第18話 「魔王からとんでもない恩賞を頂きました!」

「テレポート」


 私は呪文を唱え、レイアのいる私室へと移動する。レイアは解析かいせきを終えており、モニターの数も少なくなっている。


「お疲れ様、タクト。魔王城は完全に生き返ることができた。そなたのおかげじゃ。

しかもこんなに早く。何と礼をすればよいやら」


 レイアは目をうるませながら私にねぎらいの言葉をかけてくれる。素直に役に立てたことが嬉しい。


「レイアの役に立てて、私も嬉しいよ。レイアの今の言葉で、十分嬉しいんだ。ありがとう」


「いや、礼はきちんとさせてほしい。何がいいか……」


 レイアはそう言って考え込む。しばらくして、何かひらめいたようだ。


「そうじゃ! タクト、そなたにわらわの寿命じゅみょうを少し分けてやろう!」


「ええええええ!!!!!!」


 レイアの衝撃発言に私は驚かずにはいられなかった。寿命じゅみょうをくれるだと!? まったく意味が分からない。


「何を驚いておる?そんなに嬉しいのか?」


「いや、普通に驚くでしょ!! それにそんな大事なもの、他人にあげてしまっていいのか?」


 私の反応に、レイアはやれやれといった表情で返す。


「魔族ではそんなに特殊な事ではないぞ。わらわも両親から受けておったし。それに、魔王は何千歳も生きるのじゃ。少しくらい分けても大して痛くない」


 私の頭はパニックで真っ白だ。何てことだ。


「それに、タクトには少しでも長く生きてもらいたいのじゃ。わらわと共に、少しでも長くいてほしいのじゃ……」


 そう言いながら、レイアのほおは少し赤らんで見える。私は頭が真っ白で気づいていなかったが。


「タクト、それでよいな?」


「ちょっと、情報を整理させてくれないか?」


 私はパニック状態を脱したいがためにレイアにお願いする。


「うむ。しばし待とう」


 レイアの言う通り、寿命じゅみょうが延びればレイアと共に過ごす時間は増える。それは私も望むところだ。


寿命じゅみょうが延びても、老化はするんだな?」


「ああ。じゃが、ある程度の不老もかけてやるぞ」


「それはありがたい! あと、どのくらい延びるんだ?」


「そうじゃな。二、三百年くらいかのう。まあ、ハーフエルフの寿命じゅみょうくらいか。それでも人間の寿命じゅみょうよりは一緒にいる時が増えるじゃろ?」


「そんなに増えるのか!?」


 私にとっては驚きの連続だった。魔王というのはやはり人間には遠く及ばないすごい存在なのだと認識させられる。


「まあ、ともかく実践して与えてやろう」


「わかった。そういう事なら、ありがたく受けさせてもらうよ」


「うむ」


 レイアは私の意志を確認すると、早速さっそく儀式の準備をし始める。認識できない言葉で高速で呪文を唱え始め、床に魔法陣が浮かび上がる。そして私に近づき、自らの親指を傷つけ、流れる血を私の頭に注ぐ。


 私は不覚にも、レイアの美しい姿に本能が出てきてしまい、興奮し始める。レイアが身を削ってくれるところなのに、何やってるんだ私は!


 そのままレイアが私の身体を抱き寄せる。レイアの肌と胸が密着し、私の鼻から血がれ落ち、股間こかんが力強く勃起ぼっきしてしまう。もう全くあらがえなくなってしまっている。


 レイアは私の変化を気にするそぶりも見せず、粛々しゅくしゅくと儀式の手順を進めていく。レイアの身体から温かいオーラのようなものが流れ込んでくるのを感じる。魔族に愛はないと言っていたが、愛と言ってもいいような感じである。


「では、さずけるぞ。タクト」


「お、お願いします」


 快楽が脳を支配している中、言葉にならない声でつむぎだしていた。


 レイアが意味不明な言葉で呪文をめると、私の中に一気に強力なエネルギーのようなものが流れ込んでくる。


 快感とはまた違う、生命の息吹いぶき想起そうきさせる感覚。それは聖なる力や加護とはまた違ったたぐいのエネルギーであった。想像を絶する活力が私の中の魂というべき部分ににみなぎる。


「ふぅ、よし、終わったぞ」


 レイアが私の身体を離し、一仕事終えたように伝える。私はさずかった感覚にしばし心ふるわせている。


「あ、ありがとう。レイア」


 感覚に身をゆだねていたかったが、振り絞って言葉を返した。私の身体も魂も、見違えるように変わったのを感じている。


「成功というには物足りぬが、三百歳ほどは与えられたはずじゃ」


 とんでもない!! 十分すぎる寿命じゅみょうに私は打ちふるえてしまう。自然と私の目から涙があふれだす。


「こんな素晴らしいものを与えてくれて、感謝してもしきれないよ」


「よいのじゃ。わらわも嬉しいのじゃ。と、共に生きてゆこうぞ」


 レイアはまた少しほおを赤らめて言う。いとしい人がさらにまぶしく映っている。


 こうして、崩壊寸前だった魔王城は修復され、私は働き以上の恩賞をレイアから受けることになったのである。

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