第51話 「四人のデーモン・ロード」
「グレーター・テレポート!」
私は意識を集中させ、転移魔法を発動させる。
「相変わらず
私が美しいこの場所を
「
呪文発動と同時に黒い炎の壁がインキュバス達を焼き尽くす。彼らの身体は両翼ごと灰になり消滅する。
「やはりここはアビスだったな。油断も
そう私がつぶやいていると、私の存在に気づいたのか、上空から監視者が現れる。全長二十メートルほどのグリーンドラゴンだ。
「貴様、どこから来た? ここがマルカンテト様の領域と知っての事か!」
「ああ、そうだ。会いに来たんだ」
竜は私を
「我はグルメングルーム。この領域を守護する者。女王に会いたくば、我を倒してからゆくがいい」
竜の目は真剣で真実を語っていると理解できた。私も覚悟を決める。
「わかった。そうさせてもらうよ」
竜は私の言葉の直後、全力のブレスを浴びせかけてくる!
「
呪文が発動し、竜のブレスをすべて
「闇魔法、『
魔法は巨大な緑の竜の身体を圧縮し、手のひらサイズの立方体の中に押し込めていく。 竜の骨がきしみ砕ける音が辺りに響く。程なくして彼を入れたキューブが私の元に落ちてくる。
「これでいいかな」
落ちてきたキューブをキャッチし、中の竜に問う。
「貴様! ここから出せ! ぐふっ!」
グルメングルームは束縛から逃れるため暴れようとするが、何もできずにいる。
「女王の気配は……」
私が探ろうとした直後、気配が一気に現れる。あまりの感覚に驚いてしまう。
「私を呼んだのはお前か?」
私の目の前に女王の姿はあった。長い黒髪にルビー色の瞳と唇の美女だが、
「貴女がマルカンテト様ですか?」
シルクのガウンを羽織り、
「いかにも。私がこの階層の
イブニンググローブをつけた左手に光るスカージを持ちながら私に
「タクトと申します。魔王クライスラインの夫になった人間で、今日は協力を求めるために来ました」
「魔王の夫だと! バカな事を言うでない!」
マルカンテトが驚いて聞き返す。私は左手を彼女に差し出す。
「嘘ではないです。貴女ならわかりますよね?」
私はマルカンテトの眼を見ながら答える。彼女は私を少しの間私を
「なるほど。嘘ではないようだな。その右手の物は何だ?」
「貴女の守護者らしい。倒せば貴女に会わせてくれると言ってました」
彼女は驚き、表情が曇る。
「まさかグルメングルームなのか? 信じられん……。だが、私が呼ばれたという事は、まことなのだろうな」
マルカンテトは答えながら納得しているようだ。私は目的の内容を切り出し、正直にすべてを話して依頼する。
「何と! お前はあのグラズトを丸め込んだというのか。あなどれぬ奴だな……」
驚きながらも爪を
「どうか力になってもらえないでしょうか?」
私の説得に彼女は私の顔を見て答える。
「なかなか面白い奴のようだが、グラズトと共闘はあり得ぬ。残念だが
予想通りの答えが返ってきたが、
「無理は承知でお願いに来たのです。味方になってもらえないのなら、せめて相手に
「そうだな……」
マルカンテトは少し考えた後、私に答える。
「私達と戦って勝てば、望みの一部を
「え?」
私は意味が分からなかったが、彼女は急に高音の美声を発し始めた。少しして、私達の頭上に三つの黒い
「こ、これは……」
「私の友人だ」
右手に鋭い長剣を持ち、四枚の茶色の翼をはばたかせる野生の
「私の最も信頼する友、バズズ」
雄羊の頭部に牙がびっしり生えた顎、巨大な身体は筋肉と脂肪の両方をまとっているようだ。背中には血の色の大きな翼、異様に太い両腕には凶悪な爪を備えたガントレットを身に着けている。
「私の親しい話し相手、オルクス」
彼らの中で最も大きい身体の男はマントヒヒの頭を二つ持ち大猿の分厚い上半身、肩から長い触手が二本ついている。胴体の下はコウモリに似ているが、
「そして私の最大の理解者、デモゴルゴンだ」
今私の前に四人の
「私達と戦って勝てば認めてやろう。どうだ?」
マルカンテトは不敵な笑みを浮かべ私に問う。後ろに控える三人も私を見て
「そう……だなあ」
私は考えを
「その……」
私は小さな声でつぶやく。四人は相変わらず笑っている。私の声など届いていないだろう。
そうだ、ヒントはグラズトとザグトモイが教えてくれた。私はもうやるしかないのだ! 覚悟を決め彼らを直視し、言い放つ。
「エレノーラ」
私の発した言葉に彼らの笑いはピタと止まる。一瞬の出来事だが、間違いなく彼らは反応した。
「き、貴様、なぜその者の名を?」
マルカンテトが
「私はタクト=ヒビヤ。エレノーラ=オーベルシュタインの弟子……」
私の言葉に彼らは身体の震えを隠せなくなる。私は持っていたキューブをマルカンテトに投げ渡す。そして新たな結界でできたキューブを魔法で作り出す。
「そして魔王クライスライン=リータ=レイアの夫!」
透明のキューブの中から高速で
「
私の言葉にマルカンテト達は目を丸くする。
「な、何を言っている?」
「どうせなら、
マルカンテトは固まっている。ほかの三人も私の意図を
「『
私の言葉を受けてキューブは頭上に舞い上がり、強烈に不純物を吸い込んでいく。四人は必死に強力な風圧をしのいでいる。やがて風は止み、キューブは私の手元に戻る。
「これで
マルカンテト達は辺りを見回し、風一つない中に心地よい空気を感じ取る。そして目の前の私を見直す。
「どうです? これでも私達の敵になりますか?」
彼らは言葉を失い、
「マルカンテト、
グラズトの天敵があっさり降伏宣言する。その言葉にデモゴルゴンの二つの頭も深く
地上に降り立ったパズズがマルカンテトの肩に触れる。
「マルカンテト、戦いは無意味だ。わかるな?」
パズズの言葉にマルカンテトは振り向く。パズズが彼女に頷いた後、マルカンテトが私に答える。
「負けを認めましょう。私達は貴方の側につく事にしよう」
「おお! ありがとうございます!!」
マルカンテトからの信じられない回答に私は喜んだ。私は
「それで、俺達は何をすればいいんだ?」
パズズが私に
「話は分かった。また連絡してくるがいい」
「ありがとう。必ず連絡するよ」
私は彼らにそう告げ、グレーター・テレポートを使用してレイア達の待つ魔王城へと戻るのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】
【マルカンテト】…………サキュバスの女王。アビスに存在するデーモン・ロードの一人。快楽主義者や自身の魅力を使用して周囲の者を支配し破滅させる者の守護者である。シェンディラヴリに住み、多くのサキュバスとインキュバスを従え君臨する。長きにわたりイーグノフと争っている。さらにグラズトとは過去の
【シェンディラヴリ】…………アビス第570階層に広がる領域でマルカンテトの住まい。永遠の日没の中で赤く染まっている雄大な山脈と生命の豊富な海洋の間に位置している草木に
【パズズ】…………下方空中諸王国のプリンス。アビスに存在するデーモン・ロードの一人。マルカンテトの大親友。
【オルクス】…………アンデッドのプリンス。アビスに存在するデーモン・ロードの一人。グラズトの天敵。デモゴルゴンとも敵対し争っていた。
【デモゴルゴン】…………プリンス・オブ・デーモンの異名を持つ。アビスに存在するデーモン・ロードの一人。グラズトの天敵。オルクスとも敵対し争っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます