第3話 ヤンキーに助けてもらった

「どうする?カラオケにでも行くか?」


「でもなぁ、カネねーしなぁ。どうすべ」


「話をしているところをすまぬ。家中(かちゅう)の者が傷を負うておるので、手当を頼みたい」


「えっ!ひっ!誰だ、お前!」


 地面に座って話し込んでいた数人の若者は、裸の子供に突然声をかけられて驚き立ち上がった。こんな夜更けの公園に、突然裸の子供が現れたのだ。B級ホラーだと思っても仕方が無い。


「わしは・・・・・旅の道中においはぎに襲われての、身ぐるみ剥がされたのじゃ。その折りに家中の者が傷を負ってしまっての、手当を頼みたい」


 信長は見た目が子供である為、自分が織田の殿様であると言っても信じてはもらえないと思い、おいはぎ(強盗)の被害にあったことにした。それに、万が一明智からの手配が及んでいては捕まってしまうのだ。


「子供か・・びっくりさせやがって・・・保護者はどうした?“おいはぎ”って強盗のことか?」


 男は驚いた様子で信長に問いかけるが、信長には男の言っていることが良くわからなかった。


 “『ホゴシャ』?南蛮人では無さそうだが、いったい何処のお国言葉(方言)じゃ。よくわからん”


「傷を負ってるって言ったか?誰かが怪我をしているのか?」


「おお、そのとおりじゃ。こっちじゃ、ついて参れ」


「しかし、なんでお前、裸なんだよ?それに変な言葉遣いだな」


 信長は男の言った言葉を反芻してみる。聞き慣れない発音だが、“なぜ裸なのか?”と聞かれたようだ。


「・・・・おいはぎに襲われたと申したであろう」


「いや、おいはぎって言われてもなぁ」


「ああ、これ警察呼んだ方が良いんじゃないか?」


「まあ、怪我しているって言うから、そこまでは行ってみよう」


 若い男達は信長の後をついて歩いた。明かりから離れると急に暗くなってしまったので、男達は懐から携帯電話を出してライトを点けた。


 “!?なんだ?あれは?蝋燭か?いつの間に点けた?”


 信長は男達が出した照明器具に驚愕するが、今はそれを聞いている時間は無い。一刻も早く蘭丸の所に戻らなければ、坊丸と力丸が死んでしまうかも知れないのだ。


 そして200mほど歩いたところで信長が立ち止まった。


「蘭!人を連れてきたぞ!何処じゃ!」


「上様!こちらでございます!」


「?・・・今、上様って言ったか?」


「上様っていったよな?」


 男達が顔を見合わせていると、またもや裸の子供が立ち上がって近づいてきた。そして、その傍らには、明らかに重傷を負っている子供二人がたおれている。


「おい!これ、やべーやつじゃないか?すぐに救急車だろ!救急車って何番だっけ?」


「911だよ!知らねーのか?」


「いや、日本は119だよ。911はアメリカだ!」


「おまえ、インテリだな」


「そんな事はいいからすぐに救急車呼べよ!」


 男達は、そんな事を言いながら持っていた照明器具を“パカッ”と開いてなにやら操作を始めた。そして、その照明器具を耳にあてて話を始める。


「上様、あの者達は?」


「わからぬ。しかし、明智の手の者では無さそうじゃ。槍も刀も持っておらぬ。町人か百姓だとは思うが・・」


 男達は懐から布を出して、坊丸と力丸の傷口を押さえてくれた。先ほどに比べて出血はかなり少なくなってきているが、布で押さえることが出来たのはありがたかった。


 そして、しばらくすると遠くから“ウオオオォォォーーーン”というけたたましい音が聞こえてきた。


「何じゃ!法螺貝か?どこぞの手勢であろうか?」


 ※法螺貝  法螺貝を使った笛。戦場で突撃の合図などに使う


「上様!もし明智の手勢だとしても、今の我らの姿ではそうと解りますまい。ここは大人しく助けてもらうのがよいかと」


「うむ、それもそうじゃな。まずは坊丸と力丸の手当じゃ」


 しばらくすると、そのけたたましい音は止まり、白い服と紺色の服を着た何人かの男達が現れた。そして何か早口で聞いてくるが、信長達には何を言っているのか良くわからなかった。


 そして状況が解らないままに、全員連れて行かれ大きな白い牛車(ぎっしゃ)の様な物に乗せられてしまった。

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