第3話 ダンジョン探索管理協会
「ぅー……頭が痛い……」
窓から差し込む朝日で目が覚める。
昨晩は帰ってすぐ寝たものの、朝起きたら流石に二日酔いのようだ。
布団でゴロゴロとしていたが、
「ぁー……
ようやく起き上がり、布団から出る。
洗面所で顔を洗い、コップ1杯の水を飲む。
「まぁ、落ち込んでいても仕方ない。片付けられることから片付けちまおう。」
久々の二日酔いに、少々ズルすることを思いつく。
右手を自分に向け、軽く魔力を込める――
「”
地上ではかなり効果が弱まるものの、スキルを発動させることはできる。
”
「なんだかいつもより効いた気がするなぁ。久々だからか?」
ギルドの最寄りの支部に着くと、ざわざわとした熱気と喧騒に包まれる。
全国組織のギルドの支部はあちこちにあるが、ここは県内最大規模の支部だ。
探索に関する書類申請や帰還報告、ドロップアイテムの鑑定や買取などなど。
ギルドでやってもらわなければならないことは多い。
なじみの受付嬢さんの窓口がたまたま空いたので素早く向かう。
可愛い女性の窓口は奪い合いだ。
「西野さん、おはようございます」
「あら、山田さん、おはようございますぅ」
俺がクレスト・コーポレーションで販売促進チームを立ち上げた頃からの長い付き合いのギルド職員さんだ。
ふわふわとした茶色いボブカットヘア、くるくると変わる可愛いらしい表情。
そして制服の上からでもはっきり分かる暴力的なスタイルの良さ。
このギャップが男性探索者をいつも魅了している。
所謂このギルドのアイドル的な存在だ。
「ちょっとお久しぶりですねぇ。次回の探索の申請書提出ですかぁ?」
「いやー、そのー……実は、クレスト社を辞めることになりまして……ギルドに登録しているクレスト・パーティーから脱退申請をお願いします」
「承知しましたぁ。どこか別のパーティーへ転籍なさるんですかぁ?」
「いやー……非常にお恥ずかしい話ですが、役立たずはクビだと追い出されちゃいまして……」
ニコニコとしていた西野さんがいぶかしげな顔になる。
小首をかしげる動作もあざと可愛い。
「
「いやいや、恥ずかしいですから、
「そんなことないと思いますけどぉ」
「Fランクの俺には名前負けですよ」
「もぅー、またそんなぁ。まぁいいです。それで、クレスト・パーティーの事務手続きは今後どなたがなさるんですかぁ?」
「えーっと……引き継ぎもろくにやらせて貰えなかったんで確定じゃないですが、たぶん新人の子だと思います」
「はぁ……」
ちょっと曇った表情も可愛いなぁと逸れていく思考を慌てて引き戻す。
「なんか、すいません。ご迷惑おかけして申し訳ないです」
「いえ~。山田さんのせいではないようなので、気になさらないでください」
「あ、それと、とりあえず当面はソロで探索することなるので、探索者登録の変更申請をお願いします」
「承知しましたぁ」
書類を取り出すために屈んだ西野さんに視線が追随しそうなのをぐっと我慢。
我慢しきれずちょっと追っちゃってるからバレてそうだが……
窓口のテーブルに書類並べた西野さんがこちらを向いた。
なんだか、じっ…と目を見つめられる。
やばい、可愛い。
なんかちょっと驚いたように少し目を見開いたのもレアな表情で得した気分。
「や、山田さん。魔力量測定をして頂いてもいいですかぁ?」
「あれ? 変更申請のときに魔力量測定って必要なんでしたっけ?」
「必須ではないですがぁ、ちょっと今回は念のために再測定させてくださぃ」
「まぁ、構わないですけど……費用かかるんでしたっけ?」
「ふふっ、今はもう無料対応になってますよぉ。皆さんそんなにしょっちゅうは魔力量測定なんてしませんしぃ」
魔力量測定用のアイテムを引っ張り出しながらニコニコと笑う顔も可愛い。
笑顔を向けられるだけで年甲斐もなく惚れそうになってしまう。
いかん、いかん。
何か他の事でも考えて少し気を紛らわそう。
魔力量測定用アイテムはダンジョン出現直後はかなり産出されたらしい。
近頃はだいぶ産出率は下がったとか。
まぁそうそう壊れるもんでもないだろうし、過剰供給で買取価格が下がらないのはありがたい話だ。
「こちらに手を当てて、軽く魔力を込めてみてくださいねぇ」
「はーい」
駄目だ、西野さん可愛い。
いまちょっとキモイ顔になってる気がする。
軽く深呼吸をしてから魔力測定用アイテムに右手を当てる。
よくある大きな水晶球みたいなタイプだ。
俺が右手に軽く魔力を込めると水晶球に浮かび上がる文字。
「あれ? え? これ、壊れてます?」
表示された魔力量は、見たことがないような膨大な数値だった。
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