第4話 探索準備

 魔力量は生まれつきほぼ決まっている。

 ダンジョンに潜っているとじわじわ増えるという都市伝説もあるが、本当に変化した事例を俺は聞いたことはない。


 そして、その魔力量で探索者ランクは決められる。

 これは生まれ持った魔力量で成長上限が頭打ちになることが経験的に分かってきた為である。


 例えば俺はFランクであり、Fランクの成長上限はレベル5と言われている。

 これがクレスト・パーティーのメンバーたちのBランクであれば、成長上限がレベル25である。

 つまりランクが違うということは、魔力量の差だけでなく、成長上限によるレベル差が生じることである。

 そうやって、ランクによる戦力差は広がっていく。


 もともとFランクだった俺のランクは、魔力量測定の結果に基づいて暫定Dランクに上げてもらえた。

 測定器は壊れていなかったらしい。

 厳密に魔力量だけであればもう少し上になるらしいが、非常に稀有な事例であるため、様子を見るために暫定扱いとのことだ。


「魔力量の変化は異例の事態ですので、すみませんがご了承くださぃ」

「はい。大丈夫です」

「それとぉ、いろいろ憶測が飛び交ったりしちゃうと思うので、魔力量が増えたことについてはあまり他言しないで下さいねぇ」

「はは……そうですね。分かりました」


 魔力量測定アイテムを片付ける西野さん。

 西野さんから申し訳なさそうに言われるだけでなんでも許したくなってしまう。

 まぁたしかにあれこれ聞かれたり調べられたりするのも面倒だ。


「ちなみに、魔力量の変化について何か心当たりはありますかぁ?」

「ぁー……」


 思わず、昨晩の銀髪幼女に触れられた腹を軽くなでる。

 信じてもらえない気がするし、面倒になりそうな予感しかしないんだよなぁ……


「心当たりは特にない、ですかね……」

「そうですかぁ。何か思い出しましたら、お手数ですけどお教えくださぃ」

「分かりました」


 西野さんには申し訳ないが、俺自身よく分かっていないし、報告するつもりはない。

 特にないでごまかし続けよう。


「えっと、ちょっと脱線しちゃいましたけど、下級ダンジョンにソロ探索に行ってみようかと思ってるんですが、申請書類もらえますか?」

「はぃー。いまの山田さんのランクなら下級ダンジョンは推奨範囲内ですので問題ありません-」


 西野さんが素早く書類を渡してくれる。

 その場でさっさと記入する。


「はぃ。確認致しましたぁ。山田さんはいつもきっちりミスなく書類を出して頂けるので助かりますぅ」

「いや、みんな提出する書類じゃないですか」

「結構、雑に書かれる探索者さんが多いんですぅ。何度言っても直して下さらない方も多いですぅ」

「はー……そんなもんですか」

「そうなんですぅ」


 可愛い笑顔で褒められて悪い気はしない。


「それじゃ、売店の方によってからダンジョン行きますので、探索申請よろしくお願いします」

「はぁい。承りましたぁ。帰りに帰還報告もお願いしますねぇ」

「分かりました」

「お気をつけて、いってらっしゃいませぇ」


 はぁ……西野さん可愛い。





「お疲れ様ですー。今日は佐藤さんっていますか?」


 ダンジョン探索管理協会ギルドにはたいてい売店がある。

 武器、防具および探索に使う消耗品などを売っている。


「おぅ、山田くん。お疲れ様。ジャージ姿なんて珍しいね」

「ははは……そうですね。ちょっと色々ありまして……」

「ふむ……独立でもするのかい?」

「ぁー……まぁそんなようなもんですかね……」


 佐藤さんはここの売店のぬしみたいな人で、何を聞いてもたいてい答えてくれる非常にありがたい存在だ。

 顔だけ見れば穏やかそうなおじさんなのに、首から下のマッシブなところが非常にダンジョン探索管理協会ギルド職員ぽい。


「えっと、ダガーとスモールシールドが欲しいです。ギルド印の初心者向けってやつ」

「ほぅ? クレスト社の装備類は持ち出させて貰えなかったのかい? 普通は転籍とかするときは装備も持って行くものだと思うが」

「まぁ、ちょっと今回は持ち出させて貰えなかったんで、当面は最低限の装備でやっていこうかなと……」

「ふむ……まぁ装備について万能者オールラウンダーくんに講釈を垂れることもないね。取ってくるから少し待ってておくれ」

「はは……お願いします」


 あっという間にお願いした装備と、消耗品類が載ったトレイを持った佐藤さんが戻ってくる。


「勝手に見繕って来ちゃったけど、消耗品も要るでしょ?」

「はは……おっしゃる通りです。助かります」

「それじゃ全部で合計5万円だね」

「はい、ありがとうございます」


 一式を受け取り、まとめてにしまう。


「山田くんは、”アイテムボックス”への出し入れが素早くてスムーズだよねぇ。なんかコツとかあるのかい?」

「まぁ練習ですかね……すぐ出し入れ出来ないと困ると思って死ぬほど練習したんで……」

「ん-。やっぱり基本が大事かぁ。今どきの若い探索者たちに聞かせたいね。」

「はは……」


 ”アイテムボックス”は便利で一般的な収納スキルだが、実は俺のスキルは”アイテムボックス+”という微妙に違うスキルである。

 容量がちょっと多いぐらいで大した差はないと思う。

 面倒そうなので詳しく調べたことはないが。


「それじゃ行きますね。ありがとうございました」

「あぁ、またおいで」


 さぁ。久々のソロ探索だ。





 ~~side 西野由良~~


 山田さんが売店に向かわれた後、私もすぐに窓口を離れ、支部長室へ向う。


 コンコンッ


「入れ」

「失礼しますぅ」


 書類の確認を続けている支部長は私に目も向けない。

 もちろんAの支部長なら見なくてもこちらの動向など完璧に把握できているのだろうが。


「どうした?」

「2点ほど急ぎのご報告があって伺いましたぁ。クレスト社の万能者やまださんがパーティーを抜けたそうですぅ」

「なんでそんなことになるんだ…?」

「パーティーリーダーの意向らしいですがぁ……」

「何を考えているんだか。山田あいつがいないと成り立たないだろうに」


 支部長が私とまったく同じ感想を述べる。

 事務仕事とアイテム管理、荷物運びポーターを全部ひとりでこなすなんて、私は山田さんしか聞いたことがない。

 しかもこれまで所属していたクレスト・パーティーはかなり上位パーティーだ。

 上級ダンジョンなどのかなり深い層へも探索に向かうような。

 そういった深い層への探索に使うアイテム類を運ぶとなると、荷物運びポーターだけで数人は帯同するのが常識だ。

 それを山田さんは一人で担っていた。

 その事実だけでも手放すなんて普通では考えられない。


「それともう1点、その山田さんが魔力量が増えていましたぁ。増加幅もとんでもなくて、記録にないレベルですぅ」

「ほぅ……」


 ここでようやく支部長が私の方を向いてくれる。


「そのうえ、”土地神の加護”という称号も発現していましたぁ。詳しい効果までは見えませんでしたが、加護なので悪いものではないと思いますぅ」

「ほぅ……西野の鑑定スキルで確認したのか?」

「はいー。こっそり確認させて貰いましたぁ」


 支部長が驚いた顔をするのはなかなか珍しい。

 やはり神様の加護というのは元Aランクでも驚くぐらいのものらしい。


「加護については、山田さんに自覚は無いようですぅ」

「ふむ……」

「分かった。今後、西野が専属になっていいから山田の動向をよく観察して報告をあげてくれ」

「承知いたしましたぁ。失礼いたしますぅ」


 軽く頭を下げてから支部長室を出る。

 山田さんおきにいりの専属にして貰えたことにルンルンな気分で自席へと戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る