第10話 「勇者と聖女、囚われの身に」

「レイア、私は少し外出しようと思う」


 昨日レイアを復活させてから色々な出来事があった。一区切りついた今、残してきたイグノール達の事が気になっている。エレノーラ様が解任された今、早く行動してし過ぎる事はないはずだ。


「どこへ行くつもりじゃ?」


「クラヴェール王国へ一度戻ろうと思っている。仲間達の事が心配なんだ」


「そうか。心配とはどういう事じゃ?」


「実は、国王陛下の動きが思ったより早くて私達の立場が危ういんだ。仲間達に早く王国を離れるよう伝えたいと思っている」


「ふむ。ということは、タクトも今動くと危険ということじゃな」


「まあ、見つかるとかなりマズい事になると思う」


「なるほどな」


 レイアは少し考えこんだ後、私に提案する。


「では、わらわも少し協力しよう」


「それは願ってもないことだが、いいのか?」


「構わぬ。王国には魔族の偵察部隊を配置しておる。今から状況を報告させるから一緒に見てみよう」


「見てみる?」


 レイアの発言に少し引っかかる。『報告を待つ』とかではないのか。


「うむ。ここで部隊の眼を映し出すのじゃ」


 レイアはそう言うと、右手をかざして動かす。すると頭上にたくさんのモニターが出現し、王国内に潜入している斥候せっこう達の映像が映し出される。


「これはすごい!」


「タクト、そなたの仲間というのは誰じゃ?」


「そうだな。勇者イグノールと聖女エレノーラはいないか?」


「よし、探してみよう」


 レイアはそう言うと斥候せっこう達に命じ、たくさんの映像の中からイグノールとエレノーラ様に関するものを抽出ちゅうしゅつしようとする。


「うむ、これじゃな」


 レイアは数枚の映像を示し、イグノールとエレノーラ様を映し出すものを出してくれる。


「おお、すごいな」


 私は感心して映像を確認する。そこには兵士達に囚われたイグノール達とエレノーラ様の姿がそれぞれ映っている。


「あっ! 遅かったか!!」


 思わず叫んでしまう。事態は想像していた以上に悪い方向で動いている。


「どうやら連行されておるようじゃな。で、どうする?」


「助けに行きたいのは山山やまやまだが、うかつに動くのは危険かもしれない。もう少し情報を集めたいな」


「よき判断じゃ。そういう事ならもっと王国内の動きを探らせてみるぞ。それでよいな」


「ありがとう。情報が集まったら私も動こうと思う」


「うむ。まずは急ぎ必要な情報を集めよう」


「ああ、レイアがいてくれて助かった」


「こういうのは魔族が得意とするところだ。気にするな」


 数刻後、レイアの放っている斥候せっこう達が必要な情報をそろえてくれる。


 本日未明に国王クラヴェール五世自ら、『勇者一行と聖女に謀反むほんの動きありとの理由で、正午過ぎに当事者達を処刑する』と緊急放送で全国民に声明を発表していた。すでに今、国民の知るところとなっている。


 クラヴェール王国城内。城に滞在する兵士達は、自らに課された命に従いあわただしく動き回っている。その中の一人、レガリック将軍が国王の間に到着し、今まさに報告しようとする。


「国王陛下」


 レガリックは一礼し、赤絨毯あかじゅうたんを進み、臣下達に一礼した後、国王に対しひざまずく。


「報告せよ」


「申し上げます。勇者イグノール一行と聖女エレノーラの所在が判明。現在兵士達がその身柄を確保し、城内の収容所に連行しております」


「うむ。ご苦労である。身柄を確実に収容し、正午の処刑に間に合うよう連行するように」


 クラヴェール五世の発言に迷いは微塵みじんも無い。


「かしこまりました! 身柄を収容後、粛々しゅくしゅくと仰せの通りに任務を遂行いたします」


「うむ、頼んだぞ。下がってよい」


「はっ! ではこれにて失礼いたします」


 レガリックは国王に一礼し、臣下達にも一礼して国王の間を後にする。




 一方、イグノール達は失意の中にいる。早朝に出立しゅったつしようと各自準備を整え、出発した矢先の出来事だった。


 城下町を巡回していた兵士の一人に見つかり、引き止められてしまう。兵士と話し合っている間に、ほかの兵士達も続々と集まり、囲まれてしまう。


 イグノールは兵士達の話に応じ、城に連行されることとなる。途中、緊急放送を聞く事になりクローディア達が抵抗しようとする。しかし、事を荒立てたくないイグノールは彼女達を制止し、大人しく連行に応じたのである。



 エレノーラもまた同様であった。タクトの依頼に応じ、イグノール達に接触した彼女は伝言を伝えた後、大聖堂に戻って引っ越しの準備を急いでいた。


 翌朝、緊急放送が流れて数刻とたないうちに、王国近衛兵達が大聖堂を包囲し身柄を拘束されることとなる。


 勇者一行と聖女の処刑の時まであと三時間少々。事態は一刻の猶予ゆうよも無い状況である。

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