第41話 「タクトの想い」

「お水いかがですか?」


「ああ。いただくよ。ありがとう、ロゼ」


 ロゼは水差しから水をグラスに注ぎ、私に手渡してくれる。サイドテーブルに置いていたもう一つのグラスにも水を注いで手に取り、二人で水を飲む。


 ロゼがメイド達最後の相手だった。後戯こうぎを終えたのち、互いに話を交わして十分ほどの時が経っている。短い時間だったが、私はロゼという女性の事をよく知る事ができた。


「ありがとうございます、タクト様。私達全員に寵愛ちょうあいを頂き、満足しております」


「それはよかった。もうこんな時間か。すっかり夜になってたんだな」


 途中、夕食の準備ができたとメイドの一人が教えに来てくれたが、レイアには必ず食べるように伝言して断った。行為中の顔をレイア達に見られたくなかったのだ。さらに、レイアが食べずに待ってくれるのだけはけたかった。


「長時間にわたりお疲れ様でございました」


「いや、こちらこそ、貴重きちょうな時間をありがとう」


 私の言葉にロゼが笑顔を見せる。そんな時、扉をノックする音が聞こえる。


「失礼いたします」


「どうぞ」


 扉が開き、アンが現れる。


「食事の用意ができております。どうぞおしください」


 どうやら私達を呼びに来てくれたようだ。ロゼは私に会釈えしゃくすると、アンと共に部屋を後にする。私も腰掛けていたベッドから立ち、食卓へと向かう。


 長丁場ながちょうばにはなってしまったが、こういうのは前の世界の仕事でもよくあった事。アドレナリンかドーパミンが出ていれば食べなくても何とかなることはわかっていた。体力もヒールで問題なく解消できた。



「おお、タクト! 待っておったぞ。食事もさめぬよう持ってこさせておる。はよう座れ」


 目をかがかせながら手を振り、レイアがむかえてくれる。


「ありがとうレイア。ちゃんと食べたか?」


 私は席に座りながらレイアにたずねる。


「うむ。どれも美味びみじゃったぞ。特にこのミソシルというスープ。塩加減のよい未知の味じゃった! 海藻かいそうときのこで海と山の味を堪能たんのうできるとはのう」


 ドミエルに頼んでいた味噌汁みそしるを気に入ってくれたようだ。


「そうか。じゃあ私も早速さっそく。感謝します。いただきます!」


 レイアを満足させた味噌汁みそしるをすすってみる。味噌みそうまみとワカメの出汁だしがよく出ていていい感じだ。


「これは美味うまい! いい味になってるよ」


「じゃろう? 他の料理もどんどんしょくすがよい」


 レイアにすすめられ、私はステーキや野菜サラダをナイフとフォークを使って次々に口にほおばる。そして皿にったご飯もいただく。


「今日の夕食は四天王達と共にしょくしたのじゃ。皆タクトの料理をめておったわ」


「そうだったんだ。みんな元気にしてるか?」


「もちろんじゃ。皆腹いっぱい食っておったわ。タクトに感謝しておったぞ」


「それはよかった。フィナーンも喜んでくれてたんだな」


「うむ。やつめ、タクトの事を良き男だと皆に申しておったわ」


「そうか。元気を取り戻してくれてよかった」


 フィナーンの事は少し気にしていた。また彼女と話す機会もあるだろう。


「タクトよ。わらわの願いを聞き入れてくれて感謝する。大儀たいぎじゃったな。十人を相手にして大変じゃっただろう。食事がんだら、ゆるりと休むがよい」


 食後のクッキーを食べながらレイアが私をねぎらってくれる。


「そうだな。すっかり時間が過ぎてしまった。でも披露宴ひろうえんまであと二日だし、他の事もいろいろやりたい」


あせる気持ちはわかるが、睡眠は大事じゃぞ。身体をこわしては元も子もないからの」


「確かにそうだよな。魔物の事は明日にするよ。ありがとう、レイア」



 私は食事を食べ終え、口を綺麗きれいにしてからレイアと共に寝室へ戻る。寝巻ねまきに着替えた私はレイアより先にベッドに座る。


「レイア」


「どうした?」


 ちょうど着替え終えたレイアが私のとなりに来る。レイアの手を取って座らせた後、不思議そうに私を見るレイアのほおに近づき、口づけする。


「何じゃ突然! わらわとしたいのか?」


私の行為に面食らっているレイアが可愛い。


「お付き合いいただけますか。お姫様」


「うむ。もちろんじゃ」


 私とレイアはベッドに入り愛を確かめあう。他の誰よりも長く、激しく、互いを求めあった――。



◆◆◆



「レイア」


 恍惚こうこつの表情を残し、眠りにつこうとするレイアに、そっとささやく。


「む……、何じゃ?」


 眠気をこらえながらレイアが反応する。


「これからもずっと愛してるからな」


 この先何が起きようと、ずっと変わらない私の想い。今にも眠りそうなレイアに届ける。


「ああ……。愛して……おくれ。わらわも……」


 睡魔すいまに負けたレイアは、そのまま眠ってしまう。そんなレイアの寝顔をいとしく思いつつ、私も目を閉じ、眠りについたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る