第2話 なぜか生きていた
「・・・・・・・ここは?」
信長は、酷い頭痛を覚えながら意識を取り戻した。目を見開いて辺りを見回すが、暗くて様子がわからない。空に目を向けると薄い三日月が浮かんでいた。辺りは暗くまだ目が慣れていない為、周囲がよく見えないのだ。
自分の姿もよく見えないがどうやら裸のようだ。もしかすると、本能寺で炎に巻かれた後、誰かの助けが入り、火の付いた衣服を脱がせて運び出されたのであろうか?しかし、火傷をしているような感じでも無い。
信長は声を出そうかとも思ったが、もし、近くに明智の手勢が居るようならまずいので、声を出さずに辺りの様子を伺うことにした。
信長は手を動かして地面の感触を確かめてみる。どうやら丈の短い草が茂っているようだ。上を見ると、三日月に薄く照らされた木の枝が多数見える。そして、辺りからは虫の音が聞こえていた。
信長は目を大きく見開いて暗闇を凝視する。だんだんと目が慣れてくるに従って様子がわかってきた。
“ここは、林の中か・・・”
体を起こし傍らを見てみると、そこに横たわる人の姿があった。そして、その者も衣服を着けていない裸の様だ。
信長は、横たわっている人影に近づき、その姿をまじまじと観察する。
“童か・・。しかし、なぜ童が裸でこのような所に・・・”
そう思っていると、その子供がゆっくりと目を開けた。その子はまだ目が慣れていないのか、のぞき込んでいる信長の顔をまじまじと凝視していた。
「う、上様は・・?上様はご無事でしょうか?」
“!?上様と呼ぶということは明智の手勢ではあるまい。それでは、味方の武将の子供か?ならば、やはり味方に救い出されたと言うことであろうか?“
「わしじゃ。わしが織田正二位信長じゃ。そなたは誰じゃ?・・・えっ?」
信長は声を発したときに強烈な違和感に襲われた。声が明らかに高い。まるでそれは子供の声の様だった。
「えっ?し、しかし、上様・・?お声が・・・・」
二人ともだんだんと目が慣れてくる。お互いの姿を見て、そして自分自身の姿を見て驚愕した。
「わ、童になってる!?」
二人は驚き自分の体を触ってみる。確かに子供の体になっていた。あそこにも毛が生えていない。
「これはいったい・・・」
「う、上様・・・なのでしょうか?」
「おお、そうじゃ。お前は誰ぞ?」
「わ、私は森蘭丸にございます。このように童の体になってしまうとは・・・、一体何が起こったのでしょう?」
「解らぬ。解らぬが生きていることは間違いなかろう?そうじゃ、他の者は?」
二人は立ち上がり辺りを見回した。すると三間(約6m)ほど離れた所に、二人の子供が裸で倒れていた。そして、その二人は傷を負っていて血を流している。意識は無い。
「この二人は坊丸に力丸か!?童の姿だが刀傷はそのままだな。息はあるようだが、手当をせねば」
二人は辺りを見回すが、衣服も一切無く傷を抑えることのできる物は無さそうだった。
「わしが味方を見つけてくる。それまで蘭はここで二人を見ておれ」
「し、しかし上様」
「二人の兄であるお前が看てやらねば誰が看るというのだ。安心せい。すぐに手勢を連れて戻ってくる」
信長はそう言って立ち上がり歩き始める。林の中ではあるが、下草は良く刈られており人の手が入っていることが解る。そして、しばらく歩くと光を発している何かが見えてきた。
“あれは、かがり火か?”
かがり火ということは、そこに誰かがいるはずだ。味方であれば良いが、明智勢であれば万事休すだ。信長は息を潜めてその明かりに近づいていく。
しかし、あの明かりの周りに人が居るようには見えなかった。明かりの周りはひらけており、なにやら背もたれのある長床机(長いす)の様な物がいくつか見える。さらによく見てみると、動物をかたどった置物や、人が乗れるほどの天秤のような物が置いてあった。
“あれは、いったい何じゃ?”
信長はさらに凝視して周りを観察した。すると、かがり火から少し離れた所に座り込んでいる数人の人影を見つけた。
信長はその人影をじっと凝視し観察をした。どうやら若い男達のようだ。そして、男は頭を剃っていない。ということは町人か百姓だろう。槍も持っておらず甲冑も着けていない。明智の軍勢も、今夜の内に全ての町人や百姓に触れを出して、我々織田勢の手配をする事は出来まい。そうであれば、あの二人は明智が謀反を起こして我々が追われていることは知らないはず。これなら助かる。
信長は茂みから出て、座り込んでいる人影に向かって歩き出した。
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