第18話 「魔王城を修復するぞ」

 私とレイアはまず、魔王城の修繕しゅうぜんに着手することにする。もちろん人手?となる魔物達の復活も重要なのだが、まずは拠点を元に戻すめどをつけたかったのである。


 これまで、私の事情を結果的に優先させてしまった。結婚してもらった手前、本来なら先にすべき事だったのだ。


「レイア、この城の状態はわかるのか?」


「ああ、ある程度ならわかるぞ。映像に出してみる」


 レイアはそう言うと、この前やったように頭上にたくさんのモニターを出して見せる。たくさんの映像が映し出されるが、どこもひどい有様である。


「これはひどいな。正直、どこから手を付けていいかわからない」


 私は腕組みしてうなってしまう。糸口すらつかめそうになかった。


「そうじゃな。城は十層構造で、さらに地下にもフロアがあるからのう。地下は直す必要はないがな」


「とりあえず、中から修復してみるか」


「うむ。それでいい」


 レイアは各階層のフロア図を出してくれる。どこの階層も、関係が無かった部屋を覗き、損傷そんしょうひどいようだ。私は各箇所かしょを直すことをあきらめ、別の事を考えていた。


「レイア、方法が三つあるんだが、いいかな」


「ああ、どういう方法じゃ?」


「ひとつは、全てを新築する方法。時間はかかるが、レイアの欲しいものも作ることができる」


「そこまでは望んでおらぬのう。時間もできるだけかけたくない」


「そうか。次に、私達が来る前の状態に時間を巻き戻す方法。これは城自体にのみ効果があり、魔物とかは元に戻せない」


「なるほどのう」


「最後に城の素材を修復する方法。これは魔力を使うが、私達が壊していない部分で老朽化ろうきゅうかしているところも直せる。どれがいいと思う?」


 レイアは私の提案を聞き、少し考えて答える。


「そうじゃな。最後のやつがいいかのう。時間がどのくらいかかるのか気になるところじゃが」


「そんなにかからない。魔力の問題だけかな。でもそれも大丈夫だと思う」


「え? 何を言っておるのじゃ?? 魔法とはいえこれだけの状況じゃ。わらわとて、かなりの日数を要するぞ」


 レイアがあせり出す。確かにこの状況を見ればそうなるのは当然だ。だが、私にはエレノーラ様と試行錯誤しこうさくごし、きたえられた確信がある。


「心配しなくていいよ、レイア。ちゃんと直すから」


 私はレイアに見せてもらった図面と被害の状況を見て、第五階層の大広間を思い浮かべる。


「レイア、行ってくる。ここで待っていてほしい」


「何を言っておるのじゃ?」


「テレポート」


 私は魔法を唱えると第五階層の大広間へ移動した。対峙たいじしたキマイラとノーブル・サラマンダーはなかなかの強敵であった。破壊された柱の残骸ざんがいなどが、あの時の戦闘の壮絶さを今でも残している。


「よし、この辺りだな」


 私は大広間の入口付近から五メートルくらいのところに降り立つ。そしてしゃがんで床に両手をつける。少しの間、しっかりと念を込める。


「ハイリペア!!」


 私が呪文を唱えると、魔法が効果を発揮しだす。フロア全体が光り、光は天井や下層へも広がりだす。ひび割れ、壊れていた地面や天井は、元の状態に戻っていく。私はそのままの体勢で、魔法をかけつづける。


「やはりこの城は広くて大きい。魔力を持っていかれる……」


 天井や下層へ広がる光は、順調に効果をもたらし続け、破壊された部分を次々と修復していく。効果を受けた城の素材は、新品同様の輝きを放っている。


「こんな事が!? 凄まじい威力というか、こんなの見たことないぞ!!」


 モニターに映し出される各階層の状況をせわしなく確認しながら、レイアが驚きの声を上げる。


 絶望的に破壊されていた場所さえ、次々に新品同様に変わっていくのだ。レイアが驚くのも無理はない。


 魔法はそれぞれ第一階層と第十階層にまで及ぶ。レイアがいる場所も魔法の効果が及び、新品同様に変化する。


「おおおお!! 素晴らしいな!!」


 私は上からかすかにこだまするレイアの叫びを聞いて、魔法を停止する。約一分程の間かけ続けただろうか。久々に大仕事をしたせいか、その場にへたり込む。


「ぶはぁ!! さすがに疲れた!」


 私はだらしなく床にうつせになり、乱れている息を整えようとする。全魔力量の半分は持っていかれた気がする。師匠がこの姿を見たら、しかってくるかもしれないな。まだまだ修行不足だ。


「大丈夫か、タクト。こちらも修復したようじゃぞ。起き上がれそうか?」


 そんな私の姿をレイアも確認し、声をかけてくれる。どうやらレイアは、ピンポイントで拡声器のように伝えられるようだ。


「ハハ。みっともない姿で申し訳ない。もう少しこのままにさせておいてほしい……」


 私は少し息が整い、何とか言葉を振りしぼる。


「素晴らしい働きをしてくれたことに感謝する。わらわはもう少し城の状況を調査する。ゆるりとしておいてよいぞ」


「ああ。そうさせてもらうよ」


 私は返事すると、しばらく休息した。そのうち気力がいてきたので、ヒールをかけて身体をいやす。


「よし、これなら大丈夫そうだ」


 ゆっくり身体を起こし、懐のMP回復ポーションに手をかける。栓を開け、口に含むと、魔力が回復するのを感じることができた。


「こいつも作らないといけないよな」


 魔界に来てしまった以上、同じものはないはず。今は無理だが、機を見て素材があるかレイアに聞いてみよう。


「じゃあ、仕上げにかかるとするか」


 一息付けた私は、残りの仕事を片付けるべく動き出す。


「テレポート」


 魔法を唱えると、私は魔王城上空に移動する。宙に浮いたまま、下にそびえる城に両手をかざす。


「あとは外壁を直す。ハイリペア!」


 私は呪文を唱えて魔法をかけた。城中を光が包み込み、少し傷んでいる外壁を新品同様に変化させていく。最初の時よりそれは楽におこなわれた。基礎部分はほぼ修繕しゅうぜんできていたから。


「終わったよ、レイア」


 私はレイアに向かって連絡する。


「感謝する、タクト。戻ってきておくれ」


 言葉は少なめだが、レイアの気持ちがこもっているのを感じ取ることができた。彼女の役に立てて、すごく嬉しい。

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