第23話 「四天王、集結」

 第九階層に移動した私とレイアは、もう一人の四天王を復活させるべく、準備に取りかかる。同行したゲルミスは、我々と少しはなれた場所へ移動し、様子をうかがう。


「タクト、始めるぞ」


「ああ、頼む」


 レイアと私は、ゲルミスを復活させた手順通りに魔法を発動していく。そして五分後には、四天王最後の一人、マリリスのフィナーンが目を覚ます。彼女の肉体と共に、武器や鎧、衣服も再生することができている。


 マリリスは上半身が人間、下半身が大蛇のナーガととても似ているが、腕が六本あるのが相違そうい点である。また、頭から尻尾しっぽまでの全長が約十メートルはある大型デーモンだ。

 

 彼女は魔王軍最後のとりでとして、ホワイトドラゴンと共に私達勇者パーティーと戦った強敵でもある。


「我があるじ、クライスライン様…… 私は…生きているのか?」


「おお! 気が付いたようじゃな。もう大丈夫じゃ」


「私は一体!?」


「勇者達によって倒されたのを、今わらわ達が復活させたのじゃよ」


「何と!? まことにありがとうございます!  そして、力及ばず、申し訳ございません!」


「よい。過ぎた事じゃ。それより、もうすぐロイドとガレウスが戻ってくるのでな、

そろい次第、改めておぬしにも状況を話そうと思う。それまでしばし待つのじゃ」


「ははっ! かしこまりました!」


 レイアの指示を聞き、フィナーンは立ち上がり、ゲルミスの存在に気づくと、彼の方へい出し、となりに立って待機する。そこでようやく私の存在に気づいたようであるが、レイアの指示を守り、待機し続けている。


 約十分程して、城外があわただしくなる。どうやら二人が到着したようである。レイアは部下達に指示を出し、二人を第十階層へ転送するよう指示する。

 

 程なくして、我々の目前に、二人が転送されてくる。


「二人とも、早かったのう。よく戻ってくれた」


 レイアが二人をねぎらう。


恐縮きょうしゅくです。四天王ロイドとガレウス、只今ただいま戻りました」


 バロールのロイドが代表して挨拶あいさつする。威厳いげんある低重音で、貫禄かんろくがある。二人とも三メートルあろうかという巨漢である。

実際目の前にすると圧倒される。


「うむ。ご苦労じゃった。これで四天王が全員そろったのう」


 横に待機していた二人が、ロイドとガレウスのもとへ行き、四人が横並びにレイアと私に対面する。


「うむ、皆がそろったところで、改めてわらわとこの城に起こった事を説明するぞ」


 レイアはゆっくりした口調で四天王に経緯けいいを説明する。勇者パーティーに城と城内の同胞どうほう達が壊滅かいめつ状態にさせられた事、レイアが殺されそうになった際に私に救われた事、そして、私とレイアが結婚した事。


 レイアが救われた事までは、四天王は顔色一つ変えずに聞いていた。ところが、結婚の話を聞いた時、皆驚きを隠さなかった。


「クライスライン様! なぜこのような者の結婚を認めたのですか!?」


 ガレウスが思わず口に出してしまう。そうなると、他の者もこらえきれず、


「このような人間など、殺してしまえばよかったのです!」


 ゲルミスが進言する。


「この人間が魔王様を助けたなど、信じられぬ」


 ロイドもレイアの言葉に疑問を投げかける。


「魔王様がこのような軟弱者になびくとは、何をお考えなのですか!?」


 フィナーンは他の者とは異なり、どうやら私に対して不信感を抱いているようだ。


 四天王から意見が出そろったところで、レイアは四天王を直視した後、ゆっくりと話し始める。


「おぬし達の考えている事はよくわかった。まあ、普通に考えて、そうなるわな。一人ずつ答えていくかのう」


 レイアはそう言うと、まずゲルミスを見る。


「まずゲルミスよ。人間だから殺すというのは短絡たんらく的じゃ」


 ゲルミスの表情が硬直する。


「わらわは死にかけたのじゃ。それなのに、こうして復活できた。それをやったのはここにいるタクトじゃ。この意味が分かるか、ゲルミスよ」


「はっ! ですが、人間ごときに……」


「それをやってのけたと言っておる。人間が魔王の命を救ったのじゃ。これは事実じゃ」


「魔王様…」


「命を助けられた存在を、殺す必要がどこにあるか。それがおぬし、そしてロイドの問いに対する答えじゃ」


 レイアはロイドへ視線をやると、ロイドも何も言えないという表情をしてだまっている。


「次にフィナーン」


「はっ!」


「おぬしは軟弱者とののしるが、おぬし蘇生そせいしたのはこのタクトじゃ。そして、わらわの命も救っておる。これだけの魔法を使え、魔族の命を救う事が、果たして軟弱者にできようか? どうじゃ、フィナーンよ」


「そ、それは……」


「おぬしもこの人間と戦ったのではないか? 違うか?」


「確かに戦いましたが、確かこの男は後衛こうえいにいて、私が倒されたのはほかの人間でございました」


「なるほどのう」


 レイアはフィナーンから視線をらさず続ける。


「ではもう一つ、この魔王城を今の状態に直したのは、このタクトなのじゃ」


 レイアの言葉にフィナーンの顔が引きつる。


「おぬしならこの意味が分かるよのう。人間達がどのような攻撃をし、魔獣や城をどのようにしたか、知っておろう。おぬしのおった第九階層も、大変だったじゃろう?」


「くっ……」


 フィナーンはうつむいてこぶしを固める事しかできない。私達に敗北し、蹂躙じゅうりんされた魔族の一人なのだから。


 フィナーンの様子を確認してから、レイアはガレウスに目を向ける。


「最後にガレウスよ」


「はっ!」


「実によい質問じゃ。ゆえに答えは最後に取っておいた。なぜわらわがこの人間との結婚を認めたのか」


 ガレウスはレイアの目をらすことなく、次の言葉を待つ。


「どうじゃ? 今までのわらわの答えを聞いていて、こやつのやる事、面白く思わなかったか?」


 レイアに聞き返され、ガレウスはしばし無言になる。やがて、ガレウスが口を開く。


「確かに、人間とは思えぬ奇想天外きそうてんがいな行動をする奴とは思いました。なるほど、我々が思う人間とは違うようですな。クライスライン様のおっしゃる通り、面白き事かと」


 彼の言葉を聞いて、レイアの目が輝く。


「そうじゃろう、そうじゃろう。わらわはな、タクトに復活の褒美ほうびとして何かやろうと提案したのじゃ。そしたらこの男、他の事には一切いっさい目もくれず、わらわにプロポーズしてきたのじゃ」


 四天王一同唖然あぜんとした表情になる。私は当然真っ赤になってしまう。恥ずかしすぎる!


「魔王のこのわらわにじゃぞ! こんな面白き男、魔界にもおらぬわ!! この人間の申し出を断る理由がどこにあるというのじゃ、ガレウスよ!」


 レイアの発言に、四天王達は抑えていた笑いをこらえきれず、一斉いっせいに笑いだす。


「ブワァッハッハッハッハ!!」


 しばらく皆の笑いが止まらなくなってしまう。私だけが笑うことなく、顔を真っ赤にしてうつむいている。


「げに愉快ゆかいですな、クライスライン様! 一本取られたとはまさにこの事ですな。いきおいとはいえ、良き相手を見つけられましたな!!」


 先ほどまでとは打って変わり、ガレウスがレイアに祝辞しゅくじを述べる。


「一本どころか百本取られてしもうたわ! こんなすごい奴、結婚してはなさぬようにせねばと思うたわ」


 レイアも笑いながらガレウスに返事する。私はレイアにそう思われていたのか。

嬉しいような恥ずかしいような気分にさせられる。


「よし、これでガレウスの問いにも答えられたな。皆よ、少し静まるのじゃ」


 レイアはそう言って、四天王の笑いが止まるのを待つ。皆が落ち着いた後、話を続ける。


「皆の意見に対し、わらわの見解を述べたが…… ときにフィナーンよ」


 レイアに指名され、一瞬驚く。


「おぬし、まだ納得なっとくしとらんのではないか?」


「そ、それは……」


「ほかの三人はすでにタクトの実力を見定めているようじゃが、おぬしだけはまだのようじゃのう」


「魔王様……」


 レイアはフィナーンに対して微笑ほほえむ。


「よい。わらわは責めているわけではない。どうじゃ? おぬし自身で確かめてみぬか? フィナーンよ」


「それはどういうことでございましょう?」


「ここでタクトと戦って実力を知ってみてはどうじゃ?」


 レイアから意外な提案がなされ、四天王達が驚く。私も当然驚いた。


「本当に、よろしいのでございますか?」


「ああ。わらわが直々じきじきに仕切らせてもらおう。タクト、よいな?」


 不意にレイアから視線を向けられる。皆の前で言われた以上、断ることはできない。


「わかった。いいよ、レイア」


「よし、では決まりじゃ」


 こうして、私とフィナーンの決闘が決まってしまった。この後、私はフィナーンと少なからずの因縁いんねんを持つこととなる。

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