第4話 保護された(1)

 そこは白い部屋だった。そして、薄水色の簡素な服を渡されたのでそれを着ている。その上から分厚いビロード地のような布(毛布)にくるまっていて、とても暖かい。天井には白い光りを放つ明かりが貼り付けてある。見る限り火を使っているようには思えなかった。


 いったい、自分たちは何処に来ているのだろう?そんなことを思いながらも、信長達は警戒を緩めることはしなかった。


「お友達を切りつけた人たちの顔を見た?何人くらいだった?」


 紺色の服を着た女が、優しい笑顔で話しかけてきた。言っている言葉がどうにもよく理解できなかったのだが、何度かやりとりして意思の疎通ができた。どうやら、坊丸達を切りつけた人間を手配するようだった。


「暗くてよく見えなんだ。おそらく5人くらいの野盗であろう。身ぐるみ剥がされてしもうた」


「そう。怖かったわね。でも泣かないのね。偉いわ。その人たち、どっちの方向に逃げたか解る?」


「解らぬ。二人が斬られてしまい慌てておったからの」


「じゃあ、ぼうやのお名前は?ちゃんと言えるかな?」


 “どうする?明智勢がどうなっているかも解らぬうちは、織田を名乗るわけにも行くまい”


 信長は蘭丸と顔を見合わせるが、蘭丸も良い考えが浮かんでいないようだった。


 名前を名乗らないと怪しまれると思ったので、致し方なく信長は偽名を使うことにした。しかし、織田の者と解らぬように、出来るだけ一般的でありがちな名前を選ぶ。


「わしの名は“一丸(いちまる)”じゃ。この者は我が家中の者で“佐吉”と申す。それに怪我をしている者は“与吉”に“弥吉”じゃ」


「ええっと、一丸くんに佐吉くんね(ずいぶん古風な名前ね・・)。名字は何て言うの?」


「“みょうじ”?ああ、“苗字”であるか」


 確かに、家中の者を連れている自分に苗字が無いのもおかしな話だ。


「わしは、、、津島じゃ、津島一丸じゃ」


「そう、津島一丸くんね。こっちの坊やの苗字は?」


「いや、その者に姓は無い」


「えっ?」


「姓は無いとゆうておろう」


 蘭丸は、信長の言っている意図を察した。武家の人間では無く、商家の人間だと思わせたいのだ。ある程度の商家であれば姓を名乗ることを許されるが、その使用人に姓があることは希だった。


 しかし、信長に質問をしている女は困った顔をしている。一体何を疑問に思っているのだろう?もしかすると、この女は我々が偽名を使っていることに感づいているのでは無いか?信長と蘭丸は背筋に冷たい物を感じた。


「姓が無いって、それは無いでしょ。佐吉くん、あなたの苗字は何?本当の事を言ってもらえるかな?」


 この女、やはり我々の素性に気づいているのかもしれない。気づかれたならこの者達を斬り伏せてでも逃げることを選択するが、残念ながら子供の体になってしまっているし、刀も持っていない。抵抗したとしてもすぐに取り押さえられるだろう。


「・・・それがし、姓はござらぬ・・・」


 こやつらが疑っていたとしても、童の体になっているわれわれの正体に確証を得ることは出来ないはずだ。ここは、町人の童であると押し通すことにする。


「困ったわね。まあ、今日はあんなことがあったし、信用してもらえていないのかしら?君たち、日本じゃ無くてどこか別の国から来たのかな?」


「“ニホン”?ニホン・・・ヒノモトのことか。何をゆうておる。わしらが南蛮に見えるのか?ヒノモトの民じゃ」


「そ、そう、なのね・・」


 紺色の服を着た女は、苦笑いをしながらぎこちない笑顔をする。

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