第42話 「リッチ、ダリア」

 翌朝、私とレイアは食事を終え、今日から始めるリータ国にいる魔族と魔物達の戦力強化について話し合っている。


「タクトよ、アンデッドのいる場所を教えておこう」


「よろしく頼む」


「まず、リッチが第六階層中広間。ドレッド・レイスが第五階層中広間。ゾンビ達が第二階層中広間じゃ。スケルトンは数が多いから、会いたい時は連絡してくれ」


「わかった。ありがとう」


「リッチとドレッド・レイスは強力な魔物じゃ。くれぐれも気をつけてくれ」


 レイアの忠告に私はうなずく。


「わらわはほかの魔族の課題を与えに行くが、適当に強い奴をあてがえばよいのじゃな?」


「ああ。四天王達にもヒュドラと戦わせてレベルを上げてやってほしい」


「あいわかった。こちらはまかせるのじゃ。では、そろそろゆくか」


「うん。お互い頑張ろう」


 レイアは席を立ち、早速さっそくテレポートで目的地へ向かった。


「さて、私も行こう」


 最初の目的、リッチに会うため、意識を集中してテレポートを使用し、第六階層へと移動する。




 中広間の扉を入ってすぐの場所に転移した私は、物々しい瘴気しょうきを感じる。その対象は、広い部屋を徘徊はいかいしている。


「あれだな」


 私が気づくと、向こうも気づいたらしく、私の方にものすごい速度で向かってくる。並の人間ならショック死しているだろう。


「何の用だ? 魔王の夫よ」


 は怒りに満ちた真紅しんくの眼で私をにらみつける。リッチは王冠をかぶり、灰色のちかけた顔と身体。豪華だがところどころほころび、破れて古びた濃い紫色のローブを身にまとい、胸に大きなルビーを形どったネックレスをぶら下げている。右手には超レアとわかる長いロッドを持っている。


「はじめまして。私はタクト。貴女をきたえにきました」


 私の言葉に彼女は左手で私の肩につかみかかる。その瞬間、呪いが発動し、互いの身体に効果が発動する。


「うおおおお!!!」


 リッチが絶叫ぜっきょうする。つかんだ左手から発光し、光が彼女の身体全体に広がる。私の身体にも威圧と毒が回ろうとするが、その効果は無効化される。


聖なる呪いホーリー・カースだね」


 リッチは浄化される。身体は赤みをび、ちた肌はつややかに変わり、美女の顔が現れる。古びた衣服は新品になり、かがやきさえ見せる。


集約アグリゲーション!」


私は呪文を唱え、彼女の身体から消え、逃げていく呪いの力を一つの玉として集約する。何が起こったかわからず、リッチは驚いている。


「これは一体、どうしたというのだ?」


「これで話ができそうだね。名前を教えてくれるかな」


 リッチは変化した自分の身体を確認してあせっている。ようやく私の顔を見てくれ、答える。


「私はリッチのダリアだ。この身体は私のにある魂が補完されない限り成しえない。何をした!」


「そうなんですか。じゃあそうなったんでしょうね」


 私は彼女の青い眼を見て答える。


「バカな! あり得ない。私はリッチなのだ! 永遠に満たされぬ身体なのだ」


「ええ、その力はこの中にあるから大丈夫です。あとで返すよ」


 私は二人のとなりに浮いている禍々まがまがしい紫の球体を指さす。そして彼女に疑問を投げかける。


「それより、何で怒っているのか教えてほしい」


 彼女は少しあきれた表情になり、笑い出す。


「ハハハハ! 何を怒っているのかだって? 面白い事を言う奴だ。いいだろう、教えてやる。私は人間のダリアだった頃、ある貴族の男にウィザードとしてつかえていた。だが、突然裏切られ、殺されたのだ」


 彼女の話によると、ある事件をきっかけに主人から魔女として告発され、裁判にかけられ処刑されたのだそうだ。


うらみに満ちた私は死後悪魔と出会い、リッチになる契約をしたのだ。憎きあいつと人間達に復讐ふくしゅうするために!」


 彼女の話をじっくり聞き、私はある提案を思いつく。


「じゃあ今からその貴族のところに行ってみる?」


「は?」


復讐ふくしゅうしたいんだろ? やればいいじゃないか。もやもやしてるのは身体に悪いぞ。その人、生きてるの?」


「……生きていると思うが。何をバカな事を!」


「その人のいる場所、わかる?」


「大体なら……」


 私はテレパシーで彼女から場所を聞き、復讐ふくしゅう相手の男の気配を探ってみる。


「こいつか。部屋にいるようだ。行くか」


 ダリアは驚いた表情のままだが、意志を確認することなく私は呪文を唱える。


「グレーター・テレポート」




 私とダリアの身体は消え、貴族の男がいる部屋へ瞬間移動する。彼はあかりをつけ、自室のような部屋で何か書類を書いている最中だった。


「いた。これでいいか?」


 私はダリアに確認する。彼女も、移動先の貴族の男もまた、突然の事態に呆然ぼうぜんとしている。


「な、何だ貴様ら?」


 異変に気付いた彼は、禍々まがまがしい瘴気しょうきに満ちた私とダリアを見て驚くが、次の瞬間恐怖に打ち震えだす。椅子から転げ落ち、涙を流して吐き出す。


「間違いない。奴だ! 私を裏切り、命をうばった!」


 ダリアは怒りに満ちあふれ、己の復讐心ふくしゅうしんを増大させる。ダリアの顔に気づいた彼は、自分の罪に恐れを増大させ、失禁する。


「お前はまさか! 私は……」


 震える声をしぼり出し、言い訳をしようとする。


積年せきねんうらみ、思い知るがいい!! 魂まで焼き尽くせ、ヘルフレイム!」


 ダリアは青い炎を男に対し打ち放つ。業火に焼かれ、彼は断末魔だんまつまを上げ、灰になる。やがて炎は消え、部屋の半分が黒焦げになり残る。


「クソ野郎が…… 私の心を踏みにじって……」


 ダリアの青い瞳はくすみ、涙があふれていた。私は非情な質問をする。


「これでよかったか?」


 彼女は涙をぬぐい、私に笑顔を見せる。


「ええ、感謝します。タクト様」


「じゃあ、戻ろうか」




 私は再びグレーター・テレポートを唱え、第六階層へと戻る。その後、私は彼女に目的の続きを話し始める。


「改めて、リオリス国との戦争に向けて、君をきたえたいと思ってる、ダリア」


「私を、ですか?」


「君だけじゃなく、この国すべての魔族と魔物を強化しようと思ってる」


「えええっ!!!!」


「驚くのはもっともだけど、この国の戦力が圧倒的に足りないんだ。今のところ、もうみんなを強くするしか方法が無い」


 私はダリアに現状を説明し、これからの事を話した。


「話はわかりました。だけど、私にはもううらみの力はありません」


 ダリアはほおを赤らめ、私に答える。


「いや、それはこれから……」


 私は説明しようとするが、ダリアにさえぎられる。


うらみを晴らさせてくれた貴方様をおしたいしてしまいました。この気持ち、受け取ってくださいまし」


 ダリアはそう言うと、おもむろにすべての装飾品と衣服を脱ぎ去り、私におおいかぶさってきた!


「おわっ!! 何を!!」



 よみがった彼女のつややかな肌が私に触れる。私は少し抵抗しかけようとしたが、彼女の柔らかい唇に触れ、力を失う。私の服は彼女の魔法で取り去られ、なすがままになってしまう。ダリアは私の手を取り、その美乳をあてがい、たのしませてくれと微笑んで合図する。


 私は彼女の意図を受け入れ、覚悟を決めた。ダリアが愉悦ゆえつひたるのに、そう時間はかからなかった。それからしばらくの間、私とダリアのあえぐ声が、広間中にこだましていた――。



◆◆◆



「ご、ごめんなさい。急にさそったりして」


 互いに服を着終えてから少しして、ダリアが私に話しかけてくる。


「いや、もう全然断るすきすらありませんでしたが……」


 私は率直そっちょくな意見を返す。ダリアはプッとき出し、微笑んで答える。


「そうでしたね。ごめんなさいね」


「いやまあ、貴女がよければそれでいいんですけど」


「魔王様になんて言えばいいのか、ごめんなさい」


「ああ、それなら大丈夫だから、気にしないでいいよ」


 私はれ笑いして答える。行為を終えた彼女は、とてつもなく力を上げた気がする。


「あ、そうだ。さっきの元の力、返すよ」


 私は置いていた禍々まがまがしい紫の球体を引き寄せ、ダリアの身体に戻してやる。紫の力はダリアに吸収され、ダリアの身体は薄い紫色に変わり、リッチクイーンへと進化を果たす。


「おおおお!! 今までの力が戻ったのを感じます。そして今までとは比べ物にならない力!! 感謝します!」


 ダリアは力を実感し、喜びに打ち震えている。私は同意し、うなずく。


「では、話の続きをするよ」


 私はダリアにアンデッドの変化した仕組みとこれからの課題内容を説明する。ダリアは一つ一つに耳をかたむけてくれている。


「なるほど。死んでしまってもいいのですね?」


「うん。むしろ死んだら経験値がすごく入るから、魔力が枯渇こかつしたら突っ込んで死んで、復活すればいいから」


「わかりました」


 ダリアは私の説明も意図もすぐ理解してくれた。さすがリッチだ。み込みが早くて助かる。


「レベルアップをしてクラスが上がる事もあるから、どんどん戦ってほしい」


「何と戦うのです?」


「そうだな、君はレイアから強いって聞いてるから、とりあえずヒュドラからやってみるか」


「ヒュドラ…… いいでしょう。今の私に相手できるかわかりませんが」


「そのくらいでいいんだよ」


 私は意識を集中し、召喚魔法を使用する。広間の中心に魔法陣が現れ、巨大な七つ首のヒュドラが出現する。


「よし、こいつと戦ってきたえてくれ。もし倒してしまったら、私かレイアに連絡してほしい」


「わかりました。色々ありがとう、タクト様」

 

 ダリアはロッドを手に構え、七つ首のヒュドラに身体を向ける。敵意を察したヒュドラの首達が咆哮ほうこうを上げだす。私は彼女の戦う姿をしばらく見届けた後、次の目的の場所へ向かう事にする。



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【まめちしき】十人のメイド達の名前一覧(※作中でレイアが決めた順です)

1. アン 2. フェリシア 3. スザンヌ 4. リビエラ 5. キャシー 6. エミル 7. ニーナ 8. ルミエル 9. チェルシー 10. ロゼ

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