第27話 「フィナーンの逆襲~Sideレイア」

 「タクトのやつ、遅いのう。時間がかかっておるのか?」


 珍しくタクトの戻りが遅い気がする。妙な胸騒むなさわぎがする。何かあったのかと思い、わらわは城内を調べる事にする。


 第八階層辺りまでの様子をモニターに映し出してみる。モニターが現れると、それらしきものが映っているかを検索する。


「む? 何か動いておるのか?」


 この階を映すあるモニター映像に目がまる。暗いが、部屋に二人いるのはわかる。わらわは暗闇でも見えるからの。


 じゃが、ここはトイレではないな。あれはフィナーンとタクトか。何をしておるのじゃ?


『おい! 人間』


『君は…… 何でこんな事を?』


『わからぬか!?』


 フィナーンのやつ、何を言っておるのだ?


『貴様は魔王様をたぶらかし、私のプライドをズタズタにした。私に二度の敗北と、屈辱くつじょくを与えたんだ』


 何か状況がおかしい。何をしようとしておるのだ? 異様いような状況じゃ。様子を見ておくか。


「おい、メイド達。しばし外に出て待機しておれ」


「かしこまりました。魔王様」


 わらわの指令にメイド達が部屋を退出する。念の為じゃ。再びモニターで状況を確認しよう。


『貴様、この屈辱くつじょくを、どう責任取ってくれるのだ!?』


 お!? フィナーンのやつ、付けてる胸当てを取り去りおった! 何をする気じゃ?


 ん!? タクトのやつ、また鼻血を出しとるな。さてはフィナーンに欲情しおったか。


『あんたにれたんだ。落とし前、つけてくれるよな?』


「おおおおお!!!」


 フィナーンめ、抱き着いて告白しおったわ!! なかなか大胆な事をしおるのぉ!!! よいぞ、よいぞ!!!


『お前、私が魔王の夫になったと……』


だまれ!!』


 むむむむ!!! どうするタクト?


『どうなんだ!』


 タクト、行け、行け!


「どうするのじゃ?」


『そうか……』


 何を思っとるんじゃ? もどかしいのう。


『わかったよ……』


 おっ! よし!! 行くか、行くか……


『言葉じゃ足りないだろ。だから……』


 むむ! おおおおおおおおおお!!!!!!


「行ったぁ!!!」


 よし!!良いぞ!!! さすがはタクトじゃ!!ようやった!!!



◆◆◆



 ハァハァハァハァハァハァ……


 まったくあやつら、見せつけてくれおるわ。実に良き、良きことじゃ! 堪能たんのうさせてもらったぞ。


『なあ、タクト』


『ん?』


『なぜ、私を抱いたのだ?』


 確かに。なぜじゃのう?


『それは…… 私にれたと言ってくれたから』


『え!?』


『君の気持ち、断れないよ』


 ほう。したわれてまんざらではないというところか。タクトのやつ、意外じゃのう。


『何だそれ、別に断ればいいじゃないか』


『断れないんだよ!!』


 む!? なぜ怒っておるのじゃ? 気になるのう。


『怒鳴ってごめん。私には、断れなかった。それに、君の流した涙。そしてうったえかける瞳。そこに嘘はないと信じられた』


「ふむ」


 真面目まじめじゃな。まあ、そこがタクトの面白き所じゃが。ここでも出たという事か。


『正直、レイアには悪い事をしたと思う。でもあの時の君の顔を見たら、断れなくなったんだ。君を受け入れて、力になりたいと思った』


 ん? 何も悪くはないがのう。むしろ良き奴だと思うたぞ。タクトらしい動機じゃしの。


『愛の形としては間違ってるかもしれない。でも、勇気を振り絞って告白してくれた君の気持ちにむくいたかったんだよ』


 おおおおおおおおお!!!!! げに恥ずかしげもなく! タクトめ、言いおるわ!!!


 ハァハァハァハァハァ……


『バカだな、お前は。でもそういうところ、私は好きだよ。魔王様を裏切らせて、悪かったな』


 うんうんうん。そうじゃろう。フィナーンもタクトの良さが分かったようじゃのう。じゃが、わらわを裏切ってなどおらぬぞ。


『そう思ってるのなら、これから一緒にあやまりに行ってくれる?』


『それは断る』


 何を二人して笑っておるのじゃ? 分かり合えたようで、何よりじゃの。わらわにあやまるとは、何のことじゃ?


『タクト、今回の事でもし子供ができたら、可愛がってくれるか?』


『えっ!? 子供?』


「子供じゃと?」


 フィナーンのやつ、何を言っておるのだ? そのくらいでは、子供はできぬじゃろうて。マリリスはもっと長く交尾せねばのう。


『どうなんだ?』


『も、もちろんだ。だが、その前にレイアに言わないとなあ』


「は?」

 

 タクトのやつ、何を言っておるのだ? わらわに何を言うのじゃ?


『なんてな、冗談だよ』


『ええ!!』


『このくらいの事で子供はできないから、大丈夫だ』


『そうなのか、びっくりした』


 そりゃそうじゃろ。タクトのやつ、まんまとひっかかりおって。


『ところで、タクトは魔王様のどこにれたのだ? 戦闘して、面白いと感じたのか?』


『最初は、魔王の間でレイアを初めて見た時に、その完璧な可愛さと美しさにとりこになったんだ』


「おおおおおお!!!!」


 タクト、そうじゃったのか!!! まあ、わらわは美しいからのう。よくわかっておるわい。


『でも、ほかにもそういう魔物ならいたんじゃないのか?』


『いや、それがそうでもないんだ。レイアだけが、私にとって特別に見えたんだ。魔物も、今まで出会ったどの人間にも感じなかった美しさを持っている』


 うむ。そうじゃろう、そうじゃろう! タクトは目の付け所が違うのじゃよ。


『それに、ほかのメンバーにはレイアはそうは映ってなかったらしい』


「そうなのか?」


 わらわの美しさがわからぬとは、まったく。 まあ、その前にわらわは魔王じゃしのう。仕方あるまいか。


『さすがは魔王様にプロポーズしただけの事はあるな。惚気のろけがすごいな』


『えへへへ』


 何をれておるのじゃ。まったく、可愛いやつじゃ。


『でも今は、レイアのすべてが好きなんだ。レイアの言葉、レイアの気遣い、レイアの考え方。全部好きだし、愛してる』


「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 まこと恥ずかしい!!! じゃが、良い気分じゃ。タクトよ、有難ありがたき、有難ありがたき。


『そこまで魔王様の事を!! 私も魔王様には絶大な信頼と感謝、そして忠誠をくしている』


『すごくわかるよ。あんな尊敬できる素晴らしい魔王はいないよ。レイアが究極で至高しこう唯一無二ゆいいつむにだ!』


「おおおおおおおおお!!!!!」


 ハァハァハァハァハァ…… もっとめよ、もっとめよ!


『魔王様の偉大さをわかるとは、さすがだな。魔王様が認められただけの事はあるな』


 うんうん、そうなのじゃ、そうなのじゃ。やっとおぬしもわかったか、フィナーンよ。わらわは嬉しいぞ。


『これからもレイアの事、支えてあげてほしい』


『当然だ! 私は全身全霊で魔王様をお支えする。心配するな』


「うむ。頼りにしておるぞ」


『ありがとう、フィナーンさん』


『礼には及ばない。それに私の事はフィナーンでいい。すっかり長居してしまったようだ。失礼する』


 フィナーンのやつ、出て行きおったか。満足したのじゃな。


 しかしタクトの遅い原因は理解できた。魔族のフィナーンを思いやる優しさ、見事じゃった。


 わらわを裏切ると言っておったが、また戻ってきたら聞いてやるか。見たところそんなふうでもなかったしのう。はよう帰ってこい。

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