第39話 「リータ国の魔族システム改変」

 私とレイアは魔王の間の中央に移動し、儀式の準備に取り掛かる。


「最終確認もんだ。早速さっそく始めるとするか」


「レイア、わかっていると思うけれど、この国の魔族だけに有効にするんだよ。でないと意味無いからね」


「そうじゃな。危うく忘れるところじゃった。テヘッ」


「レイア、勘弁かんべんしてくれ。 気をつけてくれないと」


「そ、そうだな」


 レイアは持ち出した書物を再確認する。危なかった。テヘでむ話ではない。リオリス魔王国の魔物も同じようになっては、絶対勝てなくなるからな。


「よし、確認した。これより儀式を始めるぞ」


 レイアは目を閉じ集中する。呪術を高速詠唱えいしょうすると、レイアの下に魔法陣が現れ、光が上に向かって放出される。詠唱えいしょうが終わると、光が天井てんじょうを突き抜け、上空から国全体に広がり、消えていく。


 レイアは目の前にモニターを出現させ、何やら表示したものを目で追って確認している。


「タクト、どうやら成功したようじゃ」


「おおお!!! ありがとうレイア! これはとてつもない前進だよ!」


「そんなにめられるとれるのう。まあ、わらわは魔王じゃからの」


 レイアはまんざらでもなさそうだ。ほこらしげにふるまうレイアを見て、私の中に自分の発した言葉を恥じる気持ちがきだす。


「レイア、ごめん!」


 私はレイアの身体を抱きしめ、びる。


「先に言ってなかった私が悪かった! なのにきつく言ってしまって…… 本当にまない!」


「案ずるな、タクト。わらわがうっかりしておったのじゃ」


 非を認めるレイアをさらにぎゅっと強く抱きしめる。言葉が出ず、そうするしかなかった。


「もうよい、離すのじゃ」


 レイアのお願いに私は両手をゆるめ、身体を離す。半泣きの私の顔を見てレイアがにっこり笑う。


「わらわはタクトの役に立ててうれしいのじゃ。そんな顔をするな」


「それはこっちのセリフだよ…… 一つでも多くレイアの役に立って、そばにいたいんだ」


 私はレイアの女神スマイルをおがんでいると、急にある事を思い出した。


「そうだ! レイア、もう一つ頼みたい事ができた」


「ほう、それは何じゃ?」


「ゾンビやマミーのような速度の遅い魔物の設定を逆転する事はできるか?」


「可能じゃが、それには代償だいしょうともなうぞ」


 代償だいしょうか。まあできるってなら有難ありがたい。生贄いけにえみたいなものか。内容だけでも聞いておく。


「どんな代償だいしょうなんだ?」


「そうじゃな。そなたの両腕を頂くというのはどうじゃ?」


 腕だと? 相当重いな。まあ再生すればいいか。


「わかった。やってくれ」


「うむ。ちなみに、遅い種族すべてにもできるが、いががする?」


「そうだな、虫以外でお願いします」


 足の遅い虫が早くなるのは御免ごめんこうむりたい。


「あいわかった。では、はじめよう」


「レイア、少しだけ待ってくれ」


 私は魔法を唱え、神経遮断しゃだんおこなう。麻酔ますいのようなものだ。


「よし、準備はできた。いつでもいいよ」


 レイアはうなずき、高速詠唱えいしょうを始める。青い光がレイアを包み、一気に広がって消える。同時に私の両腕が指から順に肩まで消滅する。血はき出さず、消滅部が皮膚ひふおおわれる。


「よし、うまくいったようじゃ。大丈夫か、タクト」


「神経遮断しゃだんしているから痛みはない。ありがとう、レイア。これでゾンビとかは動けるようになったんだな?」


「ああ、会ったら驚くかもしれぬがな」


「そうか。じゃあ、この両腕を直すとするか」


 私はハイヒールを唱える。両腕が元に戻ったと思った矢先、また指から消滅していく。


「えええ!!!? 何で??」


代償だいしょうの効果が重いからじゃな」


 スピード逆転はそんなに大変な事なんだな。私は気を取り直し、意識を集中させる。


「よし、今度は片腕ずつ再生する」


 アビスでもこんな事は経験した。エレノーラ様との修行の日々は伊達だてではないのだ。


「秘術、エクストラヒーリング!」


 私の右腕部がまぶしく光り、一気に再生する。魔力をごっそり持っていかれるのを感じる。今度は消滅していく事はなかった。


「おおお!! すごいなタクト!」


「回復に関しては、まだまだ引き出しがあるからな」


 続いて左腕の再生も行う。私は両腕の感覚を確かめるため手を動かすが、以前よりなめらかに反応してくれる。神経遮断しゃだんの魔法を解いた後、インベントリを開いてMP回復ポーションを取り出し、半分ほど飲み干す。


「これでよしと。そうだ、レイア」


「どうした、タクト」


「このポーションの成分なんだけれど、魔界に素材ってあるかな?」


 私は残ったポーションをびんごとレイアに渡す。レイアはびんの中の液体を見つめて答える。


「すぐにはわからぬな。術師に回して解析かいせきしておくが、よいか?」


「ああ、助かる」


 これで私の計画を実行する準備は整った。


「レイア、あとは実際に彼らに会って訓練してもらうだけなんだが、他の種族についてはレイアの方で課題を与えてやってもらえないか?」


「何をすればよいのじゃ?」


「ミノタウロスやキマイラ、サラマンダーやヒュドラなんかの強い魔獣と順々に戦わせてほしい。実戦経験が重要だからな。でも死なないように回復で調整してあげてほしい」


「あいわかった。まかせてくれ」


 レイアは地獄の使いを呼び、私の渡したびんを預け、術師に届けて解析かいせきするよう指示する。レイアは私に向き直り、話しだす。


「タクトよ。アンデッドだが、まず、リッチとレイス、ヴァンパイアに接触してくれ」


「どういう事だ?」


「アンデッドの中でも力を持つのが彼らなのじゃ。じゃが、わらわの国に所属している数は少ない。リッチとレイスは一人、ヴァンパイアは二人しかおらぬのじゃ」


「そうなのか」


「ああ。人間界やリオリス、タルタロッサにはもう少しおるが、ほとんどはアビスや地下深くに存在するからな。数が少ない分、まずはやつらから強化するがよい」


「わかった。そうするよ」


 私が納得なっとくしてうなずいた時、レイアが何か思い出したのか、少し上向き加減に話し始める。


「ああ、そうじゃ。その前に、わらわと部屋に戻ってくれるか?」


「え? ああ、いいけど……」


 私は特に何も考えずに承諾しょうだくする。だが、レイアが考えていた事は、この時の私にはまったく知るよしも無かった――。

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