第5話 「親友」
私は冒険者ギルドの前にテレポートする。
凱旋した時に出会った親友に会うためである。
ギルドの扉を開けると、冒険者達がクエストを求めて多数集まっている。
魔王が倒されたとはいえ、ダンジョンの依頼はまだまだたくさんあるようだ。
私が辺りを見渡すと、何人かのパーティーが楽しげに談笑している姿を見つける。
その中にひときわせわしなく話している男がいる。
私はその者のもとへ歩みを進める。
男は話に夢中だったが、私に気づいたのか、
話を止めてこちらを見て笑いかけてくる。
「おお!タクトじゃないか。よく来たな」
「やはりここにいたんだな。グレッグ」
彼が私の親友、グレッグ=ランデールである。
「王様にはもう会ったのか?」
「ああ。グレッグと話がしたくて来たよ」
「そうか。ここでは何だから、いつものところに行くか」
「そうしてもらえると助かるよ」
「じゃあ、行くか」
グレッグはそう言うと、先ほど話していた人達に別れの挨拶をし、
私と行動を共にする。
私達はギルドを出て、行きつけの酒場へと向かう。
五分ほど歩くと、少し古びた建物が見えた。私達はその中へ足を運ぶ。
イグノール達と行動を共にしてからは来ていなかったが、
いつものなじみある雰囲気はそのままである。
私達はカウンターではなく、小さなテーブル席を選んで座る。
「お前は何にする?」
「そうだな。じゃあホットミルクで」
「相変わらずだな。よし、注文しよう」
グレッグは手際よく店員を呼び、注文をはじめる。
少しして、店員がホットミルクとビールを持ってきて、
丁寧にテーブルに置いてくれる。
私が話を切り出そうとした時、グレッグが右手を前に突き出して制止する。
「タクト、まあ聞いてくれや」
グレッグが左手にジョッキを持ち、一口飲み干す。
ジョッキをテーブルに置き、話し始める。
「実はな、俺、カーラを彼女にしたんだ」
グレッグが柄にもなく顔を赤らめる。
「おお、それはめでたい。おめでとう!」
カーラとは私が冒険者ギルドでグレッグのパーティーにいた頃のメンバーで、
シーフ兼魔導士の人間の女性だ。
「もう嬉しくってよぉ、どうしてもお前に報告したかったんだ」
「それにしてもよくオーケーしてくれたな、カーラさんも」
「だろ?13回目だぜ。ようやく認めてくれたんだ」
「お前、12回もフラれたのか!?」
何なんだこの精神力は?この男にそれほどまでの根性があったとは。
フラれたら次、と効率重視の男だと思っていたのだが、意外だ。
「誰かれ構わず声をかけまくるチャラいお前からは想像もつかなかいな」
「そうだよなぁ。俺もまさかこんなに引きずるとは思ってもみなかった」
「それにカーラさんはどう見てもお前の好みのタイプではないと思ってたんだが。
もっと綺麗で胸の大きい女性達に何十人とアプローチしてたじゃないか」
「確かに俺もそう思ってた。でもよ、相棒。
カーラは他の女に無い魅力を持ってた。
芯の強さとか、自分の意見とかよ。顔とかスタイルとかが全てじゃねえ」
グレッグはビールを飲みながらのろける。
「お前がそれ言っても説得力に欠けるぞ」
「まぁ、そのせいで俺は12回もフラれたんだがよ」
「すごいな。お前のそういうところ、尊敬する」
私はそう言った。が、それが無くても私はグレッグという男を尊敬している。
彼は私に無いものを持っている。そのせいで鬱陶しく、
周りから嫌われる節もあるのだが。
「そう言ってくれるのはお前だけだよ、タクト」
「カーラさんとは結婚するのか?」
「ななな何言ってるんだ!まだ付き合う約束をしただけだ」
グレッグは顔を赤らめ狼狽する。
「そうか。でも、もう他の女性に言い寄ったりできなくなるな。
それはそれで寂しいかも」
「そんなことはないぞ。これからもいい女がいたら声をかけると思うぞ」
「アホかお前。
そんなところをカーラさんに見られたら、一気に嫌われるぞ」
「まぁそれもそうだな。自重する」
「やっぱりお前はアホだ」
「そんなはっきり言うな、相棒」
「まぁ、グレッグらしくて安心したよ」
「どんな安心だよ」
「まぁ、しっかりカーラさんにだけアピールしてくれ。
いずれ結婚の連絡を待ってるよ」
私は半ば諦め気味にグレッグに告げる。この男がどこまで本気かが試されるな。
「ああ、期待していてくれ」
グレッグがはじける笑顔を見せながら返してくる。ま、幸せならそれでいいか。
「あいつの笑顔がまぶしくてよ。俺は何度もあの笑顔に救われた。
ギルドで一人目立たずいた時はあんな女だとは俺も思わなかったよ。
あの時お前がカーラを誘ってくれて、本当に良かったと思ってる。
お前には本当に感謝している」
「お前にそう言ってもらえて、私も嬉しいよ」
そう言って私はホットミルクを口にする。
「グレッグ、私もお前に救われてるんだよ」
「ん?どういう事だ」
「カーラさんだけじゃなくて、その前からな。
お前はずっと何人もの女性に言い寄ってはフラれてただろ」
「ああ」
「それで、お前にもうそんな事をやめろって忠告したことがあっただろ」
「あったな」
「その時、お前は「諦めたくない」って私に言ったじゃないか」
「言ってたな」
「そういうお前の事を、私はずっとすごいと思ってたんだよ」
「そうなのか」
「ま、お前にとっては当たり前なのかもしれないな。でもなグレッグ。
私はそういうお前が羨ましかったんだ」
「ん?」
「私にはとても真似できない」
「じゃあ、タクトはもし好きな人がいても、諦められるのか?」
「諦めるしか選択肢がないと思ってる」
「そこが違うんだよ、タクト。
俺は、自分に嘘をつきたくない。それだけだ」
「どういう事だ?」
「確かに、告白しても、相手がある事だから、
必ずしもオーケーになるとは限らない。
いや、断られることが多いだろう。
けどよ、「もう自分ではダメだ」って決めつけんなって話」
さすがグレッグ。痛いところを突いてくる。
「俺だって「ああ、これはもうダメだな」って思う事は何度もあるさ。
でもその時、相手の事を諦められない場合は、
時機を見て何度かアプローチしてみるんだよ。
そうやってうまくいった時もあるからな」
「本当か!?」
「ああ。もちろん相手の気持ちも大事だけどよ、要は自分がどうしたいかなんだよ」
グレッグはそう言うと、店員を呼んでビールのお代わりを注文する。
「そうなのか。やっぱりお前はすごいよ」
「タクト。別にお前が過去に何があったかは聞く気も無いし、
俺にとっちゃどうでもいい。
だがよ、女なんてこの世にいっぱいいるんだ。
今後お前が本気で好きになる人が現れる可能性だってある」
「グレッグ…」
「だからよ、そろそろ許してやってもいいんじゃないか。過去のお前を」
「私はそんな…その…」
「俺も数えきれないほどフラれてきたから、お前の気持ち、わからなくもない。
いや、違うのかもしれんな。まぁ、それはいい…
俺が言いたいのは、「今を生きろ」って事だよ」
「グレッグ、ありがとな」
「別に感謝されることじゃないさ、相棒。今はそれができなくったっていい。
俺は、お前にも幸せになってもらいたい。それだけだ」
私の頬から涙があふれ出る。
この男の言葉で、私の心は少し癒されたのかもしれない。
「おいおい泣くなよ。それより、お前が言おうとしてた事、
そろそろ聞かせてくれないか」
グレッグの言葉に私は涙を拭い、落ち着きを取り戻してから話し始めた。
国王陛下から言い渡された内容のみを簡潔に伝えた。
「それは酷いな。国王陛下は何を考えてるんだか。
偉い人の考える事は俺にはわからん」
グレッグらしい反応が聞けてある意味ホッとする。
「なあ、グレッグ」
「何だ?」
「もしかしたら、今回が最後になるかもしれない。
私達は追われる身となるから、最悪死んでしまうかもしれない」
「縁起でもない事を言うなよ、相棒」
「私もそうなるつもりはないよ。
ただ、何が起こるかはわからないから、少し覚悟だけはしてほしいと思って」
「なるほどな、わかった」
グレッグはそう言うと、残っていたビールを飲み干す。
私もホットミルクを最後まで堪能した。
「で、これからどうするんだ?」
「ああ、この後エレノーラ様に会いに行き、
その後にもう一度イグノールと話をしようと思ってる」
「そうか。俺はこの後カーラと待ち合わせする約束をしているから、
この辺でお開きにするか」
「わかった。会いに来てよかったよ。ありがとう、グレッグ」
「俺も会えて嬉しかったよ。色々大変かもしれないが、くれぐれも気をつけろよ」
「ああ」
私とグレッグは別れの挨拶をし、代金を支払って酒場を後にした。
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