凪どののいうとおり、人を借り受ければよかったのでは」
「そんなことをすれば夕凪が狙われるかもしれない。 夕凪の力添えがなければ今後もたちいかなくなる。 それに私も坐君をもっているし、風貴もいる」
「そうですね。 確かに大所帯なら目立つやもしれません」
「ああ、それに店を離れれば宵夜の目を欺けるかも、私の目的もわからぬだろうしな......」
渓谷まできた。 滝の音が遠くからきこえる。 私たちは河原を話しながらあるく。
「それで坐君を使うと疲れるというのか......」
「はい、肉体ではなく精神でしょうか...... 多用すると意識を失うことも死ぬこともあります。 本来いくども訓練し試すのですが、天陽さまはその時間もない。 天陽さまはこれからやるべきことがあります。 できるだけ使わぬようお願いします」
「わかった。 危険になるまでは使用を控えよう。 それで暁真は
どのような人物なのだろう?」
「性格に難があるとのことでしたね」
私たちが滝の近くまでくると、そこで上半身がはだかで木の棍を振るう少年がいた。
「そこのもの。 この辺りに暁真いうものがいるはず、しらぬか?」
「ああ?」
風貴の問いに、私たちとそれほどかわらぬその赤い髪の少年は、振り向く。 その目には力があった。
(均整の取れた体...... そしてあの体さばき、かなり武芸ができるもののようだ。 彼か......)
「それは俺だ。 なんのようだ?」
「お主か...... ここにおわすは我が主、天陽さまだ。 お話がある」
「天陽、ああ、前にじじいのいってた前主座の子か...... 俺のほうには用はない」
そういって棍をふる練習をつづけはじめた。
「無礼な!!」
風貴は憤慨して前にでた。
「風貴まて。 暁真どの、私と共にきてはくれぬだろうか」
「ああん? なんで俺がお前のような餓鬼に付き合わねばならんのだ?」
不快そうに暁真がこちらをにらむ。
「貴様!!」
「やるか、相手になってやるぞ優男」
そういって笑い、棍をこちらに向ける。
「まて」
「お願いします天陽さま!」
(妙なことになった)
しかたないので見守ることにした。
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