第28話 「ふたりの絆」
私は引き込まれた部屋から出て、レイアの私室へ戻るべく歩き出す。すると、突き当たりに女性が立っているのが見える。どうやらメイドの一人のようだ。
「タクト様ですね。お待ちしておりました」
メイドは私を先導し、扉の前で止まりノックする。
「魔王様、タクト様がお戻りになられました」
「通してよいぞ」
レイアの声が聞こえる。
「かしこまりました。失礼いたします」
メイドは
「どうぞ、お入りくださいませ」
「ありがとう」
私は
「遅くなってしまった。ごめん、レイア」
「心配したぞ。まあこちらへ来て、座るのじゃ」
「レイア、心配させて
私はレイアの元へ歩み寄り、向かいの
「して、いかがしたのじゃ?」
レイアが少し顔をしかめ、私に
「実は、トイレから戻る途中で、フィナーンにつかまり部屋に閉じ込められたんだ」
私はこう話を切り出し、フィナーンから
「なるほどのう。そういう事があったのか。遅くなるのは仕方ないかのう」
「成り
私は頭を下げてから、レイアの目を真っ
レイアも私の目を
「なるほど、‘’裏切る‘’とはそういう事を言っておるのか」
レイアの口が開いた。
「よいか、タクト。魔界では結婚しようがすまいが、複数の異性と関係を持つなど、いたって普通の事なのじゃ。それは裏切りではない」
「ええええっ!?」
まさかレイアから
「そなたがこれから出会う魔族の男は、何人もの女を囲っている者がざらにおるわ。何なら四天王の男は全員、そうじゃぞ」
「そうなのか!」
「そうじゃ。わらわとフィナーンはたまたまいなかっただけじゃ。女も何人もの男がおる者も
人間だと権力者や性にだらしのない奴くらいのものだと思っていたからなあ。魔族と我々とは根本的に価値観が違うのかもしれないな。
「じゃあ、レイアは私がした事を聞いてどう思ってるんだ?」
ここまで言われたらもう聞くしかないだろう。そんな私の問いに、レイアはにっこり
「タクトはわらわの事を裏切ったと思っておるようじゃが魔族の事情を差し引いても、わらわはそうは思っておらぬ。なぜなら、タクトがわらわを愛してくれている事は、よくわかっておるからのう」
私はレイアの発言に、返す言葉が見つからない。こんなできた妻、人間にだってそういないだろう。人間じゃないけど。
「タクトはフィナーンと関係を持ったことを話してくれただけで、わらわの事を嫌いになったわけではないのだろう?」
フィナーンの事で言えた義理じゃないが、それでも。
「ああ、最高に愛してる」
「それが言えるなら、何も心配しておらぬ。それがわらわの気持ちじゃ」
「レイア…… 本当にありがとう」
私はレイアの
「それに、タクトはフィナーンの気持ちを受け入れてやったのじゃろ?」
「あ、ああ。最初はレイアを裏切れないと思ってた。だけど、私に真剣に気持ちをぶつけてくれたフィナーンの
「告白を受けて断れなかったとは、どういう事じゃ?」
私は、一瞬言葉に詰まった。心に
でも、フィナーンとの事を許してくれたレイアには、話す必要があると思う。私は意を決してレイアに打ち明けることにする。
「昔の話だ。私がまだ中学生だった頃、自分が好きになった人に告白して
「ふむ」
「その時の事が今も心に残っていて、その……人から
「なるほどのう」
レイアは私の目を見て、じっくり聞いてくれている。
「それだけが原因ではないけれど、私は前の世界にいた時から今まで、告白されたことが無かったんだ」
「そうなのか。意外じゃのう」
「だから今日、フィナーンから気持ちを伝えられた時、すごく嬉しかった。そして、私を好きになってくれたフィナーンに、昔に私が受けた嫌な気持ちをさせるのは絶対にダメだと思ったんだ。だから好き嫌いじゃなく、受け止めようって思ったんだ」
私は一旦話を止めて、反応を待つことにした。何を言われても受け入れようと
するとその後、レイアは一旦私から顔を
「そうか。タクトは過去に、辛い経験をしたのじゃな。タクトの心の中の思い、よくぞわらわに話してくれた。わらわはそれが嬉しいぞ」
再びレイアは私の目を見て
「それに、フィナーンを思いやる気持ち、よくわかった。前にも話したが、魔族に愛は気にせずともよい。それより、あやつの気持ちを踏みにじらず、よく受け止めてくれたな。わらわからも礼を申す」
「えええっ!!?」
礼を言われるとは思わなかった。どうなってるんだ魔族って。さっぱりわからん。
「何じゃ? あやつはわらわの大切な腹心じゃぞ。大事な戦争の前に気持ちを切らされる方が大変だったわ。もしそうなってれば、今頃どうするかそなたと考えねばならぬところじゃった」
「そんな…… 本当にそれでいいのか、レイアは」
「くどいな。わらわがよいと言っておるのがすべてじゃ」
「レイアには頭が上がらないよ」
もはやそう言って
「そうじゃ、ついでに言っておこう。これからタクトは、
「えっ!?」
どういう事だ? 私にそんな魅力があるわけないし、受けろって。何よりレイアに対して失礼じゃないか。
「そしてその者に
「そんな…… そんなこと言うなよ、レイア。
無理だ。こんな美しい妻を前に浮気を
「まあ、そなたは
私は
「私は、レイアが好きなんだ。ずっと一緒にいたいんだ」
レイアは一瞬固まった後、
「か、
おおおおおお!!!! 何とありがたい言葉!!!! それを聞きたかった! でもレイア、魔族だから面白いの間違いなのでは?
それに、何か
「レイア、ありがとう! 私もレイアをずっと愛してる。これだけはこれからも変わらない」
私の言葉を聞いたレイアの瞳が
「うむ。それが聞ければ十分じゃ。じゃが、フィナーンのやつには一応
「確かに。
「そうかそうか。それはけしからんのう」
レイアは目を閉じ、
「よし、この話は終わりじゃ。タクトも今日は疲れたじゃろう。食事を
「そうだなぁ、色々ありすぎて疲れたよ。そうさせてもらうよ」
レイアはメイドに食事を運ぶよう伝え、この後二人で食事を共にした。こうして、長い一日が終わりを告げたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます