第14話 さあ出発だ
翌朝、村の家々を回って鞄などを探し、食料を詰めていく。盗賊が持っていた剣も頂戴して、腰に差した。
「ねぇ、この人達、そのままにしておくの?弔ってあげないの?」
出発を前に、ガラシャがぼそっとつぶやいた。
村人の死体が30ほど放置されていた。陵辱された若い娘の死体や赤子の死体もある。信長にとっては何度も見た光景だが、21世紀の日本しかしらないガラシャにとってこれを放置することは出来なかったのだ。
「そうだな、弔ってやるか」
信長達は手分けをして、村人の死体を一番大きな家の中に運び込む。そして、油を撒いて火をつけた。
この世界の弔い方がどういう物かはわからないが、亡骸を放置されるよりはいいだろう。
そして5人は村を後にした。
――――
「そういえば、この世界の人間と言葉は通じるんですね。信長様」
蘭丸が思い出したように話しかけた。
「そうだな。神と名乗るやつは何も言っていなかったが、そういうスキルをくれたんだろうな。そう考えるとやはりここは異世界か?この世界をより安定した平和な世界にして欲しいと言っていたし、その為のものだろう。俺たちを転移させたりタイムスリップさせたりする力があるんだったら、自分でなんとかすればいいのにな」
「何かルールのような物があるのかもしれませんよ。地球でも、神は居たかもしれませんが何もしてくれませんでしたしね」
「しかし、ガラシャ、少しはしゃべったらどうだ?お前がそんなに静かだとなんか調子が狂うんだよ」
信長はそうは言ってみたものの、21世紀に育ったガラシャにとってこの世界は過酷だろうとも思う。21世紀の日本は何不自由の無い安全な世界だったのだ。しかも、地球の発展途上国で遭難したというような生やさしい状態では無い。法も秩序も無い異世界で、大使館も無ければ帰る当ても無いのだ。
3時間ほど道を歩いていると、少し大きな街道に出ることが出来た。それでも人工物は全く見えないので、とりあえず下っている方に歩き出す。
生えている植物は、地球のものとほぼ変わりは無いようだった。杉か檜の大木に楠や白樺が確認できた。銀杏の木もある。草は、イネ科の雑草やヨモギのようなものが生えていた。小さな蛇や虫を見かけたが、模様や形が見覚えのあるものではなかった。
「信長様、あれは?」
「荷馬車のようだな?行ってみるか」
街道を歩いていると、前方に荷馬車が1台止まっているのを発見した。見たところ、野盗のような雰囲気も無いので行商人か何かだろう。
――――
「行くぞ、せーの!」
一人の男が御者台に座り、二人の男が荷車を後ろから押している。どうやら片輪が穴にはまって立ち往生しているようだ。
「どうした、穴にはまったのか?一緒に押してやろう」
信長達は行商人に近づき、手伝いを申し出た。親切にすれば、何か情報を聞き出すことが出来るかもしれない。
「ああ、にーちゃん達、助かるよ。じゃあ、後ろから一緒に押してくれ」
信長達は後ろに回って荷車に手をかけた。鬼神のごとき膂力があるので、信長達ならすぐに押し出すことが出来るのだが、あまり怪しまれたくはないので力を入れて押したふりをした。
「助かったぜ。このまま抜けなければどうしようかと思ってたとこなんだ。にーちゃん達、どこに向かってるんだ?」
行商人は3人組で、40歳から30歳くらいまでの男性だった。人種的には、やはり白人系と中央アジア系の中間のような印象がある。
「実は、村が野盗に襲われて全滅したんだ。家も畑も燃やされて、俺たち5人で逃げてきたわけさ。だから行く当てもねぇんだよ」
信長は少し視線を落として、つらい目に遭ったような演技をする。
「そうか、そりゃ災難だったな。それで、なんていう村だ?」
「アヅチ村って言うんだ。すごいド田舎でな、たぶん知らないと思うぜ」
「アヅチ村か・・聞いたことの無い村だな。しかし身よりも仕事も無いんじゃ、大変だな。王都に行けば、仕事はあると思うが・・・ところで身分証はあるのか?」
王都・・・ということは、この国は王国なのだろう。王都に行けば、ある程度の情報が手に入るかもしれない。
「身分証?いや、そんな物は持ってない。必要なのか?」
戦国時代レベルの世界にもかかわらず、国民全てが身分証を持っているのだろうか。そうだとすると、国民の管理は行き届いているような気もする。
「そうか、持ってないのか。王都に行くには領主様から身分証を発行してもらわないとだめだからな。まあ、村が全滅したんじゃしかたが無いか。領主様の役人とか来てなかったか?領主様に言えば、野盗の討伐とかしてくれると思うぜ。ただ、ド田舎の村だと、領主様の管理が届いていないところもあるからな。お前らの村もそういう村だったのか?」
身分証というよりは、手形のようなものだろうか?日本でも江戸時代には関所を通るための手形が必要になっていた。おそらくそういった類いの物だろう。
「ああ、役人なんて見たこと無かったな。二ヶ月に一度くらい、行商人が商品を持ってきて、代わりに木炭や干し肉を持って行ってもらってたんだ。村からも出たことが無い。だから、村の外のことは何も知らないんだよ」
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