第4章: 忘れられた者のささやき

ケイルとリラエルが谷を歩いていると、寺院は遠くに消えていった。二人の足取りは同期していたが、二人とも物思いにふけっていた。ケイルの頭上には奇妙な静けさが広がった。古代の寺院の奥深くで影の自分と遭遇したことの名残だった。その遭遇はケイルを変えた。感覚が研ぎ澄まされたように感じられる。周囲の音、匂い、光の変化が、より生き生きと感じられる。しかし、その変化は不安をかき立てた。眠っていた何かが今、彼の中で動き始めている。


リラエルは先を歩き、慣れた注意深さで周囲をじっと見つめ、手を軽く剣の柄に置いた。彼女はここまで彼を導いたが、ケイルは彼女もまた、彼が目覚めさせたものの意味を知っているかのように、彼をじっと見守っているのを感じた。


沈黙を破ってケイルが口を開いた。「寺院に戻って…私が見た影、あの…私の別の側面…それはどういう意味だったの?」


リラエルは立ち止まり、肩越しにちらりと見た。「エリシウムは、私たちが準備している以上のものを明らかにする方法を持っています。あなたが見た影は、あなたの一部です。理解され、制御されるのを待っている、眠っている力の顕現です。ある人にとっては、それは贈り物です。他の人にとっては...呪いです。」


「呪い?」ケイルは、心配を隠そうとしながら尋ねた。


「エリシウムの力には代償が伴います」と彼女は答え、声は暗くなった。「あなたが遭遇したフォーセイクンは、目覚めの重圧に耐えられなかった者たちです。ケイル、彼らはかつてあなたのようでした。しかし、彼らは失敗し、闇に飲み込まれました。」


その言葉は空気中に重くのしかかった。彼は自分を襲った者たちの顔を思い浮かべた。今、彼らの絶望を理解し、背筋が震えるのを感じた。


日が長くなり、深い森は遠くにそびえ立つ山々へと続く狭い道へと開いた。道はギザギザの岩と密集した頑強な植物の間を曲がりくねって進み、やがて森の自然の暖かさは、丘陵地帯の冷たく不気味な静けさに取って代わられた。


彼らが歩き続けると、ケイルは岩からかすかな音が反響しているのに気づいた。低くリズミカルなハミング、まるで石に脈打つ心臓の鼓動のような音だ。彼は立ち止まり、ざらざらした表面に手を置いた。そのハミングは寺院で感じたのと同じエネルギーと共鳴しているようで、胸に奇妙な痛みをかき立てた。


「あなたも感じますか?」とリラエルは、心得のある表情で彼を観察しながら尋ねた。


「はい」とケイルは低い声で答えた。「何ですか?」


彼女は彼をじっと見つめ、どれだけ明かすべきか迷っているかのようにためらっていた。「この道は忘れられた者の墓へと続いています。そこはエリュシオンのどの王国よりも古い古代の安息の地です。覚醒を完了する前に倒れた者たちは、ここに埋葬され、彼らの魂は今もそこに留まっている」


ケイルは突然不安になり、手を引っ込めた。「なぜそこに行くんだ?」


リラエルの表情は、この反応を予想していたかのように和らいだ。「ケイル、君には答えが必要だ。そしてその答えは、何が起こったかを理解することで得られる。忘れられた者たち。よく耳を傾ければ、彼らは君に知恵を与えてくれるかもしれない。あるいは警告を与えてくれるかもしれない」


ケイルは黙って彼女の後を追ったが、頭の中は疑問でいっぱいだった。忘れられた者たちとは誰なのか、そして今彼が歩いている道について何を知っているのか?彼の前にはどんな危険が待ち受けているのか、そして彼が受け入れ始めた力を本当に信頼できるのか?


彼らが墓に近づくにつれ、空気は冷たくなり、ハム音が強まり、彼の骨の奥深くに落ち着いた。影が石の道を長く横切り、まるで生きているかのような奇妙な形にねじれていた。墓の入り口が彼らの前にそびえ立っていました。山の斜面に彫られた暗いアーチ道で、2体の巨大な彫像が守っていました。石の目は、近づく勇気のある者を判断するかのように、静かに見守っていました。

リラエルはアーチの方に頭を傾けた。「ケイル、ここで君と別れる。ここから先は、一人で歩かなければならない。」


彼はうなずいたが、一人で墓に入るという考えに身震いした。彼は深呼吸をして前に進み、足音が静寂の中で響いた。敷居をまたぐと、暗闇が彼を飲み込み、ハミングが大きくなり、彼を包み込んだ。


内部の空気は濃く、古代の石と湿った土の匂いで重かった。ちらつく光が壁に沿って踊り、かすかで幽霊のように、戦い、旅、儀式に閉じ込められた人物を描いた彫刻や壁画を照らしていた。彼は周囲を取り囲む無数の人生と物語の重みを感じ、あらゆる方向から彼に迫っていた。


墓の奥深くで、ケイルは何か見えないものが肩に押し付けられているかのように、強い圧力を感じた。彼の心臓はドキドキし、彼は前方の道に集中するよう自分に強制した。ハミングは一定の脈動にまでなり、彼をさらに奥へと導き、墓の中心にある円形の部屋へとたどり着いた。


部屋の中央には祭壇があり、長子の神殿のものと似ているが、より古く、時とともに縁が磨り減っていた。ケイルはそれに引き寄せられるのを感じながら近づいた。冷たい石に手を置くと、ハミングは強まり、彼の心は声で満たされた。忘れられた者たちのささやきだった。


警告、絶望、希望の言葉が重なり合い、それぞれの糸が知識と警告のタペストリーに織り込まれた。彼はほとんど理解できなかったが、1つの声が他の声よりもはっきりと響いた。


「ケイル」それはまるで彼をよく知っているかのように詠唱した。「あなたは先人たちの遺産を背負っているが、誰も歩いたことのない道を歩んでいる。その中の力を掌握するには、闇だけでなく光にも立ち向かわなければならない。その両方があなたの中に縛られているからだ。」


突然、彼は次々と幻覚に襲われた。遠く離れた地で繰り広げられた戦い、結ばれたり破られたりした同盟、希望と恐怖に満ちた顔。彼は自分が広大な戦場の端に立っていて、影に包まれた敵と対峙し、その手は異次元のエネルギーで輝いているのを見た。


声は続けた。「あなたは支点であり、影と光のバランスです。両方受け入れろ、さもないと我々のように堕ちるぞ。」


ケイルはよろめきながら後ずさりし、幻影が消えるにつれて祭壇を放した。心臓が高鳴り、重荷が自分の上にのしかかるのを感じた。求めてもいないのに否定できない責任だ。


ケイルは入り口の方を振り返り、墓から出た。入り口でリラエルが彼を待っていた。彼女の目には安堵と静かな誇りが混じっていた。


「聞いたでしょう」と彼女はそっと言った。それは質問ではなかった。


ケイルはうなずき、彼女の言葉の真実を骨身に感じた。「彼らは私に警告した…私は闇と光の両方を受け入れなければならないと告げた。」


リラエルはうなずいた。「それがエリュシオンの道だ。ケイル、力とは単なる強さではない。バランスだ。それを使うには、その美しさと危険性の両方を理解しなければならない。」


墓を後にすると、ケールの考えは忘れられた者たちの声へと戻り、彼らの警告が心にこだました。彼が選んだ道は容易なものではなかったが、彼は決意が強まり、新たな明晰さが自分の中に定着するのを感じた。


遠くに嵐の雲が集まり、風景に影と光の陰影を落としていた。ケールは地平線を眺め、旅はまだ始まったばかりであり、これから直面する試練は彼の強さだけでなく精神も試すことになるだろうと感じた。


リラエルを傍らに置き、彼は忘れられた者たちのささやきを抱きしめながら前に進み、待ち受けるどんなことにも立ち向かう覚悟をしていた。

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