第25話 「タクトvsフィナーン」

 レイアの思わぬ提案で、私とフィナーンは決闘する事となる。私としては思ってもみない展開となった。


 フィナーンは思わぬ形で転がり込んだ好機こうき、と考えているのかもしれない。


「では、わらわから戦いのルールを説明する」


 レイアは私とフィナーンに部屋の両サイドに移動するよう指示する。私達はそれにしたがい、互いに広い部屋の両端りょうはしに向かい始める。


「まず、制限時間はなしじゃ。武器、魔法の使用も自由に行ってよい。どちらかが戦闘不能か、まいったと言えばそこで終了じゃ。命を奪う必要はない」


 レイアが言うルールを聞きながら、私とフィナーンはそれぞれ配置につく。


「この部屋の中で対決する事。城外はなしじゃ。もし外に出たなら、先に出た者の負けとする。あと当然じゃが、他の者の加勢は反則とする。召喚した者の加勢とかもなしじゃ、よいな」


 レイアの説明に対し、私とフィナーンはうなずく。


「レムナムグルス様、このような機会を頂き、感謝いたします」


 自信に満ちた表情でフィナーンが会釈えしゃくする。


 対峙たいじするフィナーンは、立ち姿はほかの四天王と同じ背丈せたけほどだ。緑色の長い髪に目つき鋭い美女の顔立ち、胸にはプレートアーマーをまとい、そのほかは肌を露出ろしゅつしている。腰から下は緑色のうろこおおわれた大蛇の身体がとぐろを巻いている。


 五十メートル以上は離れているが、それでも身体の大きさは実感できる。彼女はあふれ出る瘴気しょうきをまとい、そこに油断やすきは感じられない。


「双方、戦闘準備はよいな」


「ああ」


「いつでも!」


「では、これより決闘を開始する。双方、はじめ!!」


 レイアの開始宣言が告げられる! 魔王の間の静寂せいじゃくが破られる。


身体強化ベースアップ! 速度強化スピードアップ!」


 私はまず、自分にバフをかけることに専念する。


「行くよ!」


 フィナーンが腰と背中にたずさえる六本の剣を引き抜く。直後、長い大蛇の身体をくねらせ、地面をいきおいよくう。


 私は間髪かんぱつ入れず、魔法を発動する。


多重風刃・乱舞ウインドカッター・ボイステラスダンス!」


 手のひらサイズのつむじ風が私の頭上に三十個ほど出現し、それぞれが相手に向かっていきおいよく飛んでいく!


 向かってくるフィナーンも相当早く、私との距離を詰める。フィナーンと私の魔法がぶつかる!


 フィナーンは器用に六本の剣を駆使くしし、私の魔法をはじこうとする。が、つむじ風は威力を止めることなく、フィナーンの動きをにぶらせる。


 魔法の威力に手こずっている間に、私はフィナーンとの距離をさらに詰めるべく走り出す。


「くそっ! 思ったより重い攻撃……」


 フィナーンがそう叫んだ直後、最後に到達するつむじ風の一団が六本の剣を手からはじき飛ばしていく。フィナーンの身体ががら空きになる。


「よし、いける!」


 私がそう思った直後、地面のレンガのぎ目につま先がかかり、私は身体をよろけさせてしまう。


「おわっ!」


 体勢が崩れるが、そうはさせじと何とか反対の足で踏ん張り、そのいきおいで前へと飛び出してみる。


「な、何だと!?」


 よろけた私を見て一瞬すきができたのか、動きが止まっていたフィナーンは、直後、猛スピードで迫る私にあらがすべを持たなかった。


 次の瞬間、私はフィナーンの胸に頭をうずめ、両腕を身体に巻き付けるように突進していた。無抵抗のフィナーンはその勢いで、頭から後方へと倒れていく!


 私はすぐ意識を取り戻し、胸の感触に思わず上体をフィナーンの身体から起こす。

互いの速度が乗っていただけに、すごい衝撃しょうげきがかかってきた。身体強化ベースアップをかけてなければこちらも危なかった。


 そして、フィナーンの身体の硬さに驚いていた。あれだけの衝撃しょうげきにもかかわらず、頭から血は流れていない。だが、フィナーンは白目をむいている。どうやら気を失っているようだ。


「タクト、一旦離れよ」


 レイアの言葉に私は完全に意識を取り戻し、フィナーンから離れる。


「うむ。これは気絶しておるな」


 レイアが状況を確認した後、フィナーンに意識回復レイズをかけ、意識を戻す。フィナーンが目を開け、頭を振って上体をゆっくり起こす。


「う、うーん。私は……」


 フィナーンは気絶前の状態を思い出そうとしているようである。


「そうか、私は気を失ったのか」


「うむ、この決闘、タクトの勝利とする! わらわ達の名において、これにて終了とする!」


 レイアの終了宣言がひびきわたり、四天王達がフィナーンにけ寄る。私はそばにいたフィナーンに魔法をかける。


「ダークヒール!」


 私が発動した魔法の光が、フィナーンを包み込む。彼女が受けた体の傷が、えていく。


「おおお! これは!」


 け寄ってきた四天王達がフィナーンの身体を見て驚きの声を上げる。フィナーンも自身の回復を実感する。


「人間が私にヒールだと? 信じられない……」


 身体を確認するフィナーンに、レイアが近寄る。


「どうじゃ? これでもタクトを認めぬと申すか?」


「魔王様、とんでもないことでございます! 完全に私の負けでございます」


 フィナーンのすっきりした表情にレイアが微笑む。


「うむ。安堵あんどしたぞ」


 レイアのいきな計らいで、私達は心を一つにすることができている。ここまで計算しての事なのか、恐るべしレイア。


「レイア様、一つよろしいでしょうか?」


 ロイドが何か進言しようとしている。


「どうした、ロイドよ」


「はっ! しかしこうなると、やはり進めて頂き事がございます」


「何じゃ、申してみよ」


「それは、お二人の結婚式でございます」


「結婚式!?」


 レイアと私が思わず叫んでしまう。


左様さようです。ここは皆にお二人が結婚したと示して頂きたいのです」


「しかし、戦争準備の最中さなかじゃぞ。そのような浮かれた事をしているひまはないのじゃ」


「そうだなあ、それに結婚の儀式は二人でませちゃったしなあ」


 私は思わず口にしていた。


「では、結婚披露宴ひろうえんり行えばよろしいのでは? そしてその時に決起演説をなさるのでございます」


 ゲルミスがロイドに助け船を出すように進言する。


「なるほど、それはいい考えだな」


 ガレウスが同意する。


「決起パーティーなら、戦争前でも大義名分になります。やってみてはいかがかと」


 フィナーンがレイアを見て説得する。


「うーむ、じゃが、時間が無いしのう」


「装飾などは必要ございません。国中くにじゅうへの実況放送で十分でございますゆえ、どうかお願いいたします」


 ロイドがまとめに入り出している。このまま決まってしまいそうな雰囲気ふんいきである。


「うむ、皆がそう言うなら仕方ないのう。では、三日後の戌の刻いぬのこく(二十時)に始める事にするかのう」


 皆の熱意に折れてレイアが決断する。


「おおお!! 感謝いたします。では、私どもは皆に伝えて参ります! これにて失礼」


 血気さかんなロイドは、一目散いちもくさんに部屋を飛び出してしまう。他の者達もロイドに続き、気が付けば私とレイアだけになっている。


「まったく、仕方のないやつらじゃのう」


 あきれ顔でレイアが言葉をらす。


「いいじゃないか。彼らに認めてもらえて、私は嬉しいよ」


 私の言葉にレイアの顔が少し赤らむ。


「そ、そう思うか。ならば、わらわも問題ないぞ」


 決まり悪そうにしながらも、まんざらではない事が伝わってくる。


「じゃあ、部屋に戻るとするか、タクト」


「そうだな。レイア、ありがとうな」


 私とレイアは魔王の間を後にし、私室へと戻るのであった。

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