第3話

 私たちは国境近くの関所がある町【空掘】《くうくつ》へとやってきていた。 石の砦のような、国境の壁に大きな門があり、複数の兵士が検問をしている。


「ここを越えれば国をでられますが、すんなりと通してくれるでしょうか。 もう刺客は宮中にもどって報告しているでしょうし」


「ああ。 阻止してくるかもしれない...... ただ大っぴらに私は殺せないだろう。 噂になってしまうのは、かの者たちも望むまい。 だから人通りが多くなったとき関所をぬけよう」


 時間を潰すべく町を歩く。 関所があるだけあって、他国の商人たちもおおく、他の町よりいくぶん賑やかではあった。


「かなりそっちも厳しいようだな......」


「......ああ、こう税をとられたら、商いもうまくいかん。 このままなら他の国で商売も考えねばならんな」 


「客もめっきり少なくなっちまったな。 もうこの国は......」


 外の商人たちが口々にそう話している。  


「やはり、この国にはかなり問題ありますね」


 そう風貴が眉をひそめる。


「他の国からの関税を高くしたときいている。 国内商人の保護か...... だがそれでは旨味のない他国の商人はこの国からさる。 国内だけで手に入るものには限りがあろう」 


「ここは内陸ですからね。 新鮮な海のものが手に入りづらい。 川魚と干物ぐらいでしょう。 しかも宮中の散財がひどい、国庫もすぐにつきるでしょうね」


 この国、【天沼の国】は内陸にある。 鉱物がでるため、それを加工し販売、交易していた。 


(海のものを早馬で届かないとなると、干物に頼らざるを得ない。 片寄った食で、民たちは体に異常をきたすかも...... いやでていく者が勝手なこと...... やめよう)


「それで天陽さま。 やはり北の【白銀の国】《しろがねのくに》にいくのですか?」


「ああ、あそこには夕凪ゆうなぎがいる。 少しだけ世話になろう」


「......先生ですね。 わかりました」


 風貴が少し決まりの悪い顔をした。 近くの茶屋でしばし時間を過ごし、大勢の人たちが動き出したので関所にちかづいた。


 兵士たちが検分をしている。 その一人がこちらに気づく。


「あっ! 若様!」


 兵士たちは全員規律した。


「よい。 職務にもどれ」


「はっ!」


 兵士たちは持ち場にもどる。


「聞いてないのか......」


「妙ですね......」


 私たちは兵士が招くのを拒否し列にならぶ。 私たちの番がきた。


「若様が一体どこに?」


 風貴が書類に記載しているとき、若い兵士が話しかけてきた。


「ああ、外の世界を知らないと...... 貴族として遊んでいるわけにもいかないだろう」


「それは...... しかし、最近、外には野盗や飢君きくんがいて、従者一人では危険です...... 他に供のものはいらっしゃらないのですか?」


 不思議そうに聞いてくる。


「この風貴は坐君を扱えるから大丈夫だ」


「なるほど、こんな少年なのにたいしたものだ。 若様がこの国の為に学ばれるということはありがたいことですね」


 そう感心している。


(この国から逃げるのだけど......)


「おい!」


 遠くの中年の兵士が若い兵士をにらむ。


「......では、お通りください」


「ああ、ありがとう」


 私と風貴は関所を通り町をでた。


 

「どうやら、本当に聞いてはいないようですね。 国をでていけばそれでよかったのでしょうか......」


 風貴が首をかしげる。


「それなら恫喝でも脅迫でもよかったはず...... それを毒のうえ刺客を投入してるところをみると、確実に殺したいはずだがな」


「ならば、外で、ということですか......」


 風貴は周囲を警戒し、刀の柄に手を添えている。


「でも、やるなら国より離れたところだ。 できるだけ自分達に疑惑をもたれないように、もしくは言い訳できる距離で仕掛けてくるはずだ......」


(こんな気持ちだと、もはや、かえれないもしれない郷里に想いを馳せることもできないな......)


 どうすることもできず、ただ遠ざかる国をみる。



 壊れて舗装もされていない石畳の街道横をあるく。


「馬を買うか、借りたほうがよかったですか?」


「いや、みなに分けたから残りのお金は少しでも置いておきたい。 一時、夕凪に師事して商売を教わったら、別の国で商人になる。 それなら、いずれ天沼の国に何かできるかもしれない......」


「......そうですか」 


「風貴もいきたいところがあれば、行ってくれればいい...... もはや私は国をおわれた。 もう若様でもない。 お金も半分分けられる。 当面はいきられるだろう」


「......私がお仕えするのは天陽さまのみ」


 そう静かに風貴が答えると、こちらもみずに歩いていく。


(風貴は本当にそれでいいのか......)


 ただ、それ以上私は何もいえず、風貴のあとをついていった。

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