第13話 食事をとった
カーテンのような布をまとったガラシャを中心に、全裸の男4人が歩いて村に入っていく。しかもその内3人は全身血まみれだ。第三者が見たら、なにか悪魔的な儀式でもするのではと思ったことだろう。
「この井戸を使え。着替えはそこに置いているから使うといい。俺たちは後ろを向いておいてやる」
ガラシャは生気の無い顔で井戸に近づく。その周りを全裸の4人の男がケツを向けて立っている。万が一、野盗などの敵襲があった場合、ガラシャを守ってやらなければならないからだ。
ガラシャは無言のまま、水をくんで体を洗い始めた。そして、側に置いてある服に着替える。洗濯はしてあるようだが、体臭なのか生活臭なのか、よくわからない臭いのするみすぼらしい服だった。袖や襟はほつれて破れかけている。
着替え終わったガラシャは、やはり無言のままで軒先に座り込んだ。そしてじっと地面を見ている。
体を洗った信長達も服を着て、食事の準備を始めた。まずは野盗が運び出していた食料を確認する。小麦と大豆と干し肉があったので、しばらくは食べ物に困ることは無いだろう。
「変な動物は居ますが、人間は我々と同じようですし、この小麦も大豆も地球にある物と同じに見えますね。ここは地球なのでしょうか?それとも別の世界なのでしょうか?」
かまどで湯を沸かしながら、蘭丸がつぶやく。
「野盗も一人くらい生かしておいて聞いてみれば良かったな。ついつい調子に乗ってやり過ぎてしまった」
信長は、久しぶりの殺戮に不覚にも血がたぎってしまったのだ。奇声まであげてそれを楽しんでしまった。少し後悔している。
「ほれ、食事が出来たぞ、お前も食え」
そう言って麦飯と大豆のスープと干し肉をガラシャの前に置いた。しかし、ガラシャは何の反応も示さない。
「おい、ガラシャ、聞いてるのか?」
「・・・何でよ・・・何であなたたち、平気なの?笑いながら人を殺して・・・そこら中に死体が散らばってるのよ!この服だって、殺された人の物でしょ!神様だかなんだか知らないけど、変な力をもらって頭までおかしくなったんじゃ無いの!?」
ガラシャは涙を流して大声を上げた。信長達が村に入っていって、そして野盗達を生きたまま解体して、頭を踏みつぶして楽しそうに笑う姿を、全て見てしまったのだ。
恐ろしくて怖くて、嫌悪感に襲われても、それでも全部見てしまった。そして力丸にしがみついてお漏らしまでしてしまった。もうお嫁に行けない。
「そんな事を言われてもなぁ。言っただろ、俺は本物の織田信長なんだよ。若い頃から戦場で、何人も殺してるからな。女子供を皆殺しにしたこともあるぞ。お前も歴史で習っただろ。あれだよ。一向宗や比叡山のやつ。まあ、今から思うともうちょっと別のやり方もあったかかもと、思わないでも無いがな」
信長は21世紀の世の中で10年間過ごし、常識の違いに驚愕を覚えながら感心もしていたのだ。物が豊かにあると言うことは、これほどまでに人の心を安(やす)んじることができるのかと。
もし戦国時代に21世紀のような物流網や食糧供給があったなら、そもそも、あのような戦乱は起こらなかったのかもしれない。富国というものは、何にも替えがたい安全保障になるのだ。
そして自分たちの居るここは、まるで戦国時代のように食べ物や物が不足し、人心は荒廃した世界のように思える。
自分たちのいた戦国時代に戻ることは出来なかったが、この世界もそれはそれで面白そうだと信長は思っていた。
「おねがい・・・帰して・・・元の世界に帰してよぁ・・・うううう・・・うわあああぁぁあん」
ガラシャはうつむいたまま、嗚咽を上げて泣き始めてしまった。
「そもそもお前が勝手に付いてきたのが悪いんだろ。ホテルでおとなしくしてればこんなことにならなかったんだよ。とりあえず守ってやるから、今日は寝ろ。来ることが出来たんだから戻る方法もあるだろ。明日からこの世界を調べて回るぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます