第22話 「四天王からの報告と復活儀式」

 レイアが四天王の話をした直後に、城外の者から通信が入る。通信回線を開くと、二つのモニターがアクティブになり、それぞれに巨漢の魔族が映し出される。


「クライスライン様」


「ロイドか」


 声のぬしは、褐色かっしょくの巨体に大きなコウモリの翼を持つ人型の魔物である。耳は無く、代わりに長い角が下に象牙ぞうげのように伸びている。目つきはするどく、鼻は大きめ、あごの接合部から牙が飛び出している。


「タクトよ、あやつはバロールのロイドじゃ」


「バロール?」


 私は聞いた事のない魔物の名に聞き返す。


「バロールはデーモンの軍勢をひきいる最強の魔族じゃ。そしてロイドはわらわの四天王の一人である」


 レイアはもう一つのモニターを指さし、私に教えてくれる。


「そしてもう一人が、ピット・フィーンドのガレウス。デヴィルを束ねる君主にして、地獄の底の魔物じゃ。彼もまた、わらわの四天王の一人である」


 ピット・フィーンドはバロールと姿は似ているが、こちらは真紅しんくうろこおおわれた巨体にコウモリの翼、頭には立派な四本の角を持ち、口の両側から牙がむき出している。


「二人とも強そうだ」


 私はモニターに映る二人を見て言った。


「二人とも、いいタイミングで通信してくれたな。先に紹介しよう。わらわのとなりにおる人間は、わらわの夫となったタクトと申す。今後この国を共に支えていく存在じゃ」


 レイアの言葉に驚愕きょうがくの表情を見せる二人。実にいいリアクションだ。


「ロイドよ、報告があるのじゃろ? 先ほどのリオリス側の通信の事じゃな。申してみよ」


「はっ! 失礼いたしました。申し上げます。先ほどの全土への通信の内容は誇張こちょうではなく、ほぼ事実です。異なる点は、全ての軍を見せたわけではないという事……」


 ロイドはひざまずきながらその後も淡々たんたんと報告する。彼の報告で一番興味深かったのは、ゴブリン兵の数である。敵軍の半数近くがゴブリン兵という事だ。スケルトン兵もかなりの数を占めるとの事だが、これなら今後の兵力増強次第では、何とかなるかもという光明こうみょうが見えた。


 ガレウスもまた、隠密おんみつ部隊が収集した敵戦力の情報を克明こくめいに報告してくれる。だが、私はそこまで真剣には聞かず、何をすべきかを模索もさくしていた。


 両名の報告は二十分程におよび行われた。レイアは彼らの報告に真剣に耳をかたむけている。彼女の中では色々と策が思い浮かんでいるのだろう。彼らの報告が終了すると、レイアが指令を出す。


「ロイド、ガレウスよ。報告ご苦労じゃ。二人に軍をそのままに、一度我が元へ戻るよう命じる。できるだけ早く戻ってこい」


「かしこまりました!」


「直ちに帰還きかんいたします」


 ロイドとガレウスは返事をし、通信を切る。巨漢二人が城に戻ってくるという事か。その後すぐ、レイアが私の方を向いてたずねる。


「タクトよ。二人が戻るまでに、死んでしまった二人の四天王を復活させようと思うが、よいか?」


「ああ、もちろん。今から始めるか?」


「うむ。では移動しよう。まずはゲルミスから始めるか」


 レイアはそう言うと、私を連れて第八階層にテレポートする。修復された大広間は、かつての輝きと荘厳そうごんさを有している。


 ここで私達勇者パーティーは、八つ首ヒュドラと四天王の一人、コルヌゴンと戦った。攻略に半日を要した難敵であった。


「よし、ではゲルミスの肉体を再生してみるぞ」


 レイアはそう言うと、呪文を唱え始める。復活の時とは違う色の魔法陣が浮かび上がり、光を放つ。


 三十秒ほどで呪文を唱え終えたレイアは、両手をかざして魔法陣の中央に念を込める。


 中央から光の柱が上がり、コルヌゴンの肉体が出現する。戦いで付いたと思われるいくつかの傷が見えるが、五体満足の姿である。武器や防具、衣服も身にまとった状態で再生している。


「やはり時間はかかってしまうが、成功したようじゃな」


 レイアが安堵あんどの表情で話す。


 先ほどの四天王の二人同様、巨漢だが、青灰色の翼に身体は大きめのうろこおおわれている。三メートルほどはあろう巨体がうずくまってしている。


「あとはタクト次第じゃな」


「ああ、やってみるよ」


 レイアが頑張ってくれたのだ。無駄にはしたくない。だが、まだうまくいくかはわからない。魔族に聖魔法が通用するか。


 私はインベントリから一冊の本を取り出す。餞別せんべつとしてエレノーラ様から預かった魔導書だ。空中に浮かせたまま、自動で復活の項目のページをめくる。


 復活の呪文はいくつか試したことはある。だが、魔族や魔物を復活させたことは無い。と考えている最中にある呪文を見つける。


「あ、これならいけるかも」


 私は聖獣を復活させられるという呪文を試すことにする。多少の詠唱えいしょうは必要らしい。


 私はインベントリから約束された聖杖プレッジーハートロッドを取り出す。エレノーラ様からさずかった復活を得意とする杖だ。今回使用するのは成功確率を高めるためである。私は本を固定し、ぶっつけ本番で呪文を唱え始める。


「あまたの聖霊せいれいよ、あまたの神々よ、我が名において今一度その魂を呼び戻したまえ! 契約蘇生術コントラクト・リザレクション!」


 呪文が発動し、コルヌゴンの身体を光がおおう。数刻後、動かなかった身体がビクンと跳ね、小刻みにふるえだす。肉体は蘇生そせいされたようだ。あとは魂が戻りきるかどうか。


「レイア、一緒に闇魔法でパワーを注ぎ込もう」


「わかった。やろう」


 私とレイアは闇魔法でコルヌゴンの肉体に闇の力を注入する。恐らく今の状態は聖属性の力にあらがっているのだろう。闇の力を浴びた肉体から痙攣けいれんみ、動きを止める。そして魂の鼓動こどうを感じ取ることができた。


「おおおお!!!」


 レイアが興奮した表情で叫ぶ。どうやらこの肉体の主の気を感じ取ったようだ。

レイアがコルヌゴンに駆け寄る。


「聞こえるか、ゲルミスよ!! わらわじゃ! クライスラインじゃ!!」


 レイアの必死の叫びに肉体が呼応し、ピクリと動く。やがて、ゆっくりと両目が開く。


「お、俺は……」


 意識を取り戻したコルヌゴンは、ゆっくりと上体を起こし、頭を上げる。私とレイアは互いを見て確信する。


「成功だ!!」


 私達は満面の笑みで目の前の成功をたたえあった。どちらが欠けても成しえなかった、まさに愛の共同作業である。復活したのはおぞましい魔族であるが。


「ゲルミス、わらわがわかるか?」


 レイアがゲルミスに語りかける。


「もちろんです、我があるじ。私は魔王様直属ちょくぞく、四天王が一人、ゲルミスでございます」


「よくぞ申した!再び会えて嬉しいぞ」


「ということは、俺は死んでいたのか…… クライスライン様、申し訳ございません」


「よいのじゃ。またわらわを支えてくれるな?」


 レイアの問いに対し、ゲルミスは改めてレイアのもとにひざまずき、頭を下げる。


「はっ! このゲルミス、全身全霊をもって魔王様の力となり、忠誠を誓うものであります!」


「うむ。よくぞ申した」


 かつての部下を復活させたレイアの表情は明るい。そして復活し、再びレイアに忠誠を誓うゲルミスの姿は、かっこよく映った。


 ゲルミスは頭を上げ、私の存在に気づいたようである。


「クライスライン様、ここにおる人間は一体? 確か、我とも戦った敵であったはず」


「うむ。その事については皆がそろってから改めて話す。今はもう一人、フィナーンを復活させることが先決じゃ。ゲルミスよ、わらわ達に付いて参れ」


「はっ! かしこまりました」


 我々はもう一人の四天王を復活させるため、第九階層へとテレポートする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る