第25話 「フィナーンの逆襲」

 私とレイアは部屋に戻り、食卓に座りくつろいでいる。今までとは違い、身の回りの世話はメイド達がおこなってくれている。


「レイア、ちょっと席を外すね」


「ああ」


 私は尿意を感じ、トイレへ行くべく部屋を出る。魔族がトイレを利用するのか? である。


 魔物はどこにやり散らかしても気にしないが、魔族は違う。人間とは頻度ひんどが異なるだけで、トイレを利用している。そういうわけで、私も彼らの恩恵にあずかれるのだ。


 少し私室からは離れているが、城の修繕しゅうぜんをしたこともあり、綺麗きれいなトイレがそなえ付けられている。レイアには感謝の言葉しかない。


 洗面所で手を洗い、私はトイレから出る。やはり少し遠いかなあと思っていたその時、突然私の身体は横に引っ張られる感覚を覚える。


 何が起こったかわからず、対処できないまま、私は横の部屋に引き込まれてしまう。


「何だあ!!」


 私は大声で叫んだが、遅かった。部屋の扉が先に閉じてしまったのである。あかりもなく、暗い部屋でパニックになるが、私が落ち着きを取り戻すのにそう時間はかからなかった。


「おい! 人間」


 暗闇の中、女性の声がした。聞いた事のある声。というか、さっきまで聞いてたではないか。


 私は部屋の奥側を向き、確認する。そう、声のぬしは、フィナーンである。


「君は…… 何でこんな事を?」


「わからぬか!?」


 私は聖魔法ライトを無詠唱えいしょうで発動する。目の前に、人間サイズに縮んだフィナーンが、涙を流して立っている。


「貴様は魔王様をたぶらかし、私のプライドをズタズタにした」


 私は何も言い返せなかった。


「私に二度の敗北と、屈辱くつじょくを与えたんだ」


 私には、言葉とは裏腹なフィナーンの表情が気にかかっている。どう返していいか、固まっていた。


「貴様、この屈辱くつじょくを、どう責任取ってくれるのだ!?」


 言っている意味が分からない。支離滅裂しりめつれつな内容に困惑こんわくしてしまう。


 直後、胸のプレートアーマーを取り去り、肌があらわとなる。彼女の立派な両乳がたわわに弾けてみせる。


ブっ!!


 私の鼻から鮮血が飛び散る。突然の予期せぬ展開に、久々にやらかしてしまう。


 フィナーンはそんな私の変化を無視し、尻尾で私の身体をつかむと、

私をベッドに放り投げる。身動きが取れない状態の私を、フィナーンの上半身がおおいかぶさってくる。


「あんたにれたんだ。落とし前、つけてくれるよな?」


 紅潮こうちょうし、涙をこぼしながら、声を振り絞って私に迫る。


「お前、私が魔王の夫になったと……」


だまれ!!」


 フィナーンが涙をボロボロ落として叫ぶ。


「どうなんだ!」


 私はフィナーンの問いに、いや、彼女の涙と瞳に、ある想いがき上がってくるのを感じた。というか、思い出していた。


「そうか……」


 私は辛うじて言葉にする。が、それより、勝手に涙がこみ上げ、流れている。


 屈強の四天王の一人として、魔王を支えてきたこの女性。彼女の流す涙が、私の心にさる。


「わかったよ……」


 私はフィナーンの頭に手を伸ばしていた。フィナーンの瞳が一瞬戸惑とまどいに変わる。


「言葉じゃ足りないだろ。だから……」


 フィナーンのまぶたが閉じられる。そして、互いの唇が重なった。


 深く、意識深く口づけを交わしていくと、フィナーンの尻尾のめ付けが解かれていった。私は自由になった両腕をフィナーンの背中に回し、何度も口づけした。


 肌と肌を重ね、フィナーンの感触を確かめながら、私は自分の過去の傷と、フィナーンの受けた心の痛みを想像する。


 フィナーンの表情から、肌を通して伝わる感覚に快楽を覚え、愉悦ゆえつひたっていることを感じ取る。私はそのまま、彼女の上半身を丁寧ていねい愛撫あいぶし、心の傷までえる覚悟で身体を動かした。


 途中、私は衣服を脱ぎ去る時間を与えてもらい、まぐわいを再開する。その際、私の勃起ぼっきするものを確認したフィナーンは、私に恥部ちぶの位置を教える。私はあっけにとられるが、彼女の指示通りに愛撫あいぶを始めた。


 まぐわいを始めて三十分後には、私とフィナーンは一つになっていた。彼女の表情を見ると、心の傷はある程度えたのだろうと感じ取ることができた。こうして、二人の時は過ぎていく。


◆◆◆◆


 私は脱ぎ去っていた衣服を着ているところだ。フィナーンはすでに胸のプレートアーマーを身に着け、まだ少し疲れもあるのか、ベッドで横になっている。


「なあ、タクト」


「ん?」


「なぜ、私を抱いたのだ?」


 フィナーンがストレートにたずねてくる。私は少し間をおいて答える。


「それは…… 私にれたと言ってくれたから」


「え!?」


「君の気持ち、断れないよ」


 私の言葉にフィナーンはプッとき出す。


「何だそれ、別に断ればいいじゃないか」


「断れないんだよ!!」


 私の言葉にフィナーンがビクッとなる。少し沈黙ちんもくが流れる。


「怒鳴ってごめん。私には、断れなかった。それに、君の流した涙。そしてうったえかける瞳。そこに嘘はないと信じられた」


「あんた…」


「正直、レイアには悪い事をしたと思う。でもあの時の君の顔を見たら、断れなくなったんだ。君を受け入れて、力になりたいと思った」


 私はフィナーンの顔を直視する。


「愛の形としては間違ってるかもしれない。でも、勇気を振り絞って告白してくれた君の気持ちに、むくいたかったんだよ」


 フィナーンの瞳から、また涙がこぼれ落ちる。今度はしっかりと腕でぬぐっている。


「バカだな、お前は。でもそういうところ、私は好きだよ。魔王様を裏切らせて、悪かったな」


「そう思ってるのなら、これから一緒にあやまりに行ってくれる?」


「それは断る」


 フィナーンの反応に、二人して笑いあう。


 その後、レイアの事が話題になり、二人して熱く語り合った後、フィナーンは部屋から出て行った。


「さて、この後の事だが…」


 私はこの出来事について、レイアにあやまらなければならない。前の世界にいた時、テレビのバラエティー番組の特集で、『女性は男の言動や嘘に敏感びんかんで、すぐ見抜く』と見た事を思い出していた。


 やってしまった事はどうすることもできない。ここは正直にあやまるべきだ。いや、あやまらなければいけない。どんなに怒られようが、仕方ない。

やった事は最低なのだからな。


 私はそう心にちかい、意を決して立ち上がり、部屋を出たのである。

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