第38話 「アンデッド強化計画」

 二人の凶悪な王を見送り、私とレイアは再び私室に戻り、食卓で紅茶を飲み、一息ひといきつく。

 

「レイア、この後時間あるかな?」


「そうじゃなあ、まだ残務ざんむはあるが、時間は作れるぞ」


「そうか。実は…… この国の戦力の確認と、強化計画を進めたいと思っているんだ」


「うむ。国のたみ達もかなり復活し、元の生活に戻りつつある。そろそろ考えねばならぬな」


「まあ、生活はまだ改善の余地はあるが、戦争まで時間が無いからな。やるしかないよ」


 上下水施設しせつなどやる事はあるが、肝心の迎えつ力をととのえないといけない。ここで把握はあくしておく必要がある。


「それで、まず何からするのじゃ?」


「まずは現状の戦力を確認したい。その後、レイアに質問と提案があるんだ」


「そうか、あいわかった。では地図を出そう」


 レイアは魔法で地図を出し、テーブルにせる。リータ国の地形と各地に住む魔族も出してくれる。


「怪人、アンデッド、獣、虫、鳥、植物、エレメント、悪魔などの種族が各地域に分散して点在しておる」


「なるほどな。それで、彼らを合わせた総数はどのくらいになる?」


「普段戦闘に参加しない者も含めてか?」


「そうだ。大体でいい」


「そうじゃな…… ざっくりじゃが、二万から三万といったところかのう。残念じゃが、これが限界じゃ。百万の軍には遠く及ばぬ……」


 圧倒的に少ない。ある程度は予想していたが、これではノーリスとセラネムが参加したとしても知れている。やはりこの戦争に勝利するには、根本こんぽんを変えるしかない。


「そうか。戦力の編成へんせいや戦略はレイアにまかせるよ」


「うむ」


「私が役に立てるのは、今から話す分野だと思う。その前に、聞きたいことがある」


「何じゃ? 先ほども申しておったの」


 私がこの世界に召喚され、魔物との戦闘を経験してきた中での疑問がいくつかあった。それをレイアにぶつける。


「うん。それは魔物の強さがどうやって決まっているのかという事だ」


「強さ?」


「例えば人間の場合、最初は弱い者でも、知識をつけ、訓練を受け、実戦で経験値を得て強くなるんだけど、魔物もそういう感じなのか?」


「いや、魔族も魔物もあらかじめ個々の強さは決まっておる。人間のように訓練して強くなるというのはないな」


 私の疑問が一つ解けた。ならば試してみたい事がある。


「やっぱりそうか。レイア、そこで相談なんだが」


「何だ?」


「魔物達も知識や訓練次第で経験値を上げ、レベルアップしてという仕組みを導入どうにゅうできないだろうか? それなら、この短期間でも強くなれると思うんだ」


 レイアは私の提案に驚きの表情を見せ、少し考えこむ。


「なるほど、仕組みか…… それは面白いのう! 魔王のわらわなら可能かもしれぬ。 少し待っておれ」


 レイアはそう言うと、テレポートでどこかへ移動してしまう。五分ほどして、一冊の本をたずさえて戻ってきた。レイアの目はキラキラかがやいている。


「タクトよ喜べ! どうやら可能のようじゃ。 昔の魔王の記録の中に、その仕組みについて書いてあるものがあった」


 レイアは持っている本を開け、仕組みが書いているページを出してくれる。私は言語理解コンプリヘンド・ランゲージズの魔法を使用して言語の意味を解読かいどくできるようにし、中に書いてある内容を読み進める。


「おお! 魔王の能力と術を使えば、魔族の皆を人間のようにできるというんだな。これは素晴らしいな」


「そうじゃ。人間の強さに気づいた魔王がおったらしく、研究成果をこの本に残したそうじゃ。じゃが、彼が魔王を退しりぞくなった後、引き継ぐ者がおらなかったのじゃろうな」


「なるほど。で、レイアはこの本に書いている術を使えるのか?」


「もちろんじゃ。わらわは偉大なる魔王じゃからな」


「よし、じゃあこの話が終わったら、早速さっそく術を使って儀式をしてもらえるかな?」


「あいわかった。やってみよう」


 これはとてつもなく大きい。実現すれば、戦争に勝つ光明こうみょうが見い出せる気がする。私は次の話を切り出す。


「次の質問だけど、レイアは階層ボスやダンジョンのボスのような魔物を作り出すことはできるのか?」


「ああ、もちろん可能じゃ。 じゃが……」


 レイアはお腹を見て手を当てる。


「わらわには今、タクトの子が宿やどっておるから、今まで通り産み出せるかはわからぬのじゃ」


「全然無理って事?」


「やってみねばわからぬ。無理かもしれぬし、できるかもしれぬ」


「わかった。もしできたらでいい、少しでも多くの魔物を産み出してほしい」


「あいわかった」


 それから私とレイアは約一時間にわたり、各種族の特性や構成などについて確認しあった。レイアは資料もまじえて説明してくれる。この話し合いで私は多くの学びとひらめきを得る事ができた。


「レイア、ありがとう。すごく参考になった。他にもやる事はあるけれど、一番やりたい事があるんだ」


「ほう、どんな事じゃ?」


 私は計画の核心をレイアに打ち明ける事にする。


「それは、アンデッド族の強化計画だ」


「アンデッド!? よりによって弱小種族をか?」


 先ほどの確認の場で、レイアは私にそう説明してくれていた。レイアは私の発言に驚きつつ、落胆らくたんしているようだ。


「そうだ。そしてこれが戦争に勝つカギになる」


「一体どういう事じゃ?」


「アンデッドは復活できる種族だ。その特性と今回レイアにたのむ『経験して強くなる仕組み』を組み合わせ、短期間できたえるんだ」


「何じゃとおお!!!!」


 そう、これが私が考えていた計画の核心。逆転の秘策である。


「そのような事、わらわはおろか、誰も考え付かなんだ」


「だからいいんだ。それと、ある程度レベルが上がった者には、クラスチェンジする仕組みも導入どうにゅうしてくれると助かる。上限で成長が止まって持てあますのはもったいないからな」


「次から次へと、そなたはとんでもない事を言い出すのう。実に面白い!」


 私の提案にレイアの目はかがやき、興奮こうふんしている。


「復活したら、それまでの経験を倍とかボーナス的にもらえるようにしてくれたら、すごい事になるよな!」


「おおお!! それは素晴らしいのう! 試してみるぞ。こうしてはおれぬ。タクト、すぐ準備に取り掛かるとするぞ」


「ああ、やろう。そして戦争に勝とう」


「うむ。魔王の間へゆくぞ!」


 レイアは上機嫌じょうきげんで私をテレポートで魔王の間へ引っ張っていく。何としても実現させ、魔王レムナムグルスの鼻を明かしてやりたい。私はこの国の勝利と、レイアへの愛をさらに心にちかうのだった。

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